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57話 飛行能力

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「メイラン殿、飛行能力に自信はあるか?」
「飛行能力に……?さっき負けた事で少し自信なくなったわね……」

 やはりドラゴンとしてプライドが高かったのか、先程負けたのがよっぽど響いたみたいだ。

「大丈夫、この特訓すれば機動力を手に入れられる」
「機動力を?」

 メイランはきょとんとする、今メイランに足りないのは攻撃手段と言われていたので予想外だったようだ。

「えっと、私に足りないのは機動力ではなく攻撃手段じゃ……?」
「そう、だからこそ機動力を高める、空を飛べるならこれを活かすべき」
「???」

 メイランは顎に手を付けて頭を少し捻らせる、普段のメイランならどういう事なのかすぐ理解出来そうな物だが、酷く落ち込んだ事により頭が回らないようだ。

「先程の模擬戦思い出して、メイラン殿はどんな攻撃をしたかを」
「んーと……」

 メイランは模擬戦をよく思い浮かべる。
 空を飛び上がり、炎勝負して、火球放って、真っ直ぐ突っ込んで……

「……!」

 頭の回らない状態だったがようやく理解した。

「理解した?」
「回避以外だと、直線的な攻撃や移動しかしてない……」
「そう、だからさっき言った、読まれやすいと」

 ツバキから弱点を言われ、ぐっと唇を噛むメイラン。

「ごめん、これはきちんと意識してもらわねば困るから」
「大丈夫よ……それで、機動力とどう繋がるのかしら?」
「飛行状態の機動力を上げて、動きに変化を入れる、これだけでも充分読まれにくくなる」

 凄く単純な話だ、誰でも思い付きそうな内容である。

「そんなの、誰でも思い付くわよ……出来れば苦労しないわ」
「だから、出来るようにする」
「本当に?何か秘策でもあるのかしら?」
「これを使う」

 ツバキは何かを取り出したようだがよく見えない、メイランが近付いてよく目を凝らしてみると、何か細い物がきらんと光った。

「これは……糸?さっきの小道具にくっ付けてた物かしら?」
「そう、これに魔力を流すと自由自在に動かす事が出来る、これを飛行状態で避けながら私に突進してもらう」
「えっ!?こんな細い物を見極めて避けるの!?」

 近付いてよく目を凝らさないと見えない糸を避けろと言うツバキ、これは余りにも厳しすぎるのでは……?と思う。

「大丈夫、最初は魔力を色濃く出す、慣れてきたらどんどん動かすスピードと魔力の色を薄くしていく」
「なるほど……段々素早く見えにくくなるって事ね、かなり厳しい特訓になりそうだわ」
「当たり前、さぁやるよ」

 ツバキはクナイや手裏剣に糸を括りつけている、その間に身体を動かして解していく。

「準備はいい?」
「ええ、良いわよ」
「ふっ!はっ!」

 ツバキはクナイと手裏剣を数多くメイランへ投げ付けた、すると糸に魔力を纏わせたのが色濃く糸が見えるようになった。
 メイランはクナイと手裏剣を避けると、背後で闇の空間が広がってクナイと手裏剣が中に入っていく。
 闇の空間にクナイや手裏剣も取り込まれたのに糸は消えない。
 簡単に今の状況を説明するならば、ツバキと闇の空間で糸を引っ張り合っている状態で、メイランの周りにはピンと張られた糸が何十本もある状況だ。

「行く!」
「!!」

 糸に張り巡らせた魔力が自由自在に動き出す、ここからが本番だ。

「うっ!?」
「しっかり糸見る!それをかいくぐって突っ込む!」
「む、無理よこんなの!?」

 メイランは避けるのに精一杯だ。
 言い表すなら、大縄が自由自在に暴れ狂う中、ずっと中で飛び続ける大縄跳び的な感じが1番近いかもしれない。

「ぐっ!あぁぁ!」

 糸が1本メイランの背中に当たってしまい、動きが止まった瞬間に袋叩きに合う。

「ぐぅぅぅ……」

 袋叩きに合い力なく降下を始めるメイラン、着地すると膝を付いて痛みに耐えている。
 遠目で見ていたミツキさんがメイランに駆け寄り、手に持っていたポーションを飲ませる。
 一瞬で傷と痛みが取れるミツキさんのポーション、市販されてるポーションとはかけ離れた性能している……特別なポーションなのだろうか?

「うーん、ただ避けるだけじゃなく、身体を回転させたり、くねらせたり出来る?」
「む、難しいこと言うわね……微調整が物凄く難しいのよ、いきなりあれだけの糸がある中でやるのは無理よ」

 ツバキがおでこに手をついて溜息を吐く。

「む……仕方ない、まずは2本くらいからいく。そして避けるのに集中する」
「それでお願いするわ……」

 張り巡らせていた糸を2本だけ残して、全て地面に降ろす。
 メイランも飛び上がり、糸2本の間に位置取ってスタンバイする。

「いく」

 ツバキが魔力を流して糸を操りだす。
 糸を鞭のように動かしてメイランを叩きつけようとする、メイランも先程言われた回転を試そうと、背面跳びのように身体を反らせてやり過ごそうとするが。

「いっ!いたた……」

 身体を反らせた瞬間に翼が糸に当たり、バランスを崩して墜落して尻餅をついた。

「んー慣れるしかないか……やれる?」
「何回でもやってやるわよ……えぇ!やりますとも!」

 メイランの闘志に何故か火がついた、余っ程自分はやれない人間なんだと思ったのか意地になりつつあるみたいだ。
 何度も何度も撃ち落とされるものの、2時間程やっていると糸4本くらいなら身体を反らせたり回転させて回避出来るようになった。
 外部からみたらアクロバティックな飛行技を繰り出しているように見えているはずだ。

