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72話 セシルの過去

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 カエデが巨人族を場外へ吹き飛ばし、見事勝利を収めた。
 カエデはステージに立ち尽くし、目を閉じて勝ちの余韻に浸っていると思ったのだが……
 急にフラっとしたと思ったら、バタンと力尽きたかのように倒れ込んだ。

「カエデ!!」

 ステージで倒れこんだカエデを見て、俺はステージへ駆け出そうとするとミツキに止められる。

「コウガさん待ってください!これを」

 魔力ポーションを2つを手渡してくれた。

「魔力ポーション?」
「はい、クロエが試合が終わったら魔力ポーション1つをカエデに、もし欲しがったら2つあげてほしい、と言っていたので」
「……わかった、ありがとう!」

 俺は魔力ポーションを収納して走り出した、メイランとソルトも俺の後を付いて走って来ている。
 カエデは大丈夫だろうか……?傷は間違いなく癒えているはずだが、ダメージが全て無かったことにはならない。
 あんなに無茶をしてまで……俺と何としてでも戦うんだって意志が物凄く伝わってきた。

 最後にカエデが放った一撃……完全に魔力がシェミィの形になっていた。
 確かシェミィ装纏と言っていた、何といえばいいか……強いて言えば、シェミィそのものだったような……そんな気がした。
 どれだけカエデに仕込んだんだクロエ、毎度毎度くどいと思うがあんたは一体……何者なんだ?たった2日……2日だぞ?何をしたらああなるんだ?まったくもって分からない。

 俺たちは入場口に辿り着くと、カエデはシェミィによって運ばれていた。
 駆けつけようとした救護班も少し戸惑っている様子はあるが、シェミィがテイムされておりカエデの従魔であることは分かっているので手出しはしてこない。

「ありがとうシェミィ!カエデ!大丈夫かカエデ!」
「ん……ごじゅじん、さま?」

 カエデはゆっくり目を開いてこっちを見た。

「あぁ、俺だよカエデ」
「ご主人様……勝ったよ、私」

 カエデはゆっくりと拳をこちらに近づけてきたので、グータッチした。

「見てたよ、よく頑張ったな」
「うん!でも……ちょっと魔力使いすぎちゃった」
「だろうと思ってな、ほら魔力ポーションだ。ゆっくり飲んで今は休め、俺と戦うとき全快じゃないと嫌だろ?」

 俺は魔力ポーションを魔法袋から取り出すふりをして手渡す。

「ありがとう主人様、有難く貰うね……あと、もう1本あるなら貰っていい?」
「もう1本?その1本で全快するはずだが……」

 カエデは俺より視線を外した、その視線を向けた先には……

「シェミィ?」
「うん、シェミィから魔力を借りれるのは知ってると思うけど、貰いすぎちゃって……」

 カエデは頭をポリポリ掻いて、てへへと言わんばかりな顔をしていた。

「……なるほどな、わかった」

 俺はもう1本魔力ポーションをカエデに手渡す、元より欲しがれば2本渡すようにとクロエから言われているので良いのだが……やはりシェミィにも何か秘密があるな?
 クロエは知っているので敢えて2本と言ったんだろう、カエデとシェミィのために。

「ありがとうご主人様、少しだけ医務室で休むね」
「あぁ、しばらくしたら様子見に行くよ」
「わかった、待ってるね」

 カエデはシェミィによって医務室へ運ばれていった。

「心配ね……医務室について行かなくてよかったのかしら?」
「多分、俺に披露したいことの準備とかがあるかもしれないからな……俺は見るわけにはいかないよ、カエデを信じて待つだけさ」
「そ、それなら自分が行くっす!万が一バレても自分なら問題ないっすから!」

