60 / 115
家出少女
しおりを挟む
今日の仕事に身が入らない。
「・・・」
溜息を付きたくなるのをぐっと我慢する。
下界の和人族の城下町を観察してたら急に懐かしい気持ちが込み上げてきてしまったからだ。
ただ、ここで溜息でも付こうものならサチが気にする上に哀しそうな顔するからな。
それはそれで見たくないので堪える。
ちょっと気分転換に別の場所でも見てまわるか。
森林の村。
恐らく俺が神になってから一番変化が起きたところじゃないかな。
集落から村になる程人の出入りが増したし、何より雰囲気が明るくなった気がする。
祭神役の子も親子共々元気そうだ。
草原の街。
この辺りの拠点なのでいつも通り賑やかだ。
特に変化はない、いや、木剣のキーホルダーをした信者が増えたな。
最近結婚した商人も店頭に並べてくれている。
奥さんとの仲もいいようで、それに当てられて買う人も居るようだ。
オアシスの街。
相変わらずここは他と毛色が全く違うな。
末裔の二人も相変わらず仲睦まじいようでなにより。
そういえば元魔族の子達はどうだろうか。
うん、みんな笑顔で働いているようだ。よしよし。
穀倉地帯の集落と大河の漁村。
どちらも駐在する信者は居ないものの、草原の街の信者が増えた事で頻繁に行き来があるので最近は視野範囲が消える事も無くなった。
不作不漁にでもならない限りは俺の出番は無いだろう。無い方がいい。
他にも点々とした住居があるが何処も大きな問題はないようだ。
たまにはこうやって用も無く各地を見てまわるのもいいな。
そういえば月光族の港町と村もまだじっくり観察してなかったな。
今のところ期限付きだしこっちを優先的に見ておいた方がいいのかもしれない。
「ソウ、時間です」
「ん、わかった」
「今日は何やら各地を見ていたようですが、何か気になる事でも?」
「いや、なんとなく気まぐれで見てただけなんだが」
「そうですか。いいことだと思いますよ。たまにはそういう事も必要だと思います」
「うん、そうだな」
なんだろう、サチに俺の心が見透かされているような気持ちになる。
また顔に出てたかなぁ。
片付け終わったサチがこっちに向かってくる。
「では今日は・・・どうしました?」
何となくサチの頭を撫でてみる。
「これも気まぐれ」
「そうですか」
最初は少し戸惑ってたが直ぐに受け入れてくれたようで撫で終わるまでじっとしててくれた。
うん、確かに前の世界は懐かしく思うが、今の俺にはサチをはじめ世界の人達が居る。
郷愁に浸っている場合じゃないな。頑張ろう。
今日も何も予定が無いので大収穫際で貰った大量の作物をどうにかしようと思ってたのだが。
「・・・あれは・・・っ!?」
「どうした?あ、おい、サチ!」
転移が終わって家に向かう途中でサチが何かを見つけたようで、慌てて飛んで向かっていった。
向かった先には・・・鳥?いや天使だ。小さいから子供か?
フラフラしながら飛んでて今にも墜落しそうだ。
その飛行がカクンと下がったところでサチがそれを受け止めた。良かった。
そのまま抱いてこっちに戻ってくる。
「大丈夫か?」
「えぇ、なんとか。ですが今は気を失っています」
腕に抱かれた子は女の子で人間で言えば四、五歳ぐらい。
少年神やハティと同じぐらいかそれより若いぐらいだ。
「ひとまず家に」
「そうですね」
とりあえず家でこの子を寝かせよう。
「どうだ?」
布団に寝かせた女の子の状態を診てるサチに聞く。
見た感じ女の子は辛そうな表情はしておらず、静かに寝息を立てている。
「典型的な過飛行による意識喪失ですね」
「詳しく聞いても?」
「はい。我々天使は長く飛んでいると酸欠になったり意識が朦朧としてきます」
「走ってなるのと同じような感じか?」
「その認識でいいと思います。特に子供のうちは自分の限界を知らずに飛んでしまうので」
「なるほど」
子供は走り回ってたと思ったら突然電池が切れたかのようにパタンと寝るからなぁ。
地上ならそれでいいかもしれないが、飛んでたら地面に激突なんて事もあるだろうから危険だな。
「しかし、おかしいですね。普段ならば近くに大人の天使か天機人が近くにいないと子供の飛行はしてはいけないはずなのですが・・・」
サチが状況を不審に思っていると女の子が目を覚ます。
「ん・・・あれ?ここは・・・」
「目が覚めましたか?」
「え?え?サチナリア様?」
「えぇ、そうですよ。大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫、です・・・」
