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膝枕

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密林の調査に出た一団がオアシスの街に帰ってきた。

若干帰り道で迷ったが皆無事だ。

ふー、やれやれ。心配事が一つ減った。

そう思っていたらその一団がオアシスの街に帰ったことで問題が発生した。

一つは持ち帰った木の実や果物で作ったパイが美味しすぎて街の女性達が店の周りに押し寄せて軽い暴動のようになった事。

もう一つが持ち帰った薬草が精力剤として高い効果が得られる事が分かり、街に滞在している男性達が同じように店に押し寄せてやはり騒ぎになった事。

・・・相変わらず活気があるなここは。

しかし真の問題なのはこれが南にある密林から得られたという情報が広まった事だ。

案の定金の匂いを感じた商人がこぞって密林へ向かっていった。

「愚かですね」

「そう言ってやるな」

俺も思ったけどな。

オアシスの街の精鋭を揃えて何とか入れた場所に無鉄砲な商人や相手の力量もはかれない雇われ冒険者が易々と入れるはずがない。

ボロボロになって帰ってきた人達を見た別の商人達は念入りな準備と腕の立つ冒険者を集めている。

ま、それでもあの森は無理だろうけどな。

あの森に入って無事に帰ってくるには参加した非戦闘員達の活躍が実は大きい。

休息時の戦闘回避が出来る淫魔種、密林内でも方角を把握できる学者、採取物の目利きが出来る料理人。

どれもオアシスの街で斡旋された人材達だ。

一方で今商人たちが集めているのは草原の街をはじめとした外部の人ばかり。

斡旋所は街からの正式な申請以外の密林派遣は全て断っている。

賢明な判断だ。

商人達は利ばかりに興味を示しているが、街は如何に密林が危険だったかもちゃんと把握している。

とはいえ街の利にも繋がる事なのでそのうち調査隊を再編成して向かわせるつもりではいるようだ。

うーむ、しばらくはこの密林関連で街は騒がしくなりそうだ。



この世界の布団は素晴らしい。

まるで雲の上に寝ているかのような柔らかさ。

包み込まれるような優しい温かみ。

念があるおかげで常に新しい状態を維持できるのもいい。

今日みたいな雨の日でも湿気を吸ってしぼむ事もない。

枕も素晴らしい。

適度に反発する弾力。

うつ伏せで顔を埋めても息の出来る形。

「至福」

「苦しくないのですか?」

「至福」

「そ、そうですか」

「疲れてきたら言って」

「わかりました」

うん、やはり膝枕は横ではなく縦に頭を乗せる方が収まりがいい。

さっきまでシロクロをサチとやっていたのだが、一度も勝てなかった。

最後の負け具合はひどいもので、まさか全滅させられるとは思わなかった。

心が折れるどころか粉砕された俺を見て気の毒に思ったのか、サチから膝枕の申し出があった。

最初俺がするのかと思ったが、される側でいいらしい。

さすがにうつ伏せで来る事に最初戸惑っていたが、どう寝ようが俺の勝手だ。

両腕を伸ばして尻に手をまわして抱え込むようにする。

あー、なんかこれ収まりがいいな。落ち着く。

・・・。

・・・・・・。

「はっ!?」

「起きましたか?」

「どのぐらい寝てた?」

「十五分ほどですよ」

いかんいかん、つい意識を手放してしまった。

体を捻って仰向けになる。

一瞬サチがこっちを向くが直ぐにパネル操作に目を戻した。

「なにしてるんだ?」

「丁度いいのでソウの全身スキャンをしていました」

「健康診断か。結果は?」

「問題ありません。僅かですが一部筋力が低下しています」

む、それはいかんな。

そういえば最近運動不足気味だったかもしれない。

毎晩サチと運動はしているが使う筋肉が限られているからなぁ。

浄化の念じゃ筋力の低下は解決できないし。

浄化の念は体内の毒素、不純物、老廃物など不要なものを除去してくれる。

非常に優秀で便利な念だが、成長に関わるものは除去できない。

つまり筋力や骨などの増減は成長に当たるので、浄化の念では操作できない。

一応浄化の念とは別に身体を操作する方法もあるらしいが、詳しくは聞いてない。

ま、苦労せずに得たものは失うのも早いからな。地道に運動して戻そう。

「また泳ぎに行くかなぁ」

「あ、それでしたら今度学校で泳ぎ方の指導をお願いしたいです」

「ん?どゆこと?」

「実は念を使わずにちゃんと泳げる人は少ないのです」

「そうなのか」

サチも泳げなかったし、泳ぐ必要性も薄いからな、この世界。

「なので教員含めて指導していただければ今後の役に立つかと思いまして」

「ふむ。でも念使えばどうにかなるんだろ?」

「それはそうなのですが、仮に念が使えなくなった時の事を考えると必要かと思いまして」

サチにしては珍しい事を言う気がする。

ふむ、神妙な面持ちだし何か考えがあるんだろう。

「わかった。近いうちに教えにいこう」

「ありがとうございます」

「サチは教える側と教わる側、どっちにつくんだ?」

「私はどちらでもないですね。補助する側につきます」

「そうか。じゃあ水着を脱がされないように俺を子供達から守ってくれ」

「え?・・・そ、そういえば前に学校行った時に脱がされそうになってましたねっ」

思い出し笑いするんじゃない。

子供は何してくるか、何しでかすか未知数な部分があるからな。用心するに越したことは無い。

「子供達は俺の言う事聞いてくれるかなぁ」

「大丈夫だと思いますよ。教える前に一度泳いで見せたらいいかと」

「そうだな。そうしよう」

子供は子供で心配だが、教師も教師で変に緊張しないか心配だな。

どうなることやら。
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