ご主人様の枕ちゃん

綿入しずる

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Ⅰ‐翡翠の環

首輪ⅰ*

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 主人の仕事が終わると風呂の支度がされた。俺はまた尻を洗われた。今日はちゃんとした便所で出すことが許されたのは幸いだったが、便所まで連れてきた主人が横で見ているのだからあまり差がないような気もする。
 羞恥に頭が痛いまま、また素っ裸になって、床の上で主人に体を差し出す。昨日と違って湯を焚かれた浴室は湯気に満ちていて暑かったが、寝そべったタイルの床はひやりとしていた。
「足を抱えていろ」
 開いた膝を抱えて、股を晒す恥ずかしい格好に堪える。主人の視線から少しでも逃れたくて目を逸らしたが、怖くて迫ってくる手を確かめずにはいられなかった。
 指を入れられるのだと思って身構えていたら、陰茎を掴まれた。何かつけて滑る掌で萎びた物を揉んで擦られる。
 今日は命じられてもいないが、ぬるぬると動く指が敏感なところを刺激するとどうしても勝手に硬くなってくる。息と声を呑んで唇を噛みしめた。このままされたらまた出してしまいそうだ。
「まだ射精するなよ」
 見透かすように主人の声が言うのでどきりとする。
 主人が左手の動きを緩める陰で、右の手も尻へと近づけるのが見えた。今度こそ指が入ってくる。
「っ……」
 痛みと圧迫感に体が強張る。恐怖心ばかりは一度目より和らいでいるのは、今のところ想像していたよりは痛みがなくて、血も見ていないからだ。それでも怖いものは怖いが、早く終れと祈るほかはない。
 俺の怯えに構わず主人は手を動かし始めた。出し入れされるうちに変な感覚が走り、びくんと陰茎が脈打ち先走りが垂れる。
「ここが性器の裏だ。気持ちいいだろう?」
 硬くなった物を示すように握って先端を捏ねながら、中の指も同時に動かされる。確かな刺激を与えられながら何度も裏側を擦られるとぞわぞわと腰のあたりが震えた。
 努力して姿勢を維持する俺に主人は容赦なく、陰茎も中も擦り続けた。嫌だと思うよりも気持ちよさが勝ってきて、イきたいと思いはじめる。促すように主人の動きが早くなる。
 ――けれど、なかなかその時は来ない。主人の手は一層強く陰茎を擦るのに、衝動が高まるばかりで苦しくなる。
「っ、ぁう、……っ――いや、」
 滲む涙で視界が霞んできた。俺の体液と主人が使う液体と、混ざって垂れたもので腹の上に水溜りができているが、どうしてもイけない。強い快感が押し寄せてくるが果てがない。乱れる呼吸と共に抑えきれない声が漏れてがくがくと体が震えてきた。
 もうだめ、もういやだ。懇願の言葉が口を突いた。
「ごしゅじ、さ、も、ゆるして……!」
 上擦る高い声。主人が眉を寄せるのが見えて怖くもなったが、それ以上につらくて駄目だ。
「っや、だ、もう――」
 この姿勢でと命じられていなかったら、土下座して縋りついて許しを請うていた。尻に入れられているという以上に、達せられないのが苦しい。こんな我慢したことない。
「ああ、首輪か? ……いいぞ、出していい」
「っああ、あ……!」
 許可に頭が真っ白になる。びくっと派手に体が跳ね、精液が飛び散るのと、入れられたままの指を締めつけるのを感じながら、強い快感に叫んだ。
「ここまで効くものか。難儀だな」
 精液を絞られてまた身震いする。股間はぐっしょりと濡れて、足が攣りそうだ。息はまだ苦しくて視界がちらつく。
 主人にも想定外だったようだが。妖精憑きネ・モが主人に反抗しないようにと着けられる鉄の環は、体の動きも抑制する。動くな、動け、立て、力を使え。嫌だと思っても言い聞かせられれば終いには体が従う。
 眠るなと言われて眠れずに狂った奴隷がいると聞いたことがあった。こんな風にも効くのは知らなかったが、これは確かに気が狂う。
「……そのまま姿勢を保て」
「っい、や」
 指が抜かれて――勃起した主人の物が見えた。尻に近づけられる。足を閉じようとしたがやっぱりできなかった。
 指でも痛いのに、そんなの絶対に入らない。抵抗しようと身を捩る俺の膝を抑えつけて、主人は陰茎の先端を尻に擦りつけた。
「安心しろ、まだ我慢してやる。無理にでも抱けるが、それではお前はただ泣くだけだろうからな」
 熱い物が皮膚の上を動き始める。
 尻の穴と陰茎の間を擦られるだけで体の内側、さっき擦られた裏側までじんじんしてくる。今まで知らなかった妙な感覚が腹を突き上げる。
 ただ擦りつけられただけなのに、主人の精液が股にかかる頃にはまた息が上がっていた。
 やっと姿勢を崩す許可を得た体の震えを誤魔化して、命令を受けて手桶で汲んだ湯をかけ股を擦ってぬめりを落とす。尻も陰茎も痛いような違和感が残っているが、動けないほどではない。
 ――今日も終わった。酷い目に遭ったが、これで終わり。
「入っていろ」
 浴槽を指差す主人に従い、今日は自分で入って座り込んだ。尻に痛みが響くのを堪えて、昨日と違って温かい湯に腹の辺りまで浸かる。
 布の擦れる音に顔を上げると主人も服を脱いでいた。躊躇なく晒される体。隣室に控えていた使用人を呼びつけて服を託す。
 ぼんやり見上げていたら横に入ってきたので、俺は慌てて身を縮めた。広い浴槽なのにすぐ隣。そして主人が座り込んだところで、肩を掴んで引き寄せられる。悲鳴を上げそうになったがどうにか堪えた。
「……っあ、の、ご主人様」
「なんだ」
「冷ましますか」
「……いい、お前で十分だ」
 白奴隷アラグラルを抱えるということは湯が熱いのではと思って聞いてみたが、返事はそんなもので。主人はもう片方の手で首輪を弄り始めた。
 俺は黙って首と首輪の間をくすぐる指を感じていた。少し動くだけでも湯が揺れて伝わってしまうので、なるべく動かぬようにと体を固めていた。
「こちらを向け」
 首輪を軽く引かれて、急いで上を向くと金の瞳に射竦められる。目が合って覗きこまれ、逃げられなかった。
「やはり翡翠だな」
 瞬きさえ憚られる時間があって、主人の小さな声が聞こえた。
「知らないか? 加護を与える、美しく堅い石だ。お前の目はその色をしている」
 知らぬ単語だと思ったのは、距離が近いせいか見透かされてしまったようだ。主人は柔らかな声で続けて濡れた指で俺の目元を撫でた。
 美しい石というなら宝石だろう。そういう物はほとんど宝石としか呼ばなかった。縁のない物だから名前なんて知らなくても困らない。
 自分の目が緑色をしているのは知っているが、実際の色というのはたまたま銀盆などに映ったのを見たときの記憶でしかなくおぼろげだ。どんな色だったかと思い出そうとするとさらによく思い出せなくなる。
 なんであれ、過分なたとえだということは分かる。きっとそんな立派な色はしていない。
「ご主人様の目のほうが綺麗です」
 小さく告げると主人はおかしそうに笑った。
「なんだ、世辞が言えるのか」
「本、当です。とても強い光が見えるので驚きますが、綺麗だと思います」
 そういうのは主人の瞳のようなものに相応しいだろう。加護の光が覗く金の色はたまに恐ろしいこともあるが、とても美しい。
 それを伝えると金の目が細くなり、頬が揉まれる。
「お前はよく怯えた顔をするものな。少しは慣れたか」
「はい……――それは、どなたから頂いた加護なんですか」
 多少は。一日傍に置かれて、加護つきの光にも慣れてきたと思う。仕事自体は性奴隷のほうといい、慣れないことばかりだけれど。
 使用人は下がって今は二人きりだ。話してもいい――また会話を望まれているのではと考えて、努めて言葉を絞り出した。休憩のときに浮かんだ問いは詰まらずに声にできた。
 さっき言葉一つで射精まで封じられたのは、多分加護のせいでもある。妖精は強いものには逆らえないものだから、この主人からの命令では一層首輪の力が効いたんだろう。
「泉にお住まいのジャルサが気に入ったのだという。霊鳥だ。知っているか」
 主人の応じる声が機嫌よさそうでほっとした。ああやっぱり。
 空を統べる長。神の鈴。そう呼ばれる高貴な鳥が鸞だ。色々な昔話に出てくる、神に連なるとても力のある存在。どうりでとても強い光。
「はい、それは知っています。青い羽の……」
 などと思っていたら、主人の顔が近づいてきて唇が触れて言葉を失う。頬に、鼻に、唇に。鸞――鳥が啄むようだとの連想で体から力が抜けた。
 接吻も此処に来て初めてすることだったが、これは痛くもないし嫌でもない。ただ少しくすぐったくて、顔が近くて、どうしたらいいのか分からなくて困るけど。それは手で触れられるのも同じだ。俺が困っていても主人は好きに動いて必要なら命令をするので、何も問題は無いとも言える。
 そのうちに回されていた手が体を這い始めて、途中で石鹸液が取りだされ、今日も体を隅々まで洗われた。陰茎や尻まで触れられるのは嫌だが、さっきとは違い洗うだけの動きはまだ我慢ができた。
 俺も命じられて主人の体を洗うのを手伝った。泡を作るのもスポンジで広い背を擦るのも思いのほか大変で物凄く時間がかかってしまった気がするが、幸い主人に機嫌を損ねた様子はなかった。終わると頭を撫で褒められた。
 体を拭き、服を着せられて、髪に櫛を通される。主人が使用人にやられていることを、俺は逆に主人にやられた。香油を塗られた髪からは主人と同じいい匂いがする。

 その後、出かける主人を見送り中庭の部屋に戻された俺は、言われていたように主人を待った。
 主を欠いた部屋は物盗りにでも入ったようで居心地が悪く、ベッドに座って大人しくしているだけでも気疲れする。
 暗くなる頃に使用人が二人やってきたが、ランプに火を入れる仕事の為で俺には声をかけなかった。俺も黙ってじっとして、梯子に上がって一つずつ玻璃ガラス球の中に火を入れるのを眺めた。火精ラーブの力も借りずあんなにたくさん灯りを点けるのはそれだけで大仕事だろうと思っていたが、見惚れていると手際よく終えて出ていって、すぐにまた一人になった。
 待ちくたびれた頃に主人が帰ってくる。なんだかほっとしてしまった。夜はまた抱えられて、主人を冷やしながら眠った。
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