 ソルトはカエデが心配なのか落ち着かないみたいだ、心配なのは俺もメイランも同じだ……それなら任せてみようか、誰か居た方が安心するかもしれない。

「……そうだな、俺としても心配なのは皆と一緒だからな。任せたソルト」
「了解っす!」

 ソルトは医務室に向かって行った。

「あっちはソルトに任せて、私たちは応援席に戻りましょうか」
「メイランは向こうに行かなくていいのか?」

 真っ先に医務室に行かなくていいのかと言ったのはメイランだ、きっと行きたいはずだ。

「……ええ、心配だったけれどソルトが行ってくれたから大丈夫、私はコウガ様の護衛を。まだ100%あの人を信用してないもの」
「あの人?」
「セシルと言ったかしら?あの人……なんだか変な、良くないものを持っているような雰囲気があるのよ、注意した方がいいわ」

 俺はそういう風には感じなかった……人間には分かりにくい感覚があるのだろうか?
 でもメイランが忠告してくれたのだから、俺も少し気を付けるようにする。

 応援席に戻るとミツキやティナ達がこちらへ駆け寄ってきた。

「コウガさん、カエデさんの容体は……」
「大丈夫、魔力の使い過ぎで倒れただけみたいだ」
「良かった……」

 ほっと肩をなでおろしたミツキ、もう俺たちの事も家族当然のように接してくれる、嬉しい限りだ。

「今は医務室で休んでるよ、ソルトに付き添いしてもらってるから大丈夫だ」
「なるほど、分かりました」

 ミツキは元にいた席に戻る、その近くでセシルは落ち着いた様子で座っていた。
 俺は近寄って近くに座る、もちろんメイランの監視付きで。

「悪いな、待たせた」
「いや、気にしないでくれ。仲間の安否の方が大事だからな」
「そう言ってもらえると助かるよ……じゃ、刀について話してもらっても?」
「分かった、その話をするにおいて、少々自分の話もさせてもらうがいいか?」
「もちろん」
「分かった、ここは人目がある……少しだけ移動しよう」

 セシルはみんなを連れて少し物陰になった所に移動し、みんなに聴こえるようにこちらを向いて、ゆっくりと語り始めた。

「まず、この刀について話そうか。この刀はここより東、海を超える途中にある島……和の国サクラビ、という所で作られた物だ」

 和の国、サクラビ……和の国やサクラと言われると、やはり前世で生きていた日本を連想する。

「うん、それがしが使ってるクナイや手裏剣もそこで仕入れてる」

 話を聞いていたツバキが闇の空間からクナイと手裏剣を取り出した。

「そうだな、それらもこの刀同様にサクラビで作られた物だ。サクラビはこの世界でも稀に現れるという流れ者が昔に作ったと言われている」
「なるほど、海の向こうか……」

 ここから東の海の向こうか……フードの男の飛び先が、海を超えているのなら行く機会もあるかも知れないが……メイランの故郷であるバレス村はここから北にあるトカラミア山脈の奥地だ、ブルードラゴンの事もあるのでフードの男が海を超えたと断言も出来ない。
 カエデ曰く北東に飛び去った、そしてサンビークでの巨大トレント事件もあり、ブルードラゴンの事件も加味するとこちらに来て正解のはずだ。

「だからコウガも、刀に興味があるなら行ってみるといい」
「そうだな、時間作って行けそうなら行ってみたい」

 日本人が作った国で和の国と言われているなら1度は見ておきたいよな、フードの男の件が終われば行ってみよう。

「ここまではいいんだが、ここから自分の話を……実はこの刀は少々特殊で……いや、紛らわしい言い方は止めて正直に言おう……この刀と私は呪われている」
「!?」

 の、呪いだと!?
 まぁ確かに、呪われた武器や防具は前世でよく見ていた小説やゲームでもよくある話だ。

「コウガ、私と戦ったなら何かに気付いてる筈だ、気付いたからこそあの魔法連打……だろう?」
「……」

 呪いって……まさか、抜刀と納刀を繰り返していたあれか!

