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警備隊の見習い探し

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「それでは、訓練開始!」

ルシエナの掛け声と共にカーンと小気味良い音が鳴り、一斉に見習いの子達が散開する。

俺とサチは二つ目が鳴るまでこの拠点で待機だ。

ところでそれ、うん、そのフライパンとおたま見せてくれる?

ふむ、よくよく観察するとところどころ改良されていて綺麗な音が出るように工夫がされている。

見た目こそフライパンとおたまだが、これはちゃんとした音具だな。

恐らくこれを置いていったのは以前うちに来たあの二人組だろう。

これを見る限りなかなか上手くやっているようだ。今度これの名前を教えてもらおう。

音具を見せてくれた警備隊の子に礼を言って返す。

この島には俺とサチ、フラネンティーヌ、ルシエナ、見習いの子達の他にも何人か警備隊の子が来ている。

見習いの子達に万が一の事も無いように万全の体制で今回の訓練は行われているので安心できる。

ちなみに彼女達は自主希望によって手伝いを申し出た子達なので無条件で終了後アイスが食べられる事になっている。

「アイスーアイスー」

俺の後ろの方で鼻歌交じりに作業をしている子がいるが、聞かなかったことにしてあげるのが優しさだろう。

警備隊でも徐々に料理を食べる事が広まりつつあるようだ。

元々ルミナが警備隊なので縁があるという事もあってか、配達事業が始まると早々に頼むようになったらしい。

フラネンティーヌ曰く、料理に興味を持ちすぎるとまた抜けられて困るので、そうならないようにするのに四苦八苦してるとか。隊長もなにかと大変なようだ。

さて、動けるよう体をほぐしておかないとな。

さっきここに来るまでの感じだとこの島は結構起伏のある島のようだ。

段差のある地形に加え、木も多く生えているのでところどころ根が飛び出ていて地面の状態は非常に悪い。

一応人がよく通る歩道には木の板を埋め込んで補強はしてあるが、それ以外の道は気をつけて歩かないと躓きそうだ。

うーん、こんな自然のアスレチックフィールドのようなところで見習いの子達を見つけないといけないのか。

「ソウ様、そろそろお時間です」

「ん、わかった」

ま、ダメもとでやるだけやってみよう。



「あ、そこに居ます」

「ここか?」

サチが示す場所に向かって拾った木の枝を突き出すと一見何も無い場所に手応えを感じる。

「あうっ」

声がすると同時にそこから人の姿が現れ、枝が当たったわき腹を押さえる。

「集中が甘いですね。失格です」

「うぅ・・・」

しょんぼりした様子で見習いの子は拠点へ向かって歩いて行った。

「これで三人目か」

「はい。念には自信があるのでしょうけど、まだまだですね」

サチの話だと姿を消す念というのはそれなりに難しく、静止状態が崩れると切れてしまうらしい。

なので何か刺激を与えるといいと言われたので俺は木の枝でつつくことにした。

手で触ったりしても発見出来るが、その時変なところ触ってたら大変だしな。サチが怒って拗ねそうだし。

そうやって隠れているのを見つけたのが今ので三人目。

サチの念を見つける念の精度はかなりいいようだ。

「最初の子に感謝しないといけませんね」

「ははは。彼女は不運だったな」

二つ目が鳴り、拠点を出て十歩ぐらいで俺は何も無いところにぶつかった。

その衝撃で姿を現し見つかった子がいた。

どうやら拠点の近くなら念で隠れていれば大丈夫だと思っていたらしい。

それで俺が一直線に自分に向かってくるので神には自分が見えているのだと思ったようだ。偶然だったんだけどな。

そんな事があったので、他にも同じように念で隠れている子が居るのではないかと思い、サチに念を見つける念を使ってもらっている。

この見つける念は簡単に言えば潜水艦のソナーや蝙蝠の超音波のようなもので、使用者を中心に一定範囲内の念の使用状態を把握できる。

普段から視察などで精霊石の特定をしたり、空気の層を円形に展開したりと色々やっているサチにとって造作も無いことのようで、説明したら直ぐ実践してくれた。優秀だなぁ。

そんな感じで念を使って何かしている見習いの子は俺達が近付くと直ぐに見つかった。

「うーん。とりあえず念で姿を消しておけばいいという考えの子が多いなぁ」

「そうですね。ルシエナに後で報告しましょう」

「俺としては・・・」

「どうしました?」

明らかに違和感のある土山に近付いて掘り起こすと中に人の姿が見える。

「こういう事する子を見つけるほうが楽しい」

中にいる子を引きずり出す。

「あー見つかっちゃった。念は使ってなかったのになぁ」

「発想は悪くないがこれじゃ掘り起こしてくれって言ってるようなもんだぞ。不自然すぎる」

