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魔族に対しての思い違い
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下界を観察していると予想外の出来事を目撃する事がある。
魔法がある世界故なのか、魔法の暴発による事故が比較的多い。
逆に火災などの災害は魔法によって対処出来るため大きな規模になる事は少ない。
他には夫婦円満だと思ったら奥さんが急に豹変して旦那に襲い掛かるなんて事も見かけた。あの形相は誰でも驚く。
原因は色々あったが、呪いを受けたなんて珍しいケースも。
そんな予想外の出来事にも多少は耐性付いてきたかと思っていたのだが、そんな事は無かった。
「どうしようこれ」
とりあえず慌てて時間を止めてみたものの、出来る事はこの後起こる事の心の準備ぐらいしかない。
今画面には夜の月光族の村が映っている。
そこには複数名の魔族が一つの家に忍び寄っている状態。
家には商館の女主人と行商人の兄妹が泊まっている。
どう見てもこの後この家は襲撃される。
「加護の発動準備は出来ています」
「うん。ありがとう」
サチは俺がこういう場合でもおいそれと神力を使わない事は分かっている。
それでもこういう風に言ってくれるのは俺の気持ちを落ち着かせてくれるためだ。
嬉しい気配りだと思う。
「・・・よし」
深呼吸してからスローで時間を進める。
固唾を呑んで見守る。
襲撃者は魔法で警備の男を眠らせてからそっと女主人と行商人兄妹に近付く。
先に兄妹を捕らえてから襲撃者は女主人を起こす。
・・・ふむ、起きた女主人は冷静だな。
状況を見て抵抗せず大人しく捕まっている。
賢明な判断だが、少し冷静すぎる気もする。
いや、これぐらい冷静だからこそ商館の女主人にまで登り詰められたのかもしれない。
三人はそのまま襲撃者に用意していた馬車に入れられ、連れて行かれた。
ひとまず凄惨な状況にはならなかったようで一安心。
だが今度は馬車の向かう方角で別の心配をしなければならなくなった。
馬車の向かう方角は南。
魔族の領土と俺が思っている方角だ。
三人を連れ去った襲撃者も魔族だし、これは気を引き締めないといかんな。
仕事の時間が終わっても頭が仕事から切り替わらない。
これから魔族と本格的に向き合わないといけなくなりそうだからな。
「ふー・・・」
「どうしました?」
「ん?んー・・・魔族の事が気になってな」
「何が気になりますか?」
「うーん、何か色々よくわからないんだよね。魔族、魔神、悪魔、亜人色々居て馴染みも薄いからこんがらがってきちゃってさ」
「なるほど。では今日はもう少しここで話してから帰りましょうか」
「そうして貰えると助かる」
今の状態で帰っても思考がまとまらなくてすっきりしないので、サチには悪いが付き合ってもらおう。
サチがパネルを操作すると俺の前に広いテーブルが現れ、俺の対面にサチが座る。
「それではソウの気になる事を吐き出してしまってください。私も分からない部分はあると思いますが、会話する事で整理は出来ると思います」
「うん、そうだね。ありがと」
「はい」
優しく微笑む顔を見るとそれだけでも俺の中での焦りが減る。
「色々と確認していこう。今の魔族ってのは新生魔族で、昔居た魔族とは別なんだよな?」
「そうですね」
「具体的にどう違うんだ?」
「実のところ私も昔の魔族、旧魔族と呼びますが、彼らについてはよく知らないのです」
「そうなの?」
「はい。前の神様からその辺りの情報は頂いていないので、詳しい事はよく分かりませんが野蛮だったようです」
「野蛮と言っても色々あるが、少なくとも文化的ではなかった感じか」
「そうだと思います」
俺の中の野蛮という印象は総じて他に対する考えや思いやりを持ち合わせていない輩の事かな。
「そういう奴らの中に魔王って言われる奴がいて、勇者達に倒されたんだよな」
「そうです」
この勇者というのは今の下界に影響を残した異世界の者ではなく、元々下界生まれの者を神の力で勇者に仕立て上げた者を指す。
「その魔王については何か知らないのか?」
「すみません、残念ながらそういう存在が居たと言う事だけしか」
「その頃は既にサチが補佐官やってたんだよな?」
「はい。ですが、今とは違い、神様を通して出てきた情報をまとめていただけでしたので」