「抜刀と納刀を繰り返していた、そして納刀が遅れれば遅れるほど、攻撃力が下がっていく……違うか?」
「正解だ」

 やはりあれは意味がある行動だったか、抜刀が1番破壊力があるんだ的な良い意味では無かったが……

「呪いは解けないんですか?」

 ミツキが問い掛ける、セシルはあまり良い顔をしていない、解けない呪いだったりするのか……?

「協会まで行って解呪を依頼すれば可能性は0ではないかもしれない……しかし、私には出来ないのだ」
「それは何故?」
「それは……だな、えっと……」

 セシルは口吃ってしまう。

「……すまない、実はだな……借金が大量にあるのと、協会とはとある事件があって私に対する信用がないんだ……だから解呪を依頼出来ない」
「借金に……事件?」
「あぁ、これは少し自分の事を話す必要がある、少しばかり聞いて欲しい」

 セシルは一息ついて両頬を軽く叩いた、覚悟を決めたって顔だ。

「私は和の国サクラビで産まれた。父が流れ者で母が狐人族、要するにハーフだ」

 流れ者……セシルの父が。
 和の国に来ているって事は日本人である可能性が高いな。

「私は父と母に大切に育てられ、15歳になってから父より刀を教えてもらって修行に励んだんだ」

 父から刀を教わったのか、だとすれば……セシルの父は武術に携わる何かをしていたのだろうな。

「そして17歳になった時、とあるCランクの3人PTが和の国サクラビに来た。そしてそのPTのリーダー、クリスタという男と出会って私はPTへの勧誘されたんだ」

 クリスタ……聞いた事はないが、CランクPTと言う事は結構強いのだろうな。

「その3人は協会が運営する孤児院の出らしく、幼馴染なんだとか。そしてその3人と私の4人で、1年間冒険者として旅をしたんだ、クリスタとは特に仲が良くなったんだ」

 PTに入っていたのなら、何故今は1人なのだろう?借金の理由とは……?
 そのPTが協会絡みって事は、セシルが言った事件や借金の理由はきっとそのPTにあるはず。

「18歳になったその日、私の誕生日を故郷で過ごそうというPTの提案で1度サクラビへ戻ったんだ。そして実家で過ごしていると……18歳になったから、一族が封印している物を見せてやると父に言われて地下室に行ったんだ、そこにあったのが……この刀だ」

 この刀はセシルの一族で封印して引き継がれていたのか、それが今セシルの手にある……まさか。

「この刀の名は、妖刀國光……私達狐人族が持つ妖気を有する刀で、武器としては最高級レベルだ。しかし、この刀の持つ妖気は異常過ぎるのと、その妖気が呪われていた為に封印されたと聞いていた、そしてこの事は誰にも話してはならんと念を押されたのだが……これをクリスタが封印を解いてしまったのだ」

 セシルは俯きながら話している、よく見ると手を強く握りしめて震えている。

「たまたま私が父に連れられ、この刀について話しているのをこっそり聞いていたようなんだ。そしてこの事をバラされたくなくば、その家宝を見せろと言われて……馬鹿な私は仕方なく見せてしまったんだ、そして隙をつかれて封印をな……私は後悔したよ、馬鹿な事をしてしまったと」
「セシル……」

 セシルは涙を浮かべながらも、更にその先を語ってくれた、きっと吐き出したかったのだろう……静かに全て聞いてあげる事にした。

「封印が解かれた時は強烈だったよ、吹き荒れる妖気に晒されてな。そしてその妖気に耐えられなくなったクリスタが刀を落としてしまったんだ。私は刀を落とす訳にはいかないと、刀を抱き抱えるようにキャッチした……その時、私の妖気が刀から大量に放出された妖気に飲み込まれ、その妖気に掛けられていた呪いが私の妖気を伝って身体を蝕んだ、私は呪われて気を失ったんだ」
「そんなに強い呪いだったのか……」

 そんな恐ろしい刀だったなんて……この刀に何故呪いがあったのか、分からない事だらけだ。

「気付くと部屋で寝かされていたのだが、私は父にちゃんと報告しなくてはと思い、父に会うや私を怒鳴りつけた」
「えっ……何故?」
「私が封印を解いたのだと、クリスタに報告されていたんだよ」