む、俺を警戒してるかな。
サチを知ってるみたいだしここは二人で話させる方がよさそうだ。
「サチ、俺は少しキッチンで何か作ってるから」
「わかりました」
ここはサチに任せて俺はキッチンで何か甘いものでも作る事にした。
サチがいないので作れる物が大分限られたがプリンとクレープなら作れたので作り置き分も含めて多めに作っておいた。
何せ大収穫祭で作り置きしておいた分が全部掃けてしまったからなぁ。
若干失敗気味のものまで喜んで食べてくれたみんなには感謝してるが、少し恥ずかしい。
教えている立場上もう少しいい物を出したいものだ。
「すみません、気を使わせてしまって」
次は何を作ろうかと考えてたところでサチが飲み物の用意をしにこっちに来た。
「いや。それより何かわかったか?」
「えぇ、色々と。とりあえず警備隊に連絡して保護者に連絡してもらうよう伝えておきました」
「そうか。一人で飛んでた理由は?」
「家出だそうです」
「家出?」
「どうやら保護者の方と喧嘩したらしく家を飛び出して来たようです。それで行くあてもないので適当に飛んでいたらあのような状態になったそうです」
「なるほどね」
子供の家出か。
普通なら浮遊島内に隠れるぐらいで留まるのだが、相当腹に据えかねたんだろうな。
「どうしますか?」
「どうするって言ってもなぁ。保護者が来るまでうちで保護するしかないだろう」
「わかりました。ではちゃんとソウを紹介するので一緒に来てください」
「あいよ」
サチに温めた砂糖入り牛乳とプリンを乗せたお盆を持たせて女の子のところに向かう。
「落ち着いたか?」
「あ、う、うん・・・」
まだ俺を見て緊張するようだ。
うーん、俺怖がられるような見た目してるかなぁ。
「アン。こちらが私達の神様のソウですよ」
「は、はじめまして、ソウ様。えっと、アンジェリカ、です。アンって呼んでください」
「はじめまして。よろしく、アン」
たどたどしい自己紹介になるべく優しく応対する。
「こちら、よかったら食べてください」
お盆にアンの分だけ乗せて渡す。
「大丈夫です。私達の分もありますので」
アンに見せるようにしながらプリンを頬張るサチ。
今は冷静な補佐官状態だがよくよく観察すると小刻みに震えてるのがわかる。
美味いか、そうか、よかった。
アンもサチが食べてるのを見てから砂糖入り牛乳に口をつける。
「わっ、甘いくておいしい」
そこからは早かった。
あっという間に牛乳の飲み干し、プリンに手を付けて口に頬張り。
「!!美味しい!」
初めてプリンを食べた時のサチに負けず劣らずの早さで食べ終えた。
「よかったら俺のも食べるか?」
「え!?いいの?」
「いいぞー」
渡してやるとにこやかな笑みを浮かべながら口に運ぶ。
よしよし、緊張がほぐれてきたようだな。
「はー・・・美味しかったー・・・」
食べ終えて余韻に浸るアンを見て俺もサチもほっと一息付く。
「落ち着きましたか?」
「あ、うん、ありがとう、ソウ様、サチナリア様」
この子はちゃんとお礼も言えるいい子だな。
ふむ、となると保護者と喧嘩した理由が気になってくるな。
「それで、アン。どうして家を出てきたか教えてもらってもいいですか?」
「うん。えっと、です、ね」
「アンが話しやすい口調でいいよ」
頑張って丁寧な言葉を紡ぎ出そうとしているのが分かったので無理せず話しやすいように促してやる。
「うん。それでえっとね、お母さんがうるさくて出てきたの」
「うるさく?どんな風に?」
「あれしなさいこれしなさいってガミガミグチグチ言ってきて」
「ほうほう」
「自分だって上手く念を使って出来ないのに、私にはもっと上手くやれるとか言って来て」
あー・・・。
「それでもうやんなっちゃって、出てきたの」
「そっかー」
何か凄くよく分かる言い分だ。
子供の成長は早いからな。
大人が同じようにしつけてるつもりでも子供の感じ方が変わってきて、ちゃんと言われた事に対して考えるようになってくるものだ。
そうすると言われてることの理不尽さに腹が立ってきて今回のように癇癪を起こす。
特に言う側が出来てない事を出来ると言われてやらされるというのは納得できないからな。
「よーくわかる」
「ほんと?」
「うん。何を偉そうにって思っちゃったんだろ?」
「うんうん、そうそう!」
その後も母親に対する愚痴が止め処なく出てきてどれもこれも子供の頃に感じるあれこれだった。