「なかなか難しいです」

「何個か土山を作って誤魔化したり、土山と穴を作って穴の方に潜ったりすれば見つかる確率はもう少し下がるんじゃないかな」

「おぉ、なるほどー」

「だからってそのままやるんじゃダメだからな。自分で考えてやってみるのが大事だぞ」

「わかりました。ありがとうございます」

「うん。ちゃんと土落としてから戻れよー」

「はーい」

助言を貰ったからか失格になったのに嬉しそうに戻っていった。

「ソウはまめな人ですねぇ」

「そうか?」

「先ほどから念を頼らない子には一人一人助言をしているではないですか」

「そうだっけ。・・・言われて見ればそうかもしれない」

別に念に頼るという事自体は悪くは無いんだが、折角ならば念に頼らず頑張ってみようという姿勢を見せる子の方が俺としては応援したくなる。

念の事は詳しくわからないので助言のしようがないというのもあるが、ただ失格にするよりは何か新たな考えのひらめきの助けになれればと思う。

そんな感じで見つけながら歩き、島の半分ほど進んだところで三つ目が鳴った。

「お、三つ目だ」

「それでは私達は少し休憩しましょうか」

「え、いいのか?」

「問題ありません。ここからが本番ですから」

「どういうこと?」

手ごろな岩に座りながらサチに聞く。

「本来今日の訓練はルシエナとフラネンティーヌが最初から探すという内容でしたので」

「そうなの?」

「はい。私達が訓練の参加を希望したので内容を少し変えてもらいました」

サチから冷たいお茶を貰う。歩いて火照った体に染み渡って美味い。

「そうだったのか。ま、そのぐらいの方が俺も気楽でいいな」

「私の想定よりかなり多く見つけましたけどね」

「どのぐらい見つけると思ってたんだ?」

「せいぜい二、三人程度と思っていました」

「ははは。実は俺もそれぐらいだと思ってた」

「ソウの発想力を甘く見ていました。申し訳ありません」

そうやって謝るサチの口元は少し嬉しそうだ。

恐らくサチの言う予想の人数は最低値だろう。

そう言っておけば上回れば上回った分だけ俺の評価が上がるだけだからな。

人によっては失礼と思うかもしれないが、俺とサチの間柄だから気にしない。

あーでもそういうことにして何かお仕置きのような事をするのは面白いかもしれないか。ふーむ。

そんな悪い考えを巡らしていると遠くで悲鳴が聞こえる。

あぁ、ルシエナが暴れてるのか。

「ひー、あんなのどうしろって言うのよー」

「ん?」

見習いの子が体中に葉っぱをつけながら飛び出して来た。

「あ、ソウ様、サチナリア様・・・」

「や」

「あ、どうも。あぁっ!?」

俺が軽く手を挙げて挨拶すると相手もお辞儀を返す。

しかしその次の瞬間その子の持ってた木札が砕け散った。

サチを見るとその子に向かって指を指しながらお茶を啜っている。

どうやら念で木札を破壊したようだ。容赦ないな。

「うぅ・・・」

「残念だったな」

「え、あ、はい。ありがとうございます」

がっくりと膝から崩れ落ちた子の葉っぱをとってやる。

「次は頑張れよ」

「は、はい!」

頭を撫でてやると失格になったショックから立ち直って戻っていった。

サチが羨ましそうに見ているがお前は後でな。とろけた顔を他の人に見せるわけにはいかないだろ。うん、後で必ずやるから。

休憩もそこそこに切り上げ、見習いの子探しを再開する。

ルシエナが暴れているので姿を現して逃げる子をちらほら見かけるようになったが、見つけた瞬間サチが木札を破壊するので実質さっきと変わらない状態になっている。

「俺のやる事がないな」

「ソウは失格になった子を慰めるのが仕事ですよ」

「あ、そうなのね。じゃあ頑張ろう」



四つ目が鳴り、フラネンティーヌが参加すると島中から色々な音が聞こえるようになった。主に悲鳴だが。

さっきフラネンティーヌと会ったが、物凄い速さで木々をすり抜けて現れ、一言挨拶をすると再び風のように去って行った。

あれじゃ見つかった瞬間何も出来ずに失格になるな。さすが隊長をやっているだけある。

「惜しかったな。次はがんばれ」

「は、はい」

そして俺はすっかり失格になった子を元気付ける係になってしまった。

サチもフラネンティーヌが参戦したことでやる事が少なくなったのか、小さな怪我をしている子を治したりしている。

そうこうしているうちに五つ目が鳴り響き渡り、訓練終了となった。

拠点に戻ると失格になった子は実に八割を超えており、如何にルシエナとフラネンティーヌが凄いかが分かった。

一方生き残った見習いの子は木札を胸に抱えて嬉しそうだ。

そんな中、手伝いに来ていた警備隊の子が少し焦った様子でいる。

話を聞くとなんでも一人戻ってきてない子が居るらしい。

「では失格した者の中で見つけた者は失格を取り消しとします」

フラネンティーヌがそんな事を言うので失格者達が一斉に飛んで捜索に向かった。