 擦り付け、か……俺は怒りに震えそうだった。

「私は懸命に誤解だと言ったのだが、『あの場を知っていたのはお前しかいない!』と言われ……弁明も虚しく、私は刀を持ったまま追い出されたんだ」
「何ていう……卑怯な……!」

 俺は怒りが沸騰し、頭に来ていた。
 俺は強く椅子を殴ってしまった。

「コウガ様!落ち着きなさい!今怒っても、ぶつけ先はここには居ないの!」
「……!」

 俺とした事が怒りで我を失いそうになるとは……

「ごめん」
「いや、いいさ……。追い出された私はPTのみんなと、サクラビから離れたんだ。そして私はいつも通り魔物と戦おうとしたのだが、戦えなかった。いつも使っていた刀が何故か持てなくなって、妖気國光以外握る事が出来なくなっていたんだ……そしてその妖気國光でも、納刀しないと攻撃力が無くなるほど低くなる事にも気付いたんだ」
「これが呪いの効果だったんだな」

 かなりキツい呪いみたいだな……要するに装備から外せなくなるって事だろう。

「そうだ、そして少したった頃……私はクリスタに多額の借金を背負わされた挙句突き放されたんだ」
「え!?」

 意味が分からない、何故セシルが借金を背負わなければならないんだ?

「私が戦えなくなった事により、クエスト任務で迷惑かけまくって失敗が増えてね……そしてクリスタの持っていたPTの借金と失敗による負債により多額の借金を、私に押し付け解雇……私は今返済に追われているんだ」

 クリスタ本人がしたPTの借金を擦り付け……!?
 クソ野郎じゃないか……!!

「い、いくらだ……?」
「金貨……30枚」
「さ、30枚も……?無理じゃないかそんなの……」

 今金貨なら40枚程あるが……こんなの簡単に稼げる値じゃない。
 俺達はたまたま盗賊やBランク魔物を倒してきたから何とかそれだけ稼げたが、普通ならこれだけ稼ぐのは大変な事だ。

「私は、早く稼げるようにならないと行けない……だから抜刀を鍛えて今ここにいる、ここで戦える程じゃないとやっていけないからな、その確認の為に」
「なるほど……ちなみに借金返済期限は……?」
「……あと1週間」

 金貨30枚をあと1週間か……厳し過ぎる。

「だから、私はこの個人戦を終わった後に仕事を受けまくる、そして間に合わなかったら……奴隷として、身体を売るしかない……だろうな」
「そんな……」

 こんなの酷すぎる、セシルは悪い訳ではないじゃないか!!
 何とかしてやりたい、どうすれば。

「……なぁ、コウガ……」
「な、なんだ……?」
「私がもし奴隷落ちしたら……買っては貰えない……か?」
「……え」

 予想外過ぎる言葉が出てきた、まさかの買って欲しいと言われるとは……

「薄々分かって……るんだ、1週間で金貨30万なんて……無理な事くらいはな……出来るならこんな所になんか、居ない……そして奴隷大事にするコウガ、君なら……君なら良いと思ったんだ……」

 セシルは俺の袖をキュッと摘み、涙で溢れる顔を上げて俺の顔をみた。

「コウガ……いや、コウガさん……助けて……助けてっ……ください……!」

 大量の涙が目から溢れ出すセシル、これ程つらい思いをしたのだから当たり前か……

「セシル……」

 これ程つらい思いをしたセシルを、このままになんて出来ない。
 俺はメイランをみた、メイランは静かにコクっと頷いた。

「分かった」
「えっ……?」
「俺がセシルを助けよう」
「本当に……?いいの、か……?」
「あぁ、俺がセシルを迎え入れてやるよ」
「……うっ……うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 声を上げて泣くセシル、俺はその顔を隠すように、優しく抱き締めるのだった。 
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