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バンド若草物語始動

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 金曜日の放課後、樹子の部屋で3人が顔を合わせていた。
 園田樹子。
 高瀬みらい。
 淀川与一。
 未来の日本の音楽シーンをリードするかもしれない3人が集っていた。
 樹子はYMOの結成時の真似をした。部屋にこたつを置き、みんなでみかんを食べた。
「あたしたちでバンドをやる。目標はあたしたちの音楽を世界に発信して、YMOを上書きすること」
「さすがにそれは無理だろ。YMOは結成時からプロフェッショナルの集まりだった。おれたちはただの高校生だ」
「ヨイチ、あなたらしくないわね。常識的過ぎることを言わないでよ!」
「おれはけっこう現実的なんだよ」
「夢を見なさい。夢に挑みなさい。夢を叶えなさい」
「夢なら夜に見てる」
「その夢じゃないよ、ヨイチくん」
「未来人、おまえも乗り気なのか?」
「うん。目標はどうでもいい。でもこのメンバーで音楽をやりたい!」
 ヨイチはみかんを口に入れた。むしゃむしゃと食べた。
「おまえに何ができる?」
「何もできない!」
 みらいは無邪気だった。
「未来人にはヴォーカルをやってもらうわ。この子、なかなかの美声を持っているのよ」
「おれがギター、おまえがキーボードか」
「そうよ」
「ベースとドラムスは?」
「いまのところはなし。この3人でバンドを始動させるわ」
 ヨイチはにっと笑った。
「まあいいや。おまえの道楽につきあってやるよ。いちおう彼氏だしな」
「いちおうなの?」
「いちおうだ」
「嫌な人」
 樹子は心から嫌そうだった。
「バンド名はどうする?」
「とりあえず『園田樹子と仲間たち』でいいんじゃないかしら?」
「それなら『淀川ヨイチと仲間たち』だろ?」
「バンドマスターはあたしよ。それだけは譲れない。嫌なら参加させない」
「わかったよ。しかしそのバンド名は却下だ」
「『バンド若草物語』はどうかな?」とみらいが言った。
「いやよ、そんなダサい名前」
「それ、いいじゃないか。『バンド若草物語』。なんか格好いい!」
「ヨイチ、あなたそんなセンスしてたの?」
「ああ、オルコットは大好きだ」
 ヨイチはにっと笑っていた。
 ルイーザ・メイ・オルコットはアメリカの作家で、『若草物語』は彼女の自伝的小説だ。
「オルコットいいよね!」
 みらいは花のように笑っていた。
 つられて樹子も、にんまりと笑ってしまった。
「いいわ、バンド名、『若草物語』で」
「やったあ!」
 樹子は冷蔵庫に行き、ペプシコーラを3缶持ってきた。
「バンド若草物語の結成を祝して乾杯しましょう」
「コーラでか?」
「コーラでよ。あたしたちは高校生よ。仕方ないでしょ」
「わたしはコーラが大好きです! カンパーイ!」
「カンパーイ! しまった、音頭を未来人に取られた!」
「カンパーイ! しまった、未来人に音頭を取られた!」
 こうして、バンド若草物語が始動した。
 彼らがメジャーデビューできるのか、この時点では誰も知らない。
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