しかしそれでも見つかったという連絡が来ないので仕方なく俺とサチも探しに出る事にした。

「どういうことでしょうね。これだけの人数で探しても見つからないのはおかしくありませんか?」

「そうだなぁ」

いつもの体勢で飛びながらサチと捜索する。

「まさか島から脱出したとか」

「そんな事はしないだろう。やったらどうなるかぐらいわかるだろうし」

「そうですよねぇ。うーん」

二人で考えながら飛んでいるとふとあるものが目に留まる。

「サチ、ちょっとあそこに降りてくれ」

「あ、はい。わかりました」

俺とサチが降りたところは小さな池だ。

池のところどころから岩が飛び出ており、休むにはなかなかいい場所だ。

「・・・」

そんな岩の近くに小さな枝が飛び出ている。

「ソウ?」

「ちょっと静かに」

その枝をよく見ると筒状になっており、耳を近づけるとかすかに空気の流れる音がする。

葉を拾って上に乗せるとその空気の流れでするりと落ちる。

穴を指で塞いでみる。

・・・。

「どぅっはー!!」

しばらくすると水柱が上がって中から人が飛び出して来た。

やっぱりか。

「もう訓練終わったぞー」

「あ、ソウ様!そうなっ、えほっえほっ」

「大丈夫か?」

「大丈夫っす。はー、苦しかった」

「すまんすまん。さ、濡れた服を乾かして戻ってくれ」

「うっす。お手数おかけしました!」

さて、俺も戻・・・れないな。

サチが笑いすぎて呼吸困難になっていた。



全員が拠点に戻り、今回の総評をフラネンティーヌがみんなに向かって話している。

「本日の訓練で分かったと思いますが、日頃の鍛錬だけではなく状況に応じて対応する能力が警備隊には必要になります。常に考え、最善の選択が出来るよう勤めてください。以上」

「はい!」

「それではソウ様、何か一言お願いします」

「え?・・・んーそうだな」

突然振られたから何も考えてなかった。

「今日一緒に参加させてもらったが、今回の訓練で失敗した事、成功した事どっちもいつか役に立つので心のどこかに留めて引き続き研鑽を頑張って欲しい。今日はとても楽しかった。また一緒に出来ると嬉しい。以上かな」

「はい!ありがとうございました!」

はー、緊張した。まだ慣れないなぁこういうことは。

こういうところでの一言は無難な内容でいいらしい。後でサチにどうだったか聞いてみよう。

「えー、それではこの後褒美の配布に移るが、一つ朗報がある」

朗報と聞いて全員の視線がルシエナに集中する。

「ソウ様の計らいにより全員配布となった!」

「おおおおお!!」

ははは、見習いの子達が全力で喜んでる。

俺の計らいという事になっているが全てサチの策だ。

ま、あれだけ頑張って何も無いのは可哀想だしな。

そして守りきった子にはクッキーが追加される事になった。

まだこれは農園で出されて無いだろうから貴重だぞ。

アイスがみんなに行き渡ると各々談笑しながら口にしている。

こういうのを見ると今日来て良かったなと思う。

また呼んでもらおう。



帰宅後風呂に入りながら今日の感想を話す。

「まさか池の中に隠れているとはな」

「あれは私もびっくりしましたね。・・・ふふふっ」

その時の光景を思い出して再び肩を震わせて笑っている。うちのサチさんは笑いの沸点が低い。

「しかしよくわかりましたね」

「んー、前の世界で忍者ってのがいて、そいつらがやってたからなぁ」

「そんな事をする人がいたのですか?」

「実際はどうか分からないけどね。本当に居たかどうかも、やっていたかも」

「少し気になりますっ」

サチがこっちに振り向いて目を輝かせて聞いてきた。

そこで俺の知っている忍者の話をした。

実際の忍者、後の人が描いた忍者、そこから発展した空想の忍者など色々だ。

サチはそれを興味深そうに聞いていた。

「女の忍者もいてくノ一って言って男の忍者とはまたちょっと違った活動をしてたらしい」

「へー」

「下界にも居ると思うぞ、忍者もくノ一も。もしかすると違う名称になってるかもしれないが」

「え!?ちょっと調べてみます!」

興味あるのはいいけど何も風呂で調べなくても・・・あ、もう見つかった?早いな。

「これですか?」

「あぁそうそう、こんなような感じが一般的に知られてる忍者像だな。くノ一はこっち」

「なるほど。他にも忍者の話はないのですか?」

「あるけど話すのは風呂から上がったあとな」

「わかりました、ではあがりましょうか」

いきなり立ち上がるなって。尻が目の前に来てるぞ。

その後、サチの忍者への興味は尽きず、色々と話す事になった。

終いには収集してあったくノ一の服を着て、くノ一と悪代官ごっこする事になった。

なかなかに盛り上がった。
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