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前の世界の童話

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北の領に滞在していた女主人と行商人兄妹は馬車に乗って月光族の港町に帰っていった。

領主の様子を見ると何やら慌しく部下に指示を出している事から打開案でも出たのかな。

行商人兄妹が港町に戻ってしまった事でしばらくするとここも見えなくなってしまう。

うーん、大河の西にも信者が増えて欲しいところだが、こればっかりは下界の人達次第だからなぁ。

とりあえず俺がやれる事は今の信者達の願いを聞いてあげることぐらい。

内容次第なので叶えるかどうかは別だけど。

そういえば北の領には縄張り意識が強い生物が多いんだよな。

スライムの件があったし、何も人にこだわらずに知能のある生き物から信仰を得る方法も考えたほうがいいかもしれないな。

「と、思うんだけど」

「ソウ、口に出して貰わないとわかりませんよ」

ノリの悪いサチに思ったことを説明する。

「人以外から信者を獲得ですか」

「神力で視野範囲を広げたり維持してもいいとは思うんだけど、それとは別に可能か不可能かって部分も気になったし」

「なるほど。スライムの例を見れば分かると思いますが、可能か不可能かと言えば可能です。しかし、人を信者にするよりかなり難しいかと」

「ふむ。そうか・・・」

「確率の話にはなりますが、魔獣使いやテイマーのような人と良好な関係の生き物であれば野生の生き物よりは可能性は上がるかもしれません」

「ほう。詳しく」

「基本的に今の信者の可否は神様という存在が居るということを頭に留めているかどうかで決まります」

「うん。そうだね」

現状明確な神のイメージが無ければ無いほど信者として成立するというちょっと不思議なルールになってるんだよな。

「信仰する様子を人と関わる事が多い生き物が見れば、真似から入り信者化する可能性が出てくると思います」

「要は親の真似をする子供みたいな感じ?」

「そうです。それならば信者になりうることもあるのではないでしょうか」

「なるほど」

確かにサチの言う方法であれば信者が増える可能性があるな。

だが、それは結局人が居るところでなければ無理な話なので、俺の欲しい答えとは少し違う。

やっぱり難しいのかなぁ。

そう考えるとあのスライム達はかなり特殊なのか。

・・・いや、サチの例に当てはめると過去に人と共に居たスライムが野生化して、その知識を合体する事で共有したのかもしれない。

かなり前向きな解釈ではあるが、そういう事も考えられるな。

つまりなんらかの形で人との関係を持てれば可能性はグッと上がるわけだな。

「植物とかも信者になるのかな」

植物を生き物と定義するかどうかは別として、彼らも密林を見ると意思疎通のようなものをしてたから可能ではないだろうか。

「植物ですか」

「長く生きた大樹とかならありえそうな気はしないか?」

「しかしそれはあくまで人がその大樹を大事にするだけで、植物自体は他の植物の事は気に留めないのではないでしょうか」

「あ、そうか」

「やはり他の生き物と同じで人の影響を受けないと難しいと思いますが、仮に人と意思疎通が出来る植物が現れたら一気に伝播して信者化するかもしれませんね」

「スライムが合体したように森全体で共有する感じか」

「そうです」

「結局人次第ってことか。しょうがない、長い目で見ていこう」

「そうですね」

見えない場所の興味心は無くならないが、後の楽しみと考えるようにしよう。



今日は雨なので家でゆっくり。

サチが俺が前に居た世界の童話に興味を示したので話す事になった。

きっかけは仕事中のテイマーの話。

そこから手懐ける道具の話になり、そういえば前の世界にそんな話があったって話題に出したら、今日は雨だと言う事で話す流れになった。

「そんな大きな桃が流れてくるということは上流はどうなっているのでしょうか」

桃が大きく中に子供が入っているというのはやはり無理があると俺も思う。