ただ、俺がこれを感じたのはもう少し歳が進んでからだった気がする。
やっぱり女の子は心の成長が早いんだなぁ。
アンが一通り喋ったところでサチがお茶を淹れに席を立つ。
「・・・なあ、アン。それでお母さんの事はどう思う?」
色々喋っていくうちにこの子の中に不安が芽生えてきたのが表情を見ていれば分かる。
「うるさいから嫌い」
「ふーむ。じゃあうるさくなくなったらどうだ?」
「うるさくなくなる?そんな事あるの?」
「アンよ。俺を誰だと思ってるんだ?神だぞ?」
ちょっと演技調で言ってみる。
「!!」
それを聞いて驚いてこっちを見る。良い反応だ。
「で、そうなったらどうだ?」
「・・・それなら嫌いじゃない、かな」
「そうか。じゃあ神の俺がうるさくしなくなる秘訣を教えてしんぜよう」
「ホント!?」
驚いたり悩んだりする度に表情がコロコロ変わって見ていて楽しい。
「今アンはお母さんも出来ないのにやれって言われるから怒ってるんだよな?」
「うん?うん」
「じゃあこれがもしアンが出来ちゃったらどうだ?アンの方が凄いって事になるよな?」
「うん」
「そしたらもうお母さんはうるさく言ってこなくなるぞ」
「え?それだけ?」
「それだけ」
何を指示されたかはわからないが、何であろうとそれだけと言い切れるこの子は将来有望な気がする。
「えー、本当かなぁ」
「そう思うなら一度やってみたらいい。もしそれでもうるさいままなら俺に文句を言いに来ていいぞ」
「んー・・・うん、わかった。やってみる」
「うん、がんばれ」
話がまとまったのを見ていたサチがお茶と一緒に情報も持ってきた。
「ソウ、ルシエナがもう直ぐこちらに来るそうです」
「あいよー」
「・・・」
溜息を付きたくなるのをぐっと我慢する。
下界の和人族の城下町を観察してたら急に懐かしい気持ちが込み上げてきてしまったからだ。
ただ、ここで溜息でも付こうものならサチが気にする上に哀しそうな顔するからな。
それはそれで見たくないので堪える。
ちょっと気分転換に別の場所でも見てまわるか。
森林の村。
恐らく俺が神になってから一番変化が起きたところじゃないかな。
集落から村になる程人の出入りが増したし、何より雰囲気が明るくなった気がする。
祭神役の子も親子共々元気そうだ。
草原の街。
この辺りの拠点なのでいつも通り賑やかだ。
特に変化はない、いや、木剣のキーホルダーをした信者が増えたな。
最近結婚した商人も店頭に並べてくれている。
奥さんとの仲もいいようで、それに当てられて買う人も居るようだ。
オアシスの街。
相変わらずここは他と毛色が全く違うな。
末裔の二人も相変わらず仲睦まじいようでなにより。
そういえば元魔族の子達はどうだろうか。
うん、みんな笑顔で働いているようだ。よしよし。
穀倉地帯の集落と大河の漁村。
どちらも駐在する信者は居ないものの、草原の街の信者が増えた事で頻繁に行き来があるので最近は視野範囲が消える事も無くなった。
不作不漁にでもならない限りは俺の出番は無いだろう。無い方がいい。
他にも点々とした住居があるが何処も大きな問題はないようだ。
たまにはこうやって用も無く各地を見てまわるのもいいな。
そういえば月光族の港町と村もまだじっくり観察してなかったな。
今のところ期限付きだしこっちを優先的に見ておいた方がいいのかもしれない。
「ソウ、時間です」
「ん、わかった」
「今日は何やら各地を見ていたようですが、何か気になる事でも?」
「いや、なんとなく気まぐれで見てただけなんだが」
「そうですか。いいことだと思いますよ。たまにはそういう事も必要だと思います」
「うん、そうだな」
なんだろう、サチに俺の心が見透かされているような気持ちになる。
また顔に出てたかなぁ。
片付け終わったサチがこっちに向かってくる。
「では今日は・・・どうしました?」
何となくサチの頭を撫でてみる。
「これも気まぐれ」
「そうですか」
最初は少し戸惑ってたが直ぐに受け入れてくれたようで撫で終わるまでじっとしててくれた。
うん、確かに前の世界は懐かしく思うが、今の俺にはサチをはじめ世界の人達が居る。
郷愁に浸っている場合じゃないな。頑張ろう。
今日も何も予定が無いので大収穫際で貰った大量の作物をどうにかしようと思ってたのだが。
「・・・あれは・・・っ!?」
「どうした?あ、おい、サチ!」
転移が終わって家に向かう途中でサチが何かを見つけたようで、慌てて飛んで向かっていった。
向かった先には・・・鳥?いや天使だ。小さいから子供か?
