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新人歓迎会合

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下界のオアシスの街は良くも悪くもいつも騒がしい気がする。

どうもここのところ木剣のキーホルダーに続く商品を売り出そうとする商人がいるようだ。

問題はその商品。

二人の男女をモチーフにしたキーホルダーや置物だ。

このモデルになった男女が問題で、現在商人と街の上層部員が口論している。

モデルは末裔の夫婦。

そこまで造詣が上手くないので正直誰がモデルになっているかなんて分からないのだが、街としては良くないと判断したらしい。

ただでさえ木剣のキーホルダーのモデルが末裔の木剣という事が当人にばれないようにあれこれ裏で動いているのに、更に心配事を増やされては困るというのが上層部側の言い分だろう。

一方で商人側はそんなの分かるわけないだろうというので口論しているんだろうな。

言い分としては商人の方に分があるとは思う。

実際あの二人が木剣のキーホルダーを面白そうに眺めていたりする光景は何度も目にしたが、そもそも夫婦になる程仲良くしている二人にこれ以上の恋愛成就の願掛けなんて必要ない。

商人達も末裔夫婦が木剣のキーホルダーをお土産程度としか思ってない事を知っているので、今回の行動に踏み切ったのではないだろうか。

「なぁ、サチ」

「なんですか?」

「うちの信者を信仰する人はどういう扱いになるんだ?」

「どういう意味ですか?」

「末裔みたいにうちの信者がいるだろ。その末裔を信仰する人はどうなるのかなって」

「そうですね・・・。例えばその信仰対象者に神を感じていれば問題なく信者になります。しかし、人柄や生き方などその人個人を信仰対象とした場合信者にはならないと思います」