「そうだったのか」
「当時はそういうものだと思っていましたが、次第に違和感を感じるようにはなりましたね」
あのジジイの主観が含まれた内容をまとめていたわけか。
そりゃ違和感を感じるようになるはずだ。
魔王をはじめとした旧魔族について不明だったりと情報の出力が不完全だったのがうかがい知れる。
「今のやり方に変えてよかったな」
「ソウが対等な立場を与えてくれたおかげです」
「何気なく言っただけだったが、いい結果になってよかったよ」
「そうですね」
「で、魔王を倒した勇者はその後魔族をどうしたんだ?」
「抵抗する者は容赦なく。抵抗しない者は従わせていたようですね」
「そうか・・・」
その様子を想像すると少し嫌な気持ちになる。
「何か思う事でも?」
無い事は無いが、今更の話だ。
「いや、続けよう。それで、人の世になったはいいが、各勢力ごとで戦争を始めて勝ち残った一つの国が栄えたんだよな」
「はい」
なんと馬鹿馬鹿しいことだとは思うが、これも種のシステムなんだろうな。
そして一強国として栄えた事で次第にそういう血の気の多さは薄れていったのだろう。
「貧富の格差が広がるのは何となく理解出来るが、何故魔の力に手を出したんだろう」
「それは簡単です。寿命です」
「寿命?」
「基本的に亜人種などの方が若さを保ち、寿命も長いですから。幾ら下に従えていたとはいえ自分達は老いるのに、未だ健勝な姿をしているのを見れば羨むものです。特に富を極めた者ほどそういう心が育ちやすいので」
「なるほど」
「その結果国の力を持っていた者達は魔の力で人ならざる者になり、新生魔族として現れました」
「ふむ。どうやって人じゃなくなったかは不明?」
「はい。残念ながら」
「うーん、そこが分かれば良かったんだがな・・・」
俺が警戒している魔神の存在が関わるとするならここなんだが、致し方ないな。
「そして、国内で小競り合いをした後、新生魔族は神へ反旗を翻し、神様の勢力を次々に押し返しました」
「そこも良く分からないんだよな。何で神に反旗を翻したんだ?」
「すみません、少し語弊がありました。正しくは信仰するのをやめた、ですね」
「あぁ、うん。でもそんなに簡単に信仰を捨てられるものかね」
「今の信仰は神の存在を心に感じているかどうかで決まりますが、当時は神様を自らの意思で信仰しているかどうかでしたから」
「じゃあ例えば信仰の証みたいなものを捨てちゃったら信仰対象じゃなくなるみたいな感じ?」
「その考えでいいと思います」
「そうか。何で信仰をやめたんだろう」
「恐らく小競り合いをしていた時に神様が新たに勇者を用意して鎮圧のために送り込んだせいだと思います」
「は?」
「突然人から魔へなりましたから、焦っての事だと思います」
「そんな事したら魔族からすりゃ邪魔に思うだろうに」
とんだ悪手だ。
身内同士で争っていたところに外部勢力が介入すると、一気に団結してそちらに敵意を向ける事ぐらいわからなかったんだろうか。
しかも元々は勇者の国で、誇りがあったところに新たな勇者を差し向けられれば、そりゃ神に対して不信感を抱くだろう。
確かに神から見れば、勇者同士で戦ったり、貧富を広げて他人を見下したりすれば、人はなんて醜い生き物なのかと思うだろう。
だが、こういう時こそ上手く導いてやるのが神の仕事だと思うんだがな。
「その結果信仰は大幅に減少し、下界での勇者化が難しくなり、異世界の魂を呼び寄せる事に」
「で、呼ばれた人達も信仰回復にはあまり役立てず、最終的に俺が呼ばれたということか」
「はい」
「・・・ふぅ。なるほどねぇ・・・」
どうやら俺は少し魔族に対して思い違いをしていたのかもしれない。
「どうしました?」
「いや、俺より先に下界に降りた人達と同じ心境になってる」
「どう言う事ですか?」
「んー、結局新生魔族がやった事って神からの自立でしょ。それ自体は何も悪い事ではない気がする」
「っ!!」
正直、神側の自滅行為でこのような結果になってしまったと俺は思う。
しかも、あのジジイの説明はかなり主観が入って誇張されていたのではないかとも思えてくる。
サチが衝撃を受けた顔をしている。
「でも、神からすりゃ死活問題か。信仰無くなれば自分は消えるし、生活空間に居る人も困るし、下界も消滅するんだもんな」
「はい・・・」
