上 下
69 / 121

内装相談会

しおりを挟む
「ほー、これは見事な」

完成した新しい建物を前に感嘆の声が出る。

この農園には他にも建物がいくつかあるが、それよりかなり洒落た建物になっている。

今までの建物は倉庫や寮といった雰囲気が強かったがこれはレストランという感じだな。

「一応料理を出す場として恥ずかしくないような作りに依頼しました」

俺の隣で説明するのはさっき自己紹介してもらったリミ、それにユキと天機人のワカバとモミジもいる。

サチはルミナと一緒に農園の現状視察に行ってしまった。

現状視察も大事だからな、適材適所という事なんだろう。

「なかなかいいじゃないか」

「ありがとうございます。しかし問題がありまして」

「問題?」

「とりあえず中へ、どうぞ」

ユキに促され中に入るとまだ何も無い、テーブルも椅子すらない、未着手な状態だ。

ワカバとモミジが広い空間の中を追いかけっこしてる。自由だね君ら。

「どういうこと?」

建物が形になったと聞いたから来たんだが、これではまだ料理を出す環境じゃないな。

「恥ずかしながら私達では何が必要か見当がつかなくて、色々相談はしたのですが」

あー、ノウハウが無いから内装をどうすりゃいいのかわからないのか。

それもそうか。食に関しては初心者だからなぁ。

「それで、できれば、助言をもらえたら、と」

なるほど、俺が呼ばれた理由が分かった。

別に自分達でやってくれてもいいと思ったが、元々彼らは警備隊だから困った時は上に指示を仰ぐ習慣が付いてるんだろう。

「うん、わかった。どこか座って相談しよう」

「はい」

「ワカバ、モミジ、遊んでないで行くわよ」

「はーい!」

「あい」



以前造島師が大収穫際のときに作った机と椅子に座る。

「さて、とりあえずどういう方針か教えてもらえる?」

「わかりました」

リミが率先して答えてくれる。

今のところ決まっている事が農園関係者以外に提供する場合、ユキやリミといった上手い人の料理を出す。

そして配給の担当は基本的にはワカバとモミジの二人。

それに加えて手の空いてる農園関係者が加わるという感じ。

「私はテーブルと椅子を並べればいいと言ったのですが、ユキが渋りまして」

「渋るってそんな・・・」

「ユキちゃんは料理を作るところもあった方がいいって、ねっ!」

「う、うん」

あーそうか。

会話を聞いて自分の固定概念に気付く。

空間収納があるから別に厨房を作る必要がないのか。

うちのキッチンも最初は簡単な水洗いが出来る流しがあるぐらいの質素なものだったなそういえば。

今はあまり持ち運んだり移動しない調理器具が置いてあって賑やかになっているけど。

「どうしてユキは必要だと思ったんだ?」

「えっと、料理を作るところからみてもらった方がいいと思ったから、です」

「わかる」

モミジが深く頷いてる。

「調理する場所を作ると座れる場所が減りますし、私は反対したのですが」

「えー、だって二人とも作ってるところカッコいいじゃん、来た人にも見てもらおうよー」

「と、こんな感じにワカバとモミジをはじめユキの意見を推す者がいまして」

「なるほどね」

効率を考えればリミの案がいいとは思うが、ユキが言う案も心に与える事を考えるとこれはこれで良い案だと思う。

さて、どうしたものかな。

「ねぇ、リミちゃん」

「なに?ユキ」

「この前の料理してるソウ様、かっこよくなかった?」

「・・・かっこよかったわよ」

「憧れない?」

「・・・憧れる」

「作れば私達もそうやって見てもらえるよ?」

「う・・・」

大人しいユキがリミを言いくるめてる。それだけ熱意があるのか。

それより本人を前にそういう会話するの止めてくれないかな。物凄く恥ずかしいんだが。

「ソウ様、真っ赤」

「冷えたタオルありますよー」

茶化すモミジに気の利いたワカバの対応でますます恥ずかしい。ふぃー、顔が熱い熱い。

「・・・はぁ、わかったわよ。ユキの案でいきましょ」

「うん、リミちゃん、ありがとう」

「そういうわけでソウ様、調理場所を作る方向になりました」

「うん、わかった」

調理場の有無については俺の出番なかったな。



その後もあれこれ相談は続いた。

「個室?部屋を作るのですか?」

「あった方がよくないか?静かに食べたい人もいるだろう」

「あ、それわかる」

ユキが肯定すると横でモミジがうんうんと頷く。

「舞台?」

「この前みたいな時に集まった時に色々できるだろ」

「それいいですね!」

「確かに集会するとき便利ですね」

これにはリミとワカバが賛同する。

「この倉庫の中にある更に小さい仕切りはなんだ?」

「反省室です。主につまみ食いをするルミナテース様を入れます」

「えぇ・・・」

あいつ園長なのに何やってんだ。

「壁にはモミジちゃんの絵を」

「却下」

「それはちょっと・・・」

「いらないだろ」

「姉さん黙って」

「全部言う前に否定された!?」

そんな感じで相談は進み、内装案が次第に形になっていった。

「こんなもんか」

「そうですね。お手数おかけしました」

「完成を楽しみにしてるよ」

「はい、ありがとうございます」

さてと、サチはまだ戻ってこないようだし、少し園内を見て回ろうかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

処理中です...