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お礼と禁止令

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カランとコップに氷が一つ落ちる。

「ふふふ、どうよ」

「お見事です。もうコツを掴んだのですね」

「あぁ、みんなのおかげでな。感謝してる」

シンディが氷の入ったコップにそのままお茶を注いでくれる。

気付けば額に汗が浮かんでいたので冷たい飲み物は嬉しい。

ふ、ふふふ、つい顔がにやけてしまう。

さっきまで使えなくても何とかなるとか思ってた奴はどこの誰だと自分で言いたくなるほど心が浮かれているのがわかる。

そういえば初めて自転車に乗れた時は嬉しくて乗り回してたっけ。

何となくそんな事を思い出したら子供と心が変わってないことに気付いた。

急に恥ずかしくなってきた。冷静になろう、うん。

「そうだ、サチ。クッキーを出してくれ」

「あ、そうですね」

お茶を飲んで少し口が物欲しくなったので空間収納からクッキーを出してもらう。

これは最初につくった物とは違い、何度か作って大分形になったものなので、人様に見せても恥ずかしくない。

一つ自分の分を取ってから皿をアリス達の方へ。

「よろしいのですか?」

「うん、どうぞ」

「ありがとうございます」

出した瞬間からユーミの目がキラキラしてたし、シンディも一見冷静を装いつつ視線が集中してたので早々に渡す事にした。

「おぉ、これは」

「おいしー!」

シンディとユーミが笑みを浮かべながら食べてくれる。気に入ってもらえたようだ。

本当は少し不安だったけど良かった。

一方でアリスは一口食べてからじっとクッキーを凝視している。

「どうした?アリス。口に合わなかったか?」

「あ、いえ、そうではなく、どうすれば量産できるのかと思案しておりました」

話が飛躍しすぎじゃないか?

「そ、そうか、気に入ってもらえたようでよかったよ」

「出来れば製法など教えていただけないでしょうか。情報館の皆にも配りたいので」

「あぁ、量産ってそういうことか。別に構わないけど材料はルミナの農園に行かないともらえないぞ。あ、ルミナってルミナテースの事な」

「ルミナテース様なら最近こちらにもいらっしゃいましたよ。何やら植物を探してるとかで手持ちの画像と照合なさってましたが、あれは一体なんだったのでしょうか」

ぐ・・・俺の下手な絵が各地に知れ渡ってしまった気がする。

「あー・・・そのルミナが探してた植物から作ったのがこのクッキーだ」

「なんと。ではやはりルミナテース様のところに主様がいらしているという話は本当だったのですね」

「うん、料理を教えてる」

「なるほど、ではルミナテース様のところならばこのクッキーの他にも色々学べるのですね?」

「んーそうなるかな。あそこなら食材があるからそのまま作れるし」

「わかりました。ありがとうございます」

アリスは俺に礼をするとキリっとした眼差しになって顔を上げてシンディとユーミの方を向いた。

「シンディさん、派遣者選出を。管轄職未満固有名所持以上で料理習得に向いている者を数名。ユーミさんはルミナテース様に連絡をして農園での滞在の合否を確認してくだ

さい」

「はっ」

「わかりました!」

アリスの指示にシンディとユーミはこちらに一礼した後、早々に部屋を出て行った。

え?え?突然何?

「どうやら何名かルミナテースの農園で一緒に料理を学ばせるつもりのようですね」

サチが状況を説明してくれる。

「あー確かにその方が手間が少なくていいけど、大丈夫なのか?」

「いいのではないですか?ルミナテースの事ですから喜んで受け入れると思いますよ」

確かにルミナならそうなるだろうな。

「さて、いい時間ですしそろそろ私達も帰りますか?」

外を見ると既に暗くなっている。

「そうだな。アリス、そろそろ俺達帰るよ。色々ありがとな」

「いえ、お役に立てて何よりです」

「シンディやユーミや他のみんなにもよろしく伝えておいてくれ」

「かしこまりました。お気遣い感謝します」

よし、これで念も使えるようになったし、アリスのところで茶菓子が出るようにもなりそうだし、いい事尽くめだな。




「お気をつけて」

情報館の入り口で礼をするアリスに見送られ俺達は帰路につく。

「原因がわかればあっという間に使えるようになりましたね」

「そうだな。無駄遣いは出来ないが、いざという時の後ろ盾が出来たのはありがたいよ」

今までサチに頼り切ってた部分がかなりある。

考えたくはないがもしサチに何かあった場合の時に自分でどうにか出来るようにはなっておきたいのは確かだ。

「使い方を忘れないようにしてくださいね」

「それなら多分大丈夫だ。コツ掴んだし」

「さすがですね。普通ならマナを見つけてもなかなか接続できないものなのですが」

「そうなのか?うーん、イメージした物が良かったんじゃないかな」

「何をイメージしたのですか?」

「これ」

組んでる腕の肘でサチの胸の横辺りをつんつんする。

「?なんです?」

「だから、これを、こんな感じで」

わかり易いように腕をサチの背中を通して胸を掴む。うん、やっぱこれだよ。

「なっ!?ちょっと、何を考えているのですか!?」

腕の中で暴れるが逃がさん。

「丁度ある場所が心臓の辺りだったしさ、サチが掴めって言うからこういう感じでやったら上手く出来たんだよ」

「そんなので出来るなんて、っていつまで触っているのですか。家まで我慢してください」

払い退けられてしまった。

というか家に帰ったら続きしていいのか。そうか。

「そんな感じでバッチリだ」

「むー・・・」

恨めしそうな視線をこっちに向けてくる。可愛いぞ。

「決めました。ソウの念の使用を緊急時以外の使用を禁止します」

「いや、禁止も何も普段から使わないし」

「いえ、今後神力が更に増えてもダメです。私の許可無く使ったら怒ります」

「さっきと言ってる事が」

「怒ります」

「わかったわかった。じゃあ今まで通りサチに頼るよ」

「そうしてください」

そういうと再び俺の腕にしがみついてきた。

禁止と言っても実際サチにそんな権限はないのでこれは口約束みたいなものだ。

サチとしては俺が念を使えることで自分の存在意義が減るのが嫌なんだろう。

サチを必要としない事なんて今後も無いと思うんだが、不安にさせてしまったのなら従うに限る。

結局俺が念を使う機会は無さそうだな。怒られたくないし。

とりあえず感覚を忘れないためにサチに協力してもらおう。うん、それがいい。
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