そういう守るべきものがあったから焦ったのは分からなくも無いが、その対応の仕方が悪すぎだ。
「さて、そうなってくると今の魔族の印象は変わってくるな。俺がイメージしていたのは旧魔族に近いものだったからな」
サチは黙って俯いてしまった。
当時の神が下界の時代の流れに対応出来なかった上、それを無理やり異世界の者にどうにかしてもらおうとしていたわけだ。
何故下界に降りた勇者の信仰が無かったのかの謎も分かった気がする。
自分が下界に居る理由が完全に神のとばっちりだった事が分かってしまえば、そりゃ神に対する信用も消える。
サチもその事に気付いてしまい、召喚した異世界人に対して罪悪感を感じているんだろうな。
別にサチが悪いわけじゃないんだけどな。
「そう落ち込むな。オアシスの街や湖上の街を見る限り、全員とはいかないだろうが召喚された人達は元の世界より良い生涯を送れたと思うぞ」
「そう、でしょうか」
「少なくとも俺自身はこっちに来て良かったと思ってるよ」
「それは本当ですか?」
サチがはっと顔を上げる。
「うん。若干他の異世界人とは違うから説得力はないかもしれないが」
「いえ、そんなことは」
両手の先を口に当てているが顔がほころんでるのが分かるぞ。
こんなんで機嫌が戻るんだからちょろいなぁ。
「さて、俺の中での魔族という勢力自体の危険度は下がったが、結局のところ魔神について、人から人ならざる者になった方法、オアシスの街に越してきた魔族の移住理由とかは分からないままだな」
「そうですね」
「後は実際状況を見るしかないかな」
「はい」
「今後かなり情報収集が大変になるがよろしく頼む」
「お任せください」
「あ、もちろん服装の情報収集もしていいからな」
「・・・ふふっ、ありがとうございます、ソウ」
まとめたおかげで少しは頭がすっきりしたかな。
問題や課題も浮き彫りになってきたが、話してよかったと思う。
色々と思う事はあるが、今後もサチと一緒に頑張っていこう。
余談だが、この日のサチは家に帰っても俺の体のどこかを必ず触ってた。
嬉しいのか不安なのかよくわからないが、転移の後ずっと腕を組んだままだったり、料理中後ろでしがみついてたりしてた。
あのな、そういうことすると俺は我慢しないからな?
問題ない?そうか。
神の体になって本当によかったと思った。
魔法がある世界故なのか、魔法の暴発による事故が比較的多い。
逆に火災などの災害は魔法によって対処出来るため大きな規模になる事は少ない。
他には夫婦円満だと思ったら奥さんが急に豹変して旦那に襲い掛かるなんて事も見かけた。あの形相は誰でも驚く。
原因は色々あったが、呪いを受けたなんて珍しいケースも。
そんな予想外の出来事にも多少は耐性付いてきたかと思っていたのだが、そんな事は無かった。
「どうしようこれ」
とりあえず慌てて時間を止めてみたものの、出来る事はこの後起こる事の心の準備ぐらいしかない。
今画面には夜の月光族の村が映っている。
そこには複数名の魔族が一つの家に忍び寄っている状態。
家には商館の女主人と行商人の兄妹が泊まっている。
どう見てもこの後この家は襲撃される。
「加護の発動準備は出来ています」
「うん。ありがとう」
サチは俺がこういう場合でもおいそれと神力を使わない事は分かっている。
それでもこういう風に言ってくれるのは俺の気持ちを落ち着かせてくれるためだ。
嬉しい気配りだと思う。
「・・・よし」
深呼吸してからスローで時間を進める。
固唾を呑んで見守る。
襲撃者は魔法で警備の男を眠らせてからそっと女主人と行商人兄妹に近付く。
先に兄妹を捕らえてから襲撃者は女主人を起こす。
・・・ふむ、起きた女主人は冷静だな。
状況を見て抵抗せず大人しく捕まっている。
賢明な判断だが、少し冷静すぎる気もする。
いや、これぐらい冷静だからこそ商館の女主人にまで登り詰められたのかもしれない。
三人はそのまま襲撃者に用意していた馬車に入れられ、連れて行かれた。
ひとまず凄惨な状況にはならなかったようで一安心。
だが今度は馬車の向かう方角で別の心配をしなければならなくなった。
馬車の向かう方角は南。
魔族の領土と俺が思っている方角だ。
三人を連れ去った襲撃者も魔族だし、これは気を引き締めないといかんな。
仕事の時間が終わっても頭が仕事から切り替わらない。
これから魔族と本格的に向き合わないといけなくなりそうだからな。