フラフラしながら飛んでて今にも墜落しそうだ。
その飛行がカクンと下がったところでサチがそれを受け止めた。良かった。
そのまま抱いてこっちに戻ってくる。
「大丈夫か?」
「えぇ、なんとか。ですが今は気を失っています」
腕に抱かれた子は女の子で人間で言えば四、五歳ぐらい。
少年神やハティと同じぐらいかそれより若いぐらいだ。
「ひとまず家に」
「そうですね」
とりあえず家でこの子を寝かせよう。
「どうだ?」
布団に寝かせた女の子の状態を診てるサチに聞く。
見た感じ女の子は辛そうな表情はしておらず、静かに寝息を立てている。
「典型的な過飛行による意識喪失ですね」
「詳しく聞いても?」
「はい。我々天使は長く飛んでいると酸欠になったり意識が朦朧としてきます」
「走ってなるのと同じような感じか?」
「その認識でいいと思います。特に子供のうちは自分の限界を知らずに飛んでしまうので」
「なるほど」
子供は走り回ってたと思ったら突然電池が切れたかのようにパタンと寝るからなぁ。
地上ならそれでいいかもしれないが、飛んでたら地面に激突なんて事もあるだろうから危険だな。
「しかし、おかしいですね。普段ならば近くに大人の天使か天機人が近くにいないと子供の飛行はしてはいけないはずなのですが・・・」
サチが状況を不審に思っていると女の子が目を覚ます。
「ん・・・あれ?ここは・・・」
「目が覚めましたか?」
「え?え?サチナリア様?」
「えぇ、そうですよ。大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫、です・・・」
む、俺を警戒してるかな。
サチを知ってるみたいだしここは二人で話させる方がよさそうだ。
「サチ、俺は少しキッチンで何か作ってるから」
「わかりました」
ここはサチに任せて俺はキッチンで何か甘いものでも作る事にした。
サチがいないので作れる物が大分限られたがプリンとクレープなら作れたので作り置き分も含めて多めに作っておいた。
何せ大収穫祭で作り置きしておいた分が全部掃けてしまったからなぁ。
若干失敗気味のものまで喜んで食べてくれたみんなには感謝してるが、少し恥ずかしい。
教えている立場上もう少しいい物を出したいものだ。
「すみません、気を使わせてしまって」
次は何を作ろうかと考えてたところでサチが飲み物の用意をしにこっちに来た。
「いや。それより何かわかったか?」
「えぇ、色々と。とりあえず警備隊に連絡して保護者に連絡してもらうよう伝えておきました」
「そうか。一人で飛んでた理由は?」
「家出だそうです」
「家出?」
「どうやら保護者の方と喧嘩したらしく家を飛び出して来たようです。それで行くあてもないので適当に飛んでいたらあのような状態になったそうです」
「なるほどね」
子供の家出か。
普通なら浮遊島内に隠れるぐらいで留まるのだが、相当腹に据えかねたんだろうな。
「どうしますか?」
「どうするって言ってもなぁ。保護者が来るまでうちで保護するしかないだろう」
「わかりました。ではちゃんとソウを紹介するので一緒に来てください」
「あいよ」
サチに温めた砂糖入り牛乳とプリンを乗せたお盆を持たせて女の子のところに向かう。
「落ち着いたか?」
「あ、う、うん・・・」
まだ俺を見て緊張するようだ。
うーん、俺怖がられるような見た目してるかなぁ。
「アン。こちらが私達の神様のソウですよ」
「は、はじめまして、ソウ様。えっと、アンジェリカ、です。アンって呼んでください」
「はじめまして。よろしく、アン」
たどたどしい自己紹介になるべく優しく応対する。
「こちら、よかったら食べてください」
お盆にアンの分だけ乗せて渡す。
「大丈夫です。私達の分もありますので」
アンに見せるようにしながらプリンを頬張るサチ。
今は冷静な補佐官状態だがよくよく観察すると小刻みに震えてるのがわかる。
美味いか、そうか、よかった。
アンもサチが食べてるのを見てから砂糖入り牛乳に口をつける。
「わっ、甘いくておいしい」
そこからは早かった。
あっという間に牛乳の飲み干し、プリンに手を付けて口に頬張り。
「!!美味しい!」
初めてプリンを食べた時のサチに負けず劣らずの早さで食べ終えた。
「よかったら俺のも食べるか?」
「え!?いいの?」
「いいぞー」
