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第3章

火星ガニ現る?

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 崖のひび割れからは水が染み出しているのか、赤色が濃くなって見えていた。
 スイちゃんが目をこらしてよく見ると、やっぱり動く物がいたのだ。
「スピちゃんやオポちゃんが、そこに隠れている訳ないよね……」
 ついに動く物の正体が分かった。
 赤い岩の割れ目から、はい出してきたのは……、固そうな甲羅から足が何本も生えたカニのような生物。カルキノスと名づけられた宇宙人? 初めて地球の外で見つかった生命体だった。
「きゃあ! 気持ち悪い」
 思わず悲鳴を上げてしまうほどの大きさだ。
 カルキノスは、何が気に入らないのか、山道を通せんぼして道を譲らない。ハサミを開いたり閉じたりしてスイちゃんに意地悪してくるのだ。
「気持ち悪いって言ってごめんなさい。謝るから、そこをどいて下さい」
 どんなに丁寧に頭を下げても、カルキノスは知らんぷりだ。赤い甲羅に横歩きする姿は地球の海にいるカニそのものだった。
「よーし! こうなったら助けを呼んじゃうから」
 スイちゃんは、腕についている二番目の赤いボタンをカチッと押した。するとまた、背中の方から声がしてきた。
「おやおや、これはまた、ずいぶんとお困りのようだね」
 振り向くとスイちゃんと同い年くらいの男の子が誇らしげに立っていた。スピちゃんとオポちゃんの双子と比べても、体が大きく強そうだった。
「初めまして、僕はキュリオ。まあ、キューちゃんと呼んでもらってもいいけど、ちょっと恥ずかしいかな」
 やはり宇宙服を着ておらず、体操服のような上下だったのは、とても不思議だった。
「おい、火星の化け物。そこをどくんだ! 山登りの途中なんだから、邪魔をするな!」
 キュリオは勇敢にも、自分と同じサイズのカルキノスに立ち向かっていった。
 カニのお化けは、キュリオの大声にもひるまず、両腕のハサミをパチパチ鳴らして威嚇してきたのだ。
「言っても分からない奴には、こうだ!」
 ついにキュリオはカルキノスのハサミを両手で掴み、取っ組み合いを始めた。
 押しては返し、力比べは互角のようだ。
「がんばれ! キューちゃん!」
 疲れて負けそうになったキュリオを見て、スイちゃんは火星の石を拾い上げた。
「このー! あっち行け!」
 投げた石ころが、みごとにカルキノスの固い甲羅に命中した。すると二対一では負けてしまうと思ったのだろうか、カニのお化けはキューちゃんの腕を振り払うと、崖の下の方にあっと言う間に逃げ出してしまったのだ。
「助けてくれてありがとう、キューちゃん。カニのお化けは怖かったよ」
「どんなもんだい。このくらい、何でもないさ!」
 キュリオは口元をゲンコツで拭うと、得意気に鼻の穴から息を噴き出した。

 空は再び暗くなり、スイちゃんは心配になってきた。スピちゃんやオポちゃんのように太陽の光がなければ、キューちゃんも消え去ってしまうのではないかと。
 スイちゃんの思っていることが分かるのか、キュリオはニヤッと笑った。
「おう、心配はいらないよ。僕はスピリットやオポチュニティのように、暗くなったら動けなくなるほど弱くはないから」
「そうなんだ、でも何で?」
 当然の質問に困ったキュリオは、笑ってごまかした。チビすけ達とは、体のできが違うのだと。
 山登りに戻ったスイちゃんとキュリオは、はるか上の方にぼんやりと見える頂上に向かって、また歩き始めた。
 上に近づくほど、大きな石がゴロゴロとしていて危なっかしい。登山道のすぐ脇は、切り立った崖になっており、滑り落ちたら一からやり直しになるかもしれない。
 それにしても背中を後ろから押してくれるキューちゃんは、とっても頼れる力持ちだなと思った。二人で力を合わせれば、山の頂に着くのも時間の問題だと思えるほどだ。
 だがここで、また邪魔が入った。
 さっきのカルキノスが、仲間を一匹連れてスイちゃんとキュリオの前に先回りしてきたのだ。
「なんてしつこいカニどもだ。二対二なら勝てると思っているのか?」
 カルキノスは何も答えず、ハサミを振り上げて、これ以上は行かせまいとする。
「いいだろう。僕の本気を見せてやる。スイちゃんは下がっていて」
 キュリオは頼もしく、二匹のカルキノスに勝負を挑む。そして、それぞれのハサミをむんずと掴んで力比べを始めた。
「よく聞いて、スイちゃん! 今のうちに通り抜けて! 僕のことは気にしなくていいからさ!」
「でも、キューちゃん……」
「ここは僕に任せて先に行け! このセリフ、一度言ってみたかったんだよね」
 涙目となったスイちゃんに、キュリオは軽くウインクした。
 スイちゃんはずいぶんと迷ったが、キュリオの言う通り、先へと進むことにした。そうしないと、がんばっているキュリオに悪いとさえ思えたのだ。
「そうだ。前に、そして上を目指して進むんだ、スイちゃん。そしてオリンポス山の頂上を極めてくれ」
「ごめん、キュリオ。上で待っているから、きっと追いついてね!」
 とても申し訳なく、悲しくなったが、もう後を振り返らず、駆け足で山道を登り始めた。
「そうだ。よそ見せず、頂上を目指すんだ。がんばれよ! スイちゃん」


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