「ふー・・・」
「どうしました?」
「ん?んー・・・魔族の事が気になってな」
「何が気になりますか?」
「うーん、何か色々よくわからないんだよね。魔族、魔神、悪魔、亜人色々居て馴染みも薄いからこんがらがってきちゃってさ」
「なるほど。では今日はもう少しここで話してから帰りましょうか」
「そうして貰えると助かる」
今の状態で帰っても思考がまとまらなくてすっきりしないので、サチには悪いが付き合ってもらおう。
サチがパネルを操作すると俺の前に広いテーブルが現れ、俺の対面にサチが座る。
「それではソウの気になる事を吐き出してしまってください。私も分からない部分はあると思いますが、会話する事で整理は出来ると思います」
「うん、そうだね。ありがと」
「はい」
優しく微笑む顔を見るとそれだけでも俺の中での焦りが減る。
「色々と確認していこう。今の魔族ってのは新生魔族で、昔居た魔族とは別なんだよな?」
「そうですね」
「具体的にどう違うんだ?」
「実のところ私も昔の魔族、旧魔族と呼びますが、彼らについてはよく知らないのです」
「そうなの?」
「はい。前の神様からその辺りの情報は頂いていないので、詳しい事はよく分かりませんが野蛮だったようです」
「野蛮と言っても色々あるが、少なくとも文化的ではなかった感じか」
「そうだと思います」
俺の中の野蛮という印象は総じて他に対する考えや思いやりを持ち合わせていない輩の事かな。
「そういう奴らの中に魔王って言われる奴がいて、勇者達に倒されたんだよな」
「そうです」
この勇者というのは今の下界に影響を残した異世界の者ではなく、元々下界生まれの者を神の力で勇者に仕立て上げた者を指す。
「その魔王については何か知らないのか?」
「すみません、残念ながらそういう存在が居たと言う事だけしか」
「その頃は既にサチが補佐官やってたんだよな?」
「はい。ですが、今とは違い、神様を通して出てきた情報をまとめていただけでしたので」
「そうだったのか」
「当時はそういうものだと思っていましたが、次第に違和感を感じるようにはなりましたね」
あのジジイの主観が含まれた内容をまとめていたわけか。
そりゃ違和感を感じるようになるはずだ。
魔王をはじめとした旧魔族について不明だったりと情報の出力が不完全だったのがうかがい知れる。
「今のやり方に変えてよかったな」
「ソウが対等な立場を与えてくれたおかげです」
「何気なく言っただけだったが、いい結果になってよかったよ」
「そうですね」
「で、魔王を倒した勇者はその後魔族をどうしたんだ?」
「抵抗する者は容赦なく。抵抗しない者は従わせていたようですね」
「そうか・・・」
その様子を想像すると少し嫌な気持ちになる。
「何か思う事でも?」
無い事は無いが、今更の話だ。
「いや、続けよう。それで、人の世になったはいいが、各勢力ごとで戦争を始めて勝ち残った一つの国が栄えたんだよな」
「はい」
なんと馬鹿馬鹿しいことだとは思うが、これも種のシステムなんだろうな。
そして一強国として栄えた事で次第にそういう血の気の多さは薄れていったのだろう。
「貧富の格差が広がるのは何となく理解出来るが、何故魔の力に手を出したんだろう」
「それは簡単です。寿命です」
「寿命?」
「基本的に亜人種などの方が若さを保ち、寿命も長いですから。幾ら下に従えていたとはいえ自分達は老いるのに、未だ健勝な姿をしているのを見れば羨むものです。特に富を極めた者ほどそういう心が育ちやすいので」
「なるほど」
「その結果国の力を持っていた者達は魔の力で人ならざる者になり、新生魔族として現れました」
「ふむ。どうやって人じゃなくなったかは不明?」
「はい。残念ながら」
「うーん、そこが分かれば良かったんだがな・・・」
俺が警戒している魔神の存在が関わるとするならここなんだが、致し方ないな。
「そして、国内で小競り合いをした後、新生魔族は神へ反旗を翻し、神様の勢力を次々に押し返しました」
「そこも良く分からないんだよな。何で神に反旗を翻したんだ?」
「すみません、少し語弊がありました。正しくは信仰するのをやめた、ですね」
「あぁ、うん。でもそんなに簡単に信仰を捨てられるものかね」
「今の信仰は神の存在を心に感じているかどうかで決まりますが、当時は神様を自らの意思で信仰しているかどうかでしたから」
