91 / 121
膝枕
しおりを挟む
密林の調査に出た一団がオアシスの街に帰ってきた。
若干帰り道で迷ったが皆無事だ。
ふー、やれやれ。心配事が一つ減った。
そう思っていたらその一団がオアシスの街に帰ったことで問題が発生した。
一つは持ち帰った木の実や果物で作ったパイが美味しすぎて街の女性達が店の周りに押し寄せて軽い暴動のようになった事。
もう一つが持ち帰った薬草が精力剤として高い効果が得られる事が分かり、街に滞在している男性達が同じように店に押し寄せてやはり騒ぎになった事。
・・・相変わらず活気があるなここは。
しかし真の問題なのはこれが南にある密林から得られたという情報が広まった事だ。
案の定金の匂いを感じた商人がこぞって密林へ向かっていった。
「愚かですね」
「そう言ってやるな」
俺も思ったけどな。
オアシスの街の精鋭を揃えて何とか入れた場所に無鉄砲な商人や相手の力量もはかれない雇われ冒険者が易々と入れるはずがない。
ボロボロになって帰ってきた人達を見た別の商人達は念入りな準備と腕の立つ冒険者を集めている。
ま、それでもあの森は無理だろうけどな。
あの森に入って無事に帰ってくるには参加した非戦闘員達の活躍が実は大きい。
休息時の戦闘回避が出来る淫魔種、密林内でも方角を把握できる学者、採取物の目利きが出来る料理人。
どれもオアシスの街で斡旋された人材達だ。
一方で今商人たちが集めているのは草原の街をはじめとした外部の人ばかり。
斡旋所は街からの正式な申請以外の密林派遣は全て断っている。
賢明な判断だ。
商人達は利ばかりに興味を示しているが、街は如何に密林が危険だったかもちゃんと把握している。
とはいえ街の利にも繋がる事なのでそのうち調査隊を再編成して向かわせるつもりではいるようだ。
うーむ、しばらくはこの密林関連で街は騒がしくなりそうだ。
この世界の布団は素晴らしい。
まるで雲の上に寝ているかのような柔らかさ。
包み込まれるような優しい温かみ。
念があるおかげで常に新しい状態を維持できるのもいい。
今日みたいな雨の日でも湿気を吸ってしぼむ事もない。
枕も素晴らしい。
適度に反発する弾力。
うつ伏せで顔を埋めても息の出来る形。
「至福」
「苦しくないのですか?」
「至福」
「そ、そうですか」
「疲れてきたら言って」
「わかりました」
うん、やはり膝枕は横ではなく縦に頭を乗せる方が収まりがいい。
さっきまでシロクロをサチとやっていたのだが、一度も勝てなかった。
最後の負け具合はひどいもので、まさか全滅させられるとは思わなかった。
心が折れるどころか粉砕された俺を見て気の毒に思ったのか、サチから膝枕の申し出があった。
最初俺がするのかと思ったが、される側でいいらしい。
さすがにうつ伏せで来る事に最初戸惑っていたが、どう寝ようが俺の勝手だ。
両腕を伸ばして尻に手をまわして抱え込むようにする。
あー、なんかこれ収まりがいいな。落ち着く。
・・・。
・・・・・・。
「はっ!?」
「起きましたか?」
「どのぐらい寝てた?」
「十五分ほどですよ」
いかんいかん、つい意識を手放してしまった。
体を捻って仰向けになる。
一瞬サチがこっちを向くが直ぐにパネル操作に目を戻した。
「なにしてるんだ?」
「丁度いいのでソウの全身スキャンをしていました」
「健康診断か。結果は?」
「問題ありません。僅かですが一部筋力が低下しています」
む、それはいかんな。
そういえば最近運動不足気味だったかもしれない。
毎晩サチと運動はしているが使う筋肉が限られているからなぁ。
浄化の念じゃ筋力の低下は解決できないし。
浄化の念は体内の毒素、不純物、老廃物など不要なものを除去してくれる。
非常に優秀で便利な念だが、成長に関わるものは除去できない。
つまり筋力や骨などの増減は成長に当たるので、浄化の念では操作できない。
一応浄化の念とは別に身体を操作する方法もあるらしいが、詳しくは聞いてない。
ま、苦労せずに得たものは失うのも早いからな。地道に運動して戻そう。
「また泳ぎに行くかなぁ」
「あ、それでしたら今度学校で泳ぎ方の指導をお願いしたいです」
「ん?どゆこと?」
「実は念を使わずにちゃんと泳げる人は少ないのです」
「そうなのか」
サチも泳げなかったし、泳ぐ必要性も薄いからな、この世界。
「なので教員含めて指導していただければ今後の役に立つかと思いまして」