仕方ないので別の説の方を話す。

「なるほど、そういう事ですか。しかし出産に耐えられる老婆も凄いですね」

「いや、桃食って体ごと若返ったんだろ?」

「ソウの前の世界にはそんな桃があったのですか!?」

「ないないない。空想だから。全部作り話だからこれ」

「あ、そうなのですか」

なんかこの先が不安になってきた。

「オーガを倒すのに人、犬、猿、鳥では戦力不足だと思うのですが」

「俺もそう思う」

雉の説明をしたのだが俺の説明だと良く分かって貰えず、仕方ないので下界の似たような鳥を想像してもらった。

あとオーガじゃなくて鬼な。

その違いを分かってもらうのにも苦労した。

「つまり下界の勇者のような人が動物を手懐けて厄や疫を起こすアンデッドのような生き物を駆除する話ですか」

「大体そんな感じ。口伝物だから色んな説が出たり、時代に沿うように改変されたりしてるから俺もどれが正確な話かわからないんだよね」

解釈に身も蓋も無いが、おおよその流れだけわかってもらえばそれでいいと思ってる。

「随分と謎や疑問の多い話ですね」

「俺もそう思う。もしかするとあえてざっくりとした流れだけ与えて、後は勝手に解釈するなり話を盛るなりしてねって言う風にしてるのかもね」

「なるほど。だから長く伝わっているのかもしれませんね」

「そゆこと」

「ところでソウ。その動物を手懐けた団子というのを食べてみたいのですが」

「いや、無理だろ」

「みたいのですが」

・・・そういうことね。

「・・・しょうがねぇな。俺が想像した物でいいなら作るけど」

「お願いします」

さて、どんなの作ろうかな。



「ほい。できたよ」

用意したのは色の違う団子数種類。

「いただきます」

サチが最初に手を伸ばしたのは黄色い団子。

「これはトウモロコシですか?」

「そう。すり潰して団子にしたものだ」

「とても素朴な味ですね」

「鳥用だからな」

次は茶色のを手に取った。

「ん、これは肉ですね!」

「うん。犬用」

「肉の味しかしませんね」

「これも味付けしてないから」

「むぅ」

少し物足りなそうな顔しながら最後に残った色の悪いのを手にする。

「これ、少し躊躇します」

「色がな。味は保障する」

「わかりました。では・・・ん!甘いですね!」

「猿用に果物で作ったら色が混ざって酷い色になってしまった」

「でも味はいいですね」

「うん。もう少しその辺りを考えて作ればデザートになるかもな」

「そうですね」

「で、最後にこれが人用」

サチの前に置いたのは小さい瓶。

「これは?」

「塩だ。鳥用と犬用に少しだけ振りかけて食べてみ」

「わかりました。・・・!別物ですね!」

「人は塩を欲する生き物だからな。塩味を美味しいと思うように出来てる」

「なるほどー」

サチが団子に塩をちょっとつけながら食べるのをみながら別の皿を出す。

「それは?」

「これは俺用。ちょっと失敗しちゃって」

「凄い緑色ですね」

「うん。ちょっと分量間違えちゃって」

「頂いてもいいですか?」

「いいけど・・・」

「では。・・・っ!?」

咀嚼したけど飲み込めずに右往左往してる。

お茶で流し込みなさいな。うん、落ち着いて。

「な、なんなんですかこれ!」

「草餅。ちょっと草を入れすぎちゃって」

「うえぇ、これ後味が酷いですよ」

「うん、そうだと思う」

そう言いながら俺も口にする。

作った手前食べないと。

うん、餡子入れたのに全く甘みを感じないぐらい苦いな。

やっぱりこっちの薬草で作ったのが悪かったか。

「大丈夫ですか?凄い顔になっていますけど」

「うん。苦いのは割と慣れてる。・・・が、ダメだ、苦い。砂糖牛乳でも作ろう」

「すみません、私にもお願いします」

「あいよ」

その後砂糖牛乳と色の悪い果実団子のおかげでなんとかこの苦味から脱する事が出来た。

やれやれ、無駄に疲れるおやつになってしまった。
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