渡してやるとにこやかな笑みを浮かべながら口に運ぶ。
よしよし、緊張がほぐれてきたようだな。
「はー・・・美味しかったー・・・」
食べ終えて余韻に浸るアンを見て俺もサチもほっと一息付く。
「落ち着きましたか?」
「あ、うん、ありがとう、ソウ様、サチナリア様」
この子はちゃんとお礼も言えるいい子だな。
ふむ、となると保護者と喧嘩した理由が気になってくるな。
「それで、アン。どうして家を出てきたか教えてもらってもいいですか?」
「うん。えっと、です、ね」
「アンが話しやすい口調でいいよ」
頑張って丁寧な言葉を紡ぎ出そうとしているのが分かったので無理せず話しやすいように促してやる。
「うん。それでえっとね、お母さんがうるさくて出てきたの」
「うるさく?どんな風に?」
「あれしなさいこれしなさいってガミガミグチグチ言ってきて」
「ほうほう」
「自分だって上手く念を使って出来ないのに、私にはもっと上手くやれるとか言って来て」
あー・・・。
「それでもうやんなっちゃって、出てきたの」
「そっかー」
何か凄くよく分かる言い分だ。
子供の成長は早いからな。
大人が同じようにしつけてるつもりでも子供の感じ方が変わってきて、ちゃんと言われた事に対して考えるようになってくるものだ。
そうすると言われてることの理不尽さに腹が立ってきて今回のように癇癪を起こす。
特に言う側が出来てない事を出来ると言われてやらされるというのは納得できないからな。
「よーくわかる」
「ほんと?」
「うん。何を偉そうにって思っちゃったんだろ?」
「うんうん、そうそう!」
その後も母親に対する愚痴が止め処なく出てきてどれもこれも子供の頃に感じるあれこれだった。
ただ、俺がこれを感じたのはもう少し歳が進んでからだった気がする。
やっぱり女の子は心の成長が早いんだなぁ。
アンが一通り喋ったところでサチがお茶を淹れに席を立つ。
「・・・なあ、アン。それでお母さんの事はどう思う?」
色々喋っていくうちにこの子の中に不安が芽生えてきたのが表情を見ていれば分かる。
「うるさいから嫌い」
「ふーむ。じゃあうるさくなくなったらどうだ?」
「うるさくなくなる?そんな事あるの?」
「アンよ。俺を誰だと思ってるんだ?神だぞ?」
ちょっと演技調で言ってみる。
「!!」
それを聞いて驚いてこっちを見る。良い反応だ。
「で、そうなったらどうだ?」
「・・・それなら嫌いじゃない、かな」
「そうか。じゃあ神の俺がうるさくしなくなる秘訣を教えてしんぜよう」
「ホント!?」
驚いたり悩んだりする度に表情がコロコロ変わって見ていて楽しい。
「今アンはお母さんも出来ないのにやれって言われるから怒ってるんだよな?」
「うん?うん」
「じゃあこれがもしアンが出来ちゃったらどうだ?アンの方が凄いって事になるよな?」
「うん」
「そしたらもうお母さんはうるさく言ってこなくなるぞ」
「え?それだけ?」
「それだけ」
何を指示されたかはわからないが、何であろうとそれだけと言い切れるこの子は将来有望な気がする。
「えー、本当かなぁ」
「そう思うなら一度やってみたらいい。もしそれでもうるさいままなら俺に文句を言いに来ていいぞ」
「んー・・・うん、わかった。やってみる」
「うん、がんばれ」
話がまとまったのを見ていたサチがお茶と一緒に情報も持ってきた。
「ソウ、ルシエナがもう直ぐこちらに来るそうです」
「あいよー」
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。
神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。
どうやら、食料事情がよくないらしい。
俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと!
そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。
これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。
しかし、それが意味するところは……。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる