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2章 配達のお仕事と垣間見える闇

28話 大切なモノ、そして怒り

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 次の日、私は配達依頼を受ける為に冒険者ギルドに向かっていた。
 今回の護衛は梅香ちゃんと桜ちゃん、レイナとソルは用事があるとの事で朝早くに出掛けて行った。
 そしてみーちゃんも最高神様からの呼び出しがあるとの事なので、一旦分身体を回収すると言って消えていった。

「ねーねー、香織おねーちゃん」
「んー?どうしたの?」
「配達ってさー、街中歩き回るよね?」
「うん、そうだね」
「めんどーだし、屋根乗り越えて真っ直ぐ行ったらダメなの?」
「え、えぇ……」

 屋根を乗り越えて行くなんて、流石に良い訳が……
 だなんて思ってたんだけど、冒険者ギルドに着いてからセイラに聞いてみると。

「ダメではないですよ?ただ、貴族の住まうエリアや警備がされている住居の乗り越えや侵入は禁止されていますので、そこには注意してください」

 と、言われてしまった。

「えぇ……本当にダメじゃないんですね」
「そうですね、たまにですが風属性持ちの方がフワッと飛んで家を飛び越えたり、屋根の上を歩く方もいらっしゃいますから。それに……」

 セイラが耳打ちするような仕草をするので、耳を近付けると。

「この世界には忍びというのが居るのですよ、その方々が屋根に忍んでたり屋根から屋根に飛び移ったりもしているそうです、ほんとごく稀にしか現れないですが」
「へ、へぇ~そうなんですね~」

 間違いない、リサの暗部隊だよね……?
 知っているので若干上ずった声をしてしまった。

「しかし、どうして屋根を乗り越えたいと?」
「この子達が屋根を飛び越えたら楽だよねーと言っていたので」
「な、なるほど……流石は双剣姫ですね」
「「えっへん!」」

 2人は得意げな顔をしていた。
 ちなみに、双剣姫が冒険者ギルドに現れたと少し騒ぎにはなったが、昨日から双剣姫がこの国に居ると知られているので、大きい騒ぎにはならなかった。

 レイナやソルの護衛なしでも、毎日通い詰めているからよく見る顔ぶれは覚えたし(完全記憶)
 強面な人や、ガラの悪い人の目線は多少痛く感じるけど、私の背後にはレイナとソルがいると分かっているからか手出しはしてこない。
 それに、今は双剣姫の梅香ちゃんと桜ちゃんが居るからね。

「それよりカオリさん、また指名依頼が来てますよ!どうなされます?」
「実は、それについて少し考えてる事がありまして、聞いて貰えますか?」
「分かりました、別室行きますか?」
「そうですね、それじゃそこで……」

 バタン!!

「?」

 急に強く冒険者ギルドの扉が開けられ、私含めた冒険者達が一斉に扉へと振り返る。
 そこには、Theヤンキー!な見た目の冒険者らしき人達4名が入ってきた。

「ヒャッハー!しけた面しやがる奴らばっかりじゃねぇかぁぁ!王国も質が堕ちたもんだなぁぁ!」
「そうでやんすねぇ親びん!」

 何、こいつら。
 入って来ていきなりこれ?腹立つなぁ……
 そうこう考えている内に、奴らは受付にズカズカと歩いて行った。

「ヒャー!そこのかわいこな嬢ちゃん、ここの受付嬢で1番偉い子と1番可愛い子は誰だぁ?」
「あっ、あの……他の冒険者さんのご迷惑に……」
「ハッハァー!質問に答えろぉ!俺はBランクPTヤンキーズのリーダー、スキンヘッズ様だぞ!帝都では有名なんだぞぉぉぉぉ!!」
「よっ!親びん!」

 名前がだっさ過ぎる……
 確かに、そのスキンヘッズとやらの頭はスキンヘッドだけどさ……
 それよりも帝都、か。
 帝都って今まで話に出てきてないから、名前がなんなのか場所が何処なのかは知らない。
 まぁ、私が知ってるのはトリスター王国とクライシス王国だけだけど。

「止めなさい、貴方達」

 この4人組に待ったをかけたのは、セイラだった。
 私は梅香ちゃんと桜ちゃんの手を握り、他の冒険者に紛れるように退避、2人を私の背後に隠す。
 すると、少しだけ私達の壁になるように冒険者達が動いたような……そんな気がした。

「ヒョー!嬢ちゃんが長か?」
「受付嬢長のセイラです、BランクPTなら私が受付致します

 セイラは絡まれていた受付嬢にウィンク、見事に助け出した。
 そして奴らがセイラの受付口にやってくると、他の冒険者達に紛れて離れて見ていた私と、不運にも目が合ってしまった。

「ハッハー!遂に人が足りなくてあんなメスガキまで冒険者をやってんのか!人不足かぁ?堕ちたもんだなぁ!」
「全くでやんすねぇ親びん!」
「……っ」

 自分の事を言われているからこそ腹が立つ、でも関わらないが吉だ。
 梅香ちゃんと桜ちゃんは私の後ろで手を握ってくれている、でも震えは全くないって事は怖がっていないみたい。
 チラッと振り返ると、割とマジな感じの狩猟的な目をしてる……2人も思う所があるようだ。

「ヒャー、セイラ嬢よぉ!あんなガキに冒険者やらせてるなんて、恥ずかしいとは思わねぇのかぁ?」
「恥ずかしいでやんす!」

 そうやってゲラゲラ笑う4人組をみても、セイラの表情は一切変わらない。
 けど雰囲気で分かる……凄く怒っている事に。
 そして私の前で壁になってくれている冒険者の1人が、ボソッと私や近場の人だけ聞こえるように呟いた。

「ここに居る俺達は、みんなカオリちゃんが立派な冒険者だと分かっているからね、あんな奴らの言っていることは聞いちゃダメだよ。セイラさんも同じように思っているから、アレだけ怒っているんだからね」

 その冒険者はこちらを見て微笑んでくれた、周りにいた冒険者達もその言葉に頷いてくれている。

 暫く黙ったままだったセイラが、ゆっくりと口を開いた。

「……そんな事はありませんよ」
「あぁ?」
「彼女は、この世界の仕事概念を変えてくれる、この国注目の冒険者です。彼女を侮辱する事は……この私が許しません」
「あぁ?何言って……」
「これを見てください」

 そう言ってセイラが取り出したのは、感謝の手紙や私指名の依頼書の数々だった。

「貴方達、指名依頼を受けた事がおありですか?こちらが彼女への指名依頼で、もう片方は感謝の手紙です」
「……ヒョッ!?」

 セイラが出てきた手紙と指名依頼書を見てスキンヘッズは驚愕していた、周りに居る3人も顎が壊れるんじゃないか?ってくらい口が開いている。

「お、親びん!こんなに手紙と指名依頼が!」
「あ、あのガキが!?そんな訳ないだろうが!」

 スキンヘッズが強引に受付口から手を伸ばし、何枚もの手紙と指名依頼の紙を奪い取った。

「なっ!?止めなさい!」

 奪い取ったスキンヘッズは宛先を見ると、全て私の名前宛になっているのを見てしまう。

「ムッキー!!!こんなの認められるかぁぁぁぁぁ!Bランクの俺達以上に目立つなんざ許さねぇぇぇぇ!!!!」

 ビリビリッ!ビリビリッ!

「あっ……」

 ヒラヒラと破られた紙が舞い落ちる。
 私は手を伸ばすも、無意味に終わる。

 手紙が、破られた。
 私への、みんなの心がこもった、大事な手紙が……
 私を指名してくれた、大事な依頼が……
 涙が溢れ出し、膝が折れて床に付く。

「カオリちゃん!」

 周りの冒険者達から心配され、女性冒険者が私の背中を摩ってくれてる。

 破られた。

 やぶられた。

 ワタシへノ……テガミ……

「「おねーちゃんの大事な物を破るなぁぁぁぁぁ!!!!」」

 それを見た2人は即ブチ切れ、4人組に目掛けて飛び出そうとした……が。

「「っ!?」」

 私は、2人の手を掴み離さなかった。
 今も私の目からは大量の涙が溢れている。


 私の、大事な物を……破り捨てるなんて……

 よくも……


「……ゆるさない」


 私は2人から手を離し、バチバチと放電を始まる。

「「香織おねーちゃん!?」」

 梅香ちゃんと桜ちゃんは、咄嗟に私から冒険者達を引き離して防御壁を発動、冒険者達を守ってくれた。


 アイツら……

 ゆるさない……!

 ゆるさない!!!!!



 プツンッと、頭の中の筋が……切れてしまった。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 100%全開で放電、4人組目掛けて全力で踏み込む。
 一線の稲妻となりて、私はまずスキンヘッズに迫る。

「ヒョッ!?ぐぼあばばばぁぁぁぁぁぁ!!」

 私は、思いっ切り雷全開でスキンヘッズを殴りつけた。
 私自身に力は無いものの、感電+放電+運動エネルギーの力で威力が跳ね上がっており、スキンヘッズは痺れながらぶっ飛び……壁に叩き付けられた。

「お、親びーーーん!あばばばばばばば!!」

 後の3人は、私の放電で再起不能にまでしてしまった。

「フーッ!フーッ!」

 私はまだまだ止まらない、壁に叩き付けられたスキンヘッズに急加速、倒れている身体に跨り何度も……何度も、素手でスキンヘッズの顔を殴った。
 何度も、何度も、何度も……

「よくもっ!よくも私宛の大事な手紙を!みんなの心がこもった手紙を!!よくもっ!!よくもっ!!よくもっ!!うあぁぁぁぁぁぁ!!」

 私は、完全に我を失い、暴走してしまっていた。

「ぐずっ、やめて……」
「うっ……香織、おねーちゃん……」

 2人は泣きながら私を止めようとするも、止まらない。

「クソ野郎!クソ野郎!!クソ野郎!!!ああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 私は、人生の中で1番と言えるほどに怒り狂っていた。
 既にスキンヘッズの意識はない、殴られた所が真っ赤に膨れ上がり、ボロボロになっていた……私の手もだ。
 幸いだったのは殴っている間は放電していなかった事、おかげで殺してしまうという最悪の事態にはならなかった。

「「やめて……」」
「「やめてえぇぇぇぇぇ!」」
「……っ!?」

 大きな声がようやく私の耳に入ってきて、殴る手を止めた。

「わ、わたし……何を」

 私は、2人の号泣に近い叫び声で……我に返る事が出来た。

 その時、冒険者ギルドの扉が開けられ1人の男が入ってきた。

「何事だ!?」

 ガタイが良く、片目に眼帯をしている大男。
 近くにいた冒険者達が騒ぎ出す。

「ギ、ギルマス!ギルドマスターが帰って来たぞ!」

 あの大男は、この冒険者ギルドの1番偉い人……ギルドマスターだった。
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