「ふむ。なんとなくわかった」

前者は神社や寺、教会等の関係者を見るととりあえず拝んでしまう人なんてのがいるが、そういう人ならそのまま信者として考えられる。

後者の場合、指導者、勇者、部隊のトップなどカリスマを持った人の思想や行動に共感した人だと信者として考えられないわけか。

では末裔の勇者の場合はどうだろうか。

今木剣キーホルダーで信者化しているのはそれを持つことで彼らと同じ利益がもたらされると考えられているからだ。

これが彼らをモデルにしたものになったら彼らから利益を授かろうと言う事になる。

なるほど、それは信者が減るので困る。

言い分は商人側にあるが利害は上層部側にあるな。

どっちに転んでも俺が何かしてやれる事は無いわけだけど。

む、商人側が折れたか。

相手が街を仕切ってる組織だからな。

仮に商品を開発したとしても目をつけられてしまっていては上手くやるのは難しいだろうし。

気落ちする商人に対して上層部員は更に何か話しかけると商人の顔色が良くなる。

ここがこの街の上層部の凄いところで、たとえ口論の相手でも見込みを見出せれば思考の方向性を変えて味方につけてしまうのだ。

そうでなければこんなオアシスとはいえ砂漠の中に街なんて出来ないだろう。

凄い事だなぁ。



「キ」

「お、来たか」

空間を割って入ってきたのは案内鳥。

今日は会合があるので迎えに来てくれた。

サチから事前に会合がある事を聞いていたが、今回は新入りの歓迎会らしいので気楽に臨める。

「じゃあよろしく頼む」

「キ!キェー!」

どんな人なんだろう。出来るだけ優しく接せられるといいな。



会合場所に着いて早々。

「ぬおおお!兄貴ぃぃ!」

「お兄さんやあぁぁ!!」

犬神と猫神が凄い速度でこっちに来た。

なんだなんだ。

「この度は本当に申し訳ない!」

「すまぬ!この通りじゃ!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて。とりあえず頭を上げて」

二神から遅れて息を切らしながら来るお供の犬猫を待ってから話を切り出す。

「どうしたのさ、来て早々に」

「いやさ、この前の神竜の件だ。兄貴のところに迷惑をかけちまったからな」

「あぁ、その事か。だからって二人が謝る必要は無いんじゃないか?」

「そういうわけにもいかぬ。我らは移民希望者の管理も担っておるからの」

「そうなのか」

自分達が管轄する世界の事もあるだろうに、移民者達の面倒もみてるなんてこっちが頭を下げなければならない気がする。

「しかも今回はな・・・」

「うむ・・・」

「どうした?」

「以前会った時に移民の話をしたが、それを遠くから聞いていた者がおってな。しかもその中に丁度あの神竜の移民候補先があっての」

「どうやら俺達が兄貴に移民の相談していると思ったみたいで、神竜の奴に兄貴の事を話したみたいなんだ」

「そうだったのか」

「もちろん勝手お兄さんのところに行った神竜が悪いが、勝手に情報を与えた者やうちらにも非がある」

「だからすまねぇ兄貴!この通りだ!」

そう言って再び頭を下げてくる二神。

「いや、うん、大丈夫、怒ってないから」

「本当か?」

「うんうん。今のところ神竜も問題ない様子・・・みたいだし」

サチを見るとしっかり頷いてくれた。既にお供の猫を撫で回しながらだったが。

「そうか。ほっ・・・お兄さんが話せる人でよかったわ」

「本当だな」

「しかし正規の手順と違う方法で受け入れてしまったわけだが、そこは大丈夫なのか?なんか推薦が要るらしいが」

「おう、それなら問題ない。既に規定数を大幅に超えた量の推薦を貰えてるから正式に移民として扱えてるぞ」

「え、そうなの?」

「その中には勘違いして話した輩も含まれておる。謝罪と一緒に受け取ってくれるか?」

「うん、勿論。ありがとな、色々してくれて」

「なに、本来の仕事をしただけよ。今回の件、心から感謝する」

「ありがとうな、お兄さん」

「うん。じゃあ神竜の移民の話はこのぐらいにして、いつものやってく?」

「おう!是非頼むぜ!」

「あ、こら、今回はこっちが先だと言うたろ!」

懸念していた神竜の件も問題なくなったし、後は彼女次第だな。

今度報告兼ねて様子見に行くとしよう。



二神は大変満足して別の神のところに行った。

そういえば今回は新入りの歓迎って聞いてたけど、様子はいつもとあまり変わらない。

体の向きが比較的同じ方向を向いているぐらいか。

恐らくみんなが向いている方にいるのだろうが、遠慮しているのか、様子見ているのか視線だけ向けている人が多い。

俺の時もこんな感じだったんだろうな、きっと。

「顔だけでも見ておくか」

「そうですね」

視線の方向に近付いていくと何やら話し声が聞こえる。

あぁ、この声と口調は糸目の神がいるな。

彼は飄々とした雰囲気で食えない印象があるが、こういう時に率先して交流しようとする面倒見のいいところがある。

彼の視界に入らないところで遠巻きに見ていたのに急にこっちを向いて手招きしてきた。

「丁度いいところに。ちょっとこっち来てよ」

何が丁度いいところにだ。

既に俺の気配に気付いていただろう。

しょうがない、見るだけと思っていたが挨拶もしていこう。

「こんにちは」

「こ、こんにちは!はじめまして!」

糸目の神の隣にいたのが新人の神。

外見は少年神よりは大人だが、俺や他の神よりは若くみえる。

おどおどしているが、それでもちゃんと挨拶できてるし、第一印象は良い。

うしろには同世代ぐらいのお供の女性がいる。

メガネをして、おかっぱの長髪。彼と同じ人型だ。

どことなくサチと似た雰囲気を持ってる子が俺の視線に気付いて静やかにお辞儀をする。

「彼、君よりほんの少し前に神になった人。いわば同期みたいなものだね」

「そうなのですか!よろしくお願いします先輩!」

「いや、今同期って紹介されたでしょうに」

「でも、少しでも先なら先輩ですし!それになんというか、凄く落ち着きがありますし!」

「そう見える?」

「うん。君は最初から妙に落ち着いてたよ。普通は彼みたいになってる」

「そうなのか。とりあえず先輩はなんか恥ずかしいからやめてくれ。今後長く顔合わすことになるんだし、上下関係とか無しで頼むよ」

「わかりました、先輩!」

「・・・」

「くくく、どうあってもそう呼びたいようだね。諦めなよ先輩クン」

「しょうがねぇなぁ。ま、これからよろしくな」

「はい!」

その後少し話をしてから糸目の神と離れる。

彼のところには既に別の神が挨拶しに行ってる。

「彼、どう思う?」

「ん?なかなか活発そうでいいじゃないか。挨拶もしっかりしてるし」

「そうか。君がそういうなら大丈夫かな」

「どう言う事だ?」

「んー・・・。僕も色々な新人を見てきたけど、彼みたいな子はなかなか長く続かない事が多くてね」

「そうなのか。難しいものな、神の仕事」

「うん。君はそういうのをよく理解しているからいいのだけど、そこまで考えが至らない子も多いからね」

「あいつはちょっと人の話聞かないところがあるが、後ろにいたお供の子、彼女が上手くやってくれるんじゃないかと思う」

「ほう。やはり君の感性は面白いね」

「そうかな。今の俺がそんな感じだからかな。俺の連れとなんとなく雰囲気が似てると思ったからってだけなんだけど」

「なるほどなるほど。いい意見ありがとう」

「こんなんで参考になるのか?」

「うん、とっても」

「そうか。お前がそういうならそうなんだろうな」

「うん。よし、君のお墨付きももらえたし、うちの子に色々な情報を提供してあげるよう言っておくよ」

「あぁ、よろしく頼むよ」

そういうと軽く手を挙げてから糸目の神は自分達のお供のところへ向かって行った。

俺の感想なんかが参考になるのかと思うが、彼なりに何か考えがあるのだろう。



その後、刀傷の神や木の神にも挨拶するとそれなりに時間が経っていた。

「さて、そろそろ帰るか」

「そうですね。案内鳥さんを呼びましょうか」

「お待ちになって!」

サチが案内鳥を呼ぼうとしたところを後ろから呼び止められる。

「・・・。サチ、俺振り向きたくない」

「偶然ですね、私もです」

「ちょっと!聞こえる声でわざと言わないでくださいまし!」

はぁ、しょうがねぇなぁ。

振り向くと案の定騒音ドリルことアルテミナが少年神を抱えてふんぞり返っていた。

「オーッホッホッホ!」

「おーっほっほっほ!」

あーうるせぇ。

「お姉様!突然走り出さないでください!まったくもー」

ハティも後から来た。

相変わらずこの三人は元気そうだなぁ。

「それで、何の用ですか?」

「サチナリアさん!貴女、私に挨拶もなしに帰れると思っているとでも!?」

今日はいつにも増して動きにキレがあるな。

「思っていましたが」

「なんですって!?」

リアクションもいつもより激しい。なにからなにまでうるさい。

「今日やたらと元気だけど、どうかしたの?」

「おにいちゃんのところにどらごんさんがいったでしょ。おねえちゃんはそれがうれしいみたい」

「なるほど」

「ふん、貴方に神竜を御せるとは思えませんけど」

別に御するつもりはない。

共に生活できれば嬉しいぐらいだ。

「もー。はてぃちゃんもすなおじゃないんだからー。ふたりともさいしょすごくしんぱいしてたよ」

「そうなのか。ありがとな」

「もっと褒めてくださっていいですわよ!」

「お手並み拝見といかせていただきますわ」

・・・疲れるなぁこの二人。

この二人と一緒に居て楽しそうにしている少年神は本当に凄いと思う。

「それで、本当に何の用なのですか?まさか挨拶が無かったからそれをわざわざ言わせるために来たとかではないですよね?」

「さすがサチナリアさん!その通りですわ!」

「・・・」

サチが心底うんざりした顔をしてる。多分俺もしてる。

「はぁ。それはわざわざありがとうございます。相変わらず無駄に元気そうでなによりです」

「私も元気そうな貴女を見られて嬉しいですわ!」

「あ、はい。ありがとうございます」

皮肉を言ったつもりが真正面から返されて照れてしまってる。可愛いぞ。

「あぁ、それと、これを差し上げますわ」

アルテミナが空いてる手に小さなパネルを浮かべるとそれをサチに渡す。

「これは・・・神竜の詳細な情報ではないですか」

「えぇ。お役に立てるのではないかと思いまして」

「ありがとうございます。助かります」

「よくってよ!よくってよ!オーッホッホッホ!」

この高笑いさえなければいい奴なんだがなぁ。

「助かるよ。今度何か礼でも持ってくるよ」

「いいえ結構ですわ。移民した方を大切になさってくださればそれが何よりのお礼になります」

「・・・そうか。わかった」

「えぇ。よろしくお願いしますわ」

そういうアルテミナはいつもの高飛車な騒音女と違ってどこかの高貴な令嬢のような微笑を浮かべていた。

こういう表情もできるんだな。

「さて、それではサチナリアさんの顔も拝見させていただきましたし、私達はこれで失礼いたいたしますわ!」

「うん。見送りありがとう」

「それではごきげんよう!オーッホッホッホ!」

「ごきげんよう」

「またねー」

どこか気品のある三人は最初から最後までうるさく帰って行った。

「さ、俺らも帰ろう」

「はい」



「ふー」

自分の空間に戻ってくるとどっと疲れが出る。

「アルテミナがくれた情報ってなんだったんだ?」

「様々な神竜の生態や歴史などですね。早速移民補佐官に必要な分を送っておきました」

「ご苦労様。それ、俺も読んでおいたほうがいいかな」

「・・・うーん・・・」

「どうした?」

「いえ、確かに情報を入れて置く事はいい事ですが、ソウにはありのままの彼女と向き合った方がいいのではないかと思いまして」

「・・・ふむ。わかった、じゃあ俺が求めたら必要なことだけ教えてくれ」

「わかりました。ありがとうございます」

俺には神竜としてではなく、ドリス個人として向き合って欲しいということなんだろう。

前情報を持たずに応対する方が今のところいい方向に転んでいるからなぁ。

もし何か分からない事があればサチなりドリス本人なりに聞けばいい事だし。

サチはその辺りを考慮して提案してくれたのだろう。良く出来た補佐官だ。

「そろそろ様子見したいところだな」

「経過も順調という報告をもらっているので打診しておきます」

「よろしく」

移民補佐官とも会っておきたいし、楽しみだ。
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