「はぁはぁ……」
「まぁこんなものだな、次は少しスピードアップさせる、私に突進して」
「分かったわ……ふぅ……」

 メイランは再度飛び上がり、糸の準備が出来るまで待機する。

「うん、いく」
「!」

 糸4本が変則的に動きながらメイランへ襲いかかる。
 糸が襲いかかってくる方向から直角方向へ避けながら隙を伺う。
 背後や視覚外から来る糸も見ることなく避け続けるメイラン。
 何が起きているかといえば、あの2時間の間に感覚や精神を研ぎ澄ませて回避していた事により魔力の探知と危険察知が出来るようになっていた。

『危険察知』
『魔力探知』

 危険察知は今も2人が所持しているので分かると思う。
 魔力探知のスキルにより、周辺にある魔力を探知出来るようになったり、その魔力の位置や量が感覚的に理解出来るようになった。

 右からと上から糸がクロスするように迫ってきていたが、上から来るのは視覚から、そして右から来るのは魔力探知で察知した。
 上からの糸を左へ回避すると、すぐさま右から糸がやってくるが、それを飛び越えるように身体を反らせて回避する。
 2本の糸が一度に攻撃に回ったことにより、ツバキを守る糸が2本になる。

「今よ!」
「!」

 メイランが身体を反らせて回避した勢いのままツバキへ突進を開始する。

「やっときた、ふっ!」

 ツバキは残り2本の糸を操り、突進を妨害しようと糸を振るう。

「糸は真っ直ぐ張られてる、来る方向が分かれば避けられるわ!」

 左右から挟み込むように糸が振るわれるが、上方向へ身体を回転させて回避する。

「……っ!」
「喰らいなさい!」

 メイランは渾身のパンチを繰り出し、ツバキに命中させる。

「やった……!」

 確かに当てた感覚、初めて打ち勝ったと確信した……が。

「取り敢えず妥協点、か」
「!?」

 そう聞こえた瞬間、拳に確かにあったツバキの身体がボフッと霧に消えたのだった。

「えっ……!?」

 消えた!?と思ったメイランだったが、急に背後から声が聞こえた。

「私を倒すには、まだまだ甘い」
「がっ!?」

 メイランは再度背中に肘鉄を喰らい、地面にめり込んだ。

「くっ……そ……」

 またしても怪我を負ったメイラン、それをみたミツキさんが駆け寄って来てポーションを飲ませてくれる。

「メイランさん、ごめんなさい。ミツキって器用なはずなのに、こういう事には変に不器用なんです……」
「分かってるわ……でも私の為にやってくれているのだから……私は頑張りたいの」
「メイランさん……」

 ミツキさんは不安げにメイランの顔を覗き込む。

「だから、ミツキさんは気にしないでくださいな。怪我したらまた飲ませてくれると助かるわ」
「……分かりました、任せてください!」

 メイランは立ち上がり、また最初の糸を避ける所から訓練を再開する。
 途中でおやつ休憩を挟んだ後も訓練が続き、最終的には糸5本を避けながら突進する事に成功している。
 しかも、その糸は今までは真っ直ぐな糸を操っていただけだったが、曲げたり直角に糸をくねらせたりさせてきて難易度が上げてきた攻撃を回避したのだ。

「これだけ機動力があれば、攻撃も様々な状態から繰り出す事が出来る、相手を撹乱しながらも可能……」
「はぁ……はぁ……や、やったのね……私……」
「よく頑張った」
「私……やりきっ……」

 メイランは体力の限界だったのか言葉の途中で倒れ込んだ。

「あっ……」

 ツバキが気付いて手を伸ばそうとしたが間に合わなかった。
 それを見たミツキさんがこちらに駆け寄ってきた。

「ツバキ、お疲れ様。ヴィーネ、メイランさんを頼むよ」
「かしこまりましたご主人様」

 ヴィーネがメイランを抱き上げてベッドへ運び込む。

「主人、それがしがやった事……まずかった?」
「まぁちょっと厳し過ぎるとはおもったけど、本人があれだけやる気だったから大丈夫だと思う。必要な事だったんだよね?」
「うん……」

 ツバキが少し落ち込んでいるのか、顔が俯き気味だった。
 そこに駆け寄ってきた影が1つ、コウガだった。

「大丈夫だ、ツバキ」
「コウガ殿……」
「メイランの為にやってくれたんだろ?本人がやる気だったなら俺も咎めはしないよ」
「……うん」
「ありがとう、ツバキ。メイランを強くしてくれて」
「……うん」

 普段はくノ一らしく、クールで寡黙な印象を受けるツバキ。
 しかし、今の姿をみたらやっぱり歳相応の女の子なんだなって思う。
 顔を伺うとツバキが少し涙目になっており、不安そうな顔になっていた。

「さ、今日の特訓終わって休もう」
「ですね、今日は泊まっていきますか?ソルトさんはすぐ目を覚ましましたが、メイランさんはすぐ目覚めるかは分かりませんから……」
「ん……そうだな、すまんが頼めるか?」
「分かりました、ヴィーネに頼んでおきますね」
「助かる」

 俺とミツキさんは並んで家に入る。
 ツバキも家に入ろうとしたが、ピタッと足を止めた。

「……目が覚めたら謝らないと」

 ツバキは上を向いて、紅く染まった空を眺めたのだった。 
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