「じゃあ例えば信仰の証みたいなものを捨てちゃったら信仰対象じゃなくなるみたいな感じ?」
「その考えでいいと思います」
「そうか。何で信仰をやめたんだろう」
「恐らく小競り合いをしていた時に神様が新たに勇者を用意して鎮圧のために送り込んだせいだと思います」
「は?」
「突然人から魔へなりましたから、焦っての事だと思います」
「そんな事したら魔族からすりゃ邪魔に思うだろうに」
とんだ悪手だ。
身内同士で争っていたところに外部勢力が介入すると、一気に団結してそちらに敵意を向ける事ぐらいわからなかったんだろうか。
しかも元々は勇者の国で、誇りがあったところに新たな勇者を差し向けられれば、そりゃ神に対して不信感を抱くだろう。
確かに神から見れば、勇者同士で戦ったり、貧富を広げて他人を見下したりすれば、人はなんて醜い生き物なのかと思うだろう。
だが、こういう時こそ上手く導いてやるのが神の仕事だと思うんだがな。
「その結果信仰は大幅に減少し、下界での勇者化が難しくなり、異世界の魂を呼び寄せる事に」
「で、呼ばれた人達も信仰回復にはあまり役立てず、最終的に俺が呼ばれたということか」
「はい」
「・・・ふぅ。なるほどねぇ・・・」
どうやら俺は少し魔族に対して思い違いをしていたのかもしれない。
「どうしました?」
「いや、俺より先に下界に降りた人達と同じ心境になってる」
「どう言う事ですか?」
「んー、結局新生魔族がやった事って神からの自立でしょ。それ自体は何も悪い事ではない気がする」
「っ!!」
正直、神側の自滅行為でこのような結果になってしまったと俺は思う。
しかも、あのジジイの説明はかなり主観が入って誇張されていたのではないかとも思えてくる。
サチが衝撃を受けた顔をしている。
「でも、神からすりゃ死活問題か。信仰無くなれば自分は消えるし、生活空間に居る人も困るし、下界も消滅するんだもんな」
「はい・・・」
そういう守るべきものがあったから焦ったのは分からなくも無いが、その対応の仕方が悪すぎだ。
「さて、そうなってくると今の魔族の印象は変わってくるな。俺がイメージしていたのは旧魔族に近いものだったからな」
サチは黙って俯いてしまった。
当時の神が下界の時代の流れに対応出来なかった上、それを無理やり異世界の者にどうにかしてもらおうとしていたわけだ。
何故下界に降りた勇者の信仰が無かったのかの謎も分かった気がする。
自分が下界に居る理由が完全に神のとばっちりだった事が分かってしまえば、そりゃ神に対する信用も消える。
サチもその事に気付いてしまい、召喚した異世界人に対して罪悪感を感じているんだろうな。
別にサチが悪いわけじゃないんだけどな。
「そう落ち込むな。オアシスの街や湖上の街を見る限り、全員とはいかないだろうが召喚された人達は元の世界より良い生涯を送れたと思うぞ」
「そう、でしょうか」
「少なくとも俺自身はこっちに来て良かったと思ってるよ」
「それは本当ですか?」
サチがはっと顔を上げる。
「うん。若干他の異世界人とは違うから説得力はないかもしれないが」
「いえ、そんなことは」
両手の先を口に当てているが顔がほころんでるのが分かるぞ。
こんなんで機嫌が戻るんだからちょろいなぁ。
「さて、俺の中での魔族という勢力自体の危険度は下がったが、結局のところ魔神について、人から人ならざる者になった方法、オアシスの街に越してきた魔族の移住理由とかは分からないままだな」
「そうですね」
「後は実際状況を見るしかないかな」
「はい」
「今後かなり情報収集が大変になるがよろしく頼む」
「お任せください」
「あ、もちろん服装の情報収集もしていいからな」
「・・・ふふっ、ありがとうございます、ソウ」
まとめたおかげで少しは頭がすっきりしたかな。
問題や課題も浮き彫りになってきたが、話してよかったと思う。
色々と思う事はあるが、今後もサチと一緒に頑張っていこう。
余談だが、この日のサチは家に帰っても俺の体のどこかを必ず触ってた。
嬉しいのか不安なのかよくわからないが、転移の後ずっと腕を組んだままだったり、料理中後ろでしがみついてたりしてた。
あのな、そういうことすると俺は我慢しないからな?
問題ない?そうか。
神の体になって本当によかったと思った。
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