「ふむ。でも念使えばどうにかなるんだろ?」
「それはそうなのですが、仮に念が使えなくなった時の事を考えると必要かと思いまして」
サチにしては珍しい事を言う気がする。
ふむ、神妙な面持ちだし何か考えがあるんだろう。
「わかった。近いうちに教えにいこう」
「ありがとうございます」
「サチは教える側と教わる側、どっちにつくんだ?」
「私はどちらでもないですね。補助する側につきます」
「そうか。じゃあ水着を脱がされないように俺を子供達から守ってくれ」
「え?・・・そ、そういえば前に学校行った時に脱がされそうになってましたねっ」
思い出し笑いするんじゃない。
子供は何してくるか、何しでかすか未知数な部分があるからな。用心するに越したことは無い。
「子供達は俺の言う事聞いてくれるかなぁ」
「大丈夫だと思いますよ。教える前に一度泳いで見せたらいいかと」
「そうだな。そうしよう」
子供は子供で心配だが、教師も教師で変に緊張しないか心配だな。
どうなることやら。
若干帰り道で迷ったが皆無事だ。
ふー、やれやれ。心配事が一つ減った。
そう思っていたらその一団がオアシスの街に帰ったことで問題が発生した。
一つは持ち帰った木の実や果物で作ったパイが美味しすぎて街の女性達が店の周りに押し寄せて軽い暴動のようになった事。
もう一つが持ち帰った薬草が精力剤として高い効果が得られる事が分かり、街に滞在している男性達が同じように店に押し寄せてやはり騒ぎになった事。
・・・相変わらず活気があるなここは。
しかし真の問題なのはこれが南にある密林から得られたという情報が広まった事だ。
案の定金の匂いを感じた商人がこぞって密林へ向かっていった。
「愚かですね」
「そう言ってやるな」
俺も思ったけどな。
オアシスの街の精鋭を揃えて何とか入れた場所に無鉄砲な商人や相手の力量もはかれない雇われ冒険者が易々と入れるはずがない。
ボロボロになって帰ってきた人達を見た別の商人達は念入りな準備と腕の立つ冒険者を集めている。
ま、それでもあの森は無理だろうけどな。
あの森に入って無事に帰ってくるには参加した非戦闘員達の活躍が実は大きい。
休息時の戦闘回避が出来る淫魔種、密林内でも方角を把握できる学者、採取物の目利きが出来る料理人。
どれもオアシスの街で斡旋された人材達だ。
一方で今商人たちが集めているのは草原の街をはじめとした外部の人ばかり。
斡旋所は街からの正式な申請以外の密林派遣は全て断っている。
賢明な判断だ。
商人達は利ばかりに興味を示しているが、街は如何に密林が危険だったかもちゃんと把握している。
とはいえ街の利にも繋がる事なのでそのうち調査隊を再編成して向かわせるつもりではいるようだ。
うーむ、しばらくはこの密林関連で街は騒がしくなりそうだ。
この世界の布団は素晴らしい。
まるで雲の上に寝ているかのような柔らかさ。
包み込まれるような優しい温かみ。
念があるおかげで常に新しい状態を維持できるのもいい。
今日みたいな雨の日でも湿気を吸ってしぼむ事もない。
枕も素晴らしい。
適度に反発する弾力。
うつ伏せで顔を埋めても息の出来る形。
「至福」
「苦しくないのですか?」
「至福」
「そ、そうですか」
「疲れてきたら言って」
「わかりました」
うん、やはり膝枕は横ではなく縦に頭を乗せる方が収まりがいい。
さっきまでシロクロをサチとやっていたのだが、一度も勝てなかった。
最後の負け具合はひどいもので、まさか全滅させられるとは思わなかった。
心が折れるどころか粉砕された俺を見て気の毒に思ったのか、サチから膝枕の申し出があった。
最初俺がするのかと思ったが、される側でいいらしい。
さすがにうつ伏せで来る事に最初戸惑っていたが、どう寝ようが俺の勝手だ。
両腕を伸ばして尻に手をまわして抱え込むようにする。
あー、なんかこれ収まりがいいな。落ち着く。
・・・。
・・・・・・。
「はっ!?」
「起きましたか?」
「どのぐらい寝てた?」
「十五分ほどですよ」
いかんいかん、つい意識を手放してしまった。
体を捻って仰向けになる。
一瞬サチがこっちを向くが直ぐにパネル操作に目を戻した。
「なにしてるんだ?」
「丁度いいのでソウの全身スキャンをしていました」
「健康診断か。結果は?」
「問題ありません。僅かですが一部筋力が低下しています」
む、それはいかんな。
そういえば最近運動不足気味だったかもしれない。
毎晩サチと運動はしているが使う筋肉が限られているからなぁ。
浄化の念じゃ筋力の低下は解決できないし。
浄化の念は体内の毒素、不純物、老廃物など不要なものを除去してくれる。
非常に優秀で便利な念だが、成長に関わるものは除去できない。
つまり筋力や骨などの増減は成長に当たるので、浄化の念では操作できない。
一応浄化の念とは別に身体を操作する方法もあるらしいが、詳しくは聞いてない。
ま、苦労せずに得たものは失うのも早いからな。地道に運動して戻そう。
「また泳ぎに行くかなぁ」
「あ、それでしたら今度学校で泳ぎ方の指導をお願いしたいです」
「ん?どゆこと?」
「実は念を使わずにちゃんと泳げる人は少ないのです」
「そうなのか」
サチも泳げなかったし、泳ぐ必要性も薄いからな、この世界。
「なので教員含めて指導していただければ今後の役に立つかと思いまして」
「ふむ。でも念使えばどうにかなるんだろ?」
「それはそうなのですが、仮に念が使えなくなった時の事を考えると必要かと思いまして」
サチにしては珍しい事を言う気がする。
ふむ、神妙な面持ちだし何か考えがあるんだろう。
「わかった。近いうちに教えにいこう」
「ありがとうございます」
「サチは教える側と教わる側、どっちにつくんだ?」
「私はどちらでもないですね。補助する側につきます」
「そうか。じゃあ水着を脱がされないように俺を子供達から守ってくれ」
「え?・・・そ、そういえば前に学校行った時に脱がされそうになってましたねっ」
思い出し笑いするんじゃない。
子供は何してくるか、何しでかすか未知数な部分があるからな。用心するに越したことは無い。
「子供達は俺の言う事聞いてくれるかなぁ」
「大丈夫だと思いますよ。教える前に一度泳いで見せたらいいかと」
「そうだな。そうしよう」
子供は子供で心配だが、教師も教師で変に緊張しないか心配だな。
どうなることやら。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
異世界転生はうっかり神様のせい⁈
りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。
趣味は漫画とゲーム。
なにかと不幸体質。
スイーツ大好き。
なオタク女。
実は予定よりの早死は神様の所為であるようで…
そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は
異世界⁈
魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界
中々なお家の次女に生まれたようです。
家族に愛され、見守られながら
エアリア、異世界人生楽しみます‼︎
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
八神 凪
ファンタジー
平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。
いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――
そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……
「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」
悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?
八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!
※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!
農民の少年は混沌竜と契約しました
アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた
少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された
これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる