Sランクの男は如何でしょうか？【R18】ー貴臣sideー※休載中

第１章 この出会いに感謝する。

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　走り出した想いは止まる事を知らない。この感情はこれまで経験した事象の中に、同じものは一つとして無い。だから深くは考えていない。ただ心が望むままに動いていた。


「社長、そのまま社に戻られますか？」

「いや・・・視察に行きたい店舗がある。そこに向かえ」

「承知致しました」

　車内は運転手と貴臣の二人だけだった。この運転手は寡黙で信用のおける人間だ。窓の外を見ると、都会の街並みから郊外へと変わっていく。懐かしき凡人だった頃を思い返す。

　貴臣は昔から裕福だったわけでは無い。父親が立ち上げた会社はゆっくりと成長し、中学の頃には少し名の知られる会社となっていた。それを急成長させたのは、他の誰でもない貴臣本人なのだが。




「到着致しました。私も参りましょうか？」

「＿＿そうだな」

　藤本を連れていない時は運転手が秘書の代わりになっていた。一人行動を好む貴臣には、過去に秘書経験のある運転手は良き相棒だった。先に運転手が降りていき、貴臣は車内に待機していた。五分も経たぬうちに戻ってきた運転手が連れていたのは、その店舗の最高責任者だった。もちろんそれよりもずっと偉いのが貴臣である。


「しっ、社長。御多忙の中ありがとうございます」

　ドギマギとロボットのように話す店長は緊張で言葉も出ないようだ。もちろん、そんな事は貴臣には関係ない事。顎で示すと全てを理解したように運転手が道を示し、それに続いた。



　貴臣の心臓は大きく高鳴っていた。こんなところまで来てしまって、何がしたいというのだろうか。それでも逸る気持ちは長い脚を小さく震わせていた。




　到着したのは店長室。四畳ほどの隠れ家のような部屋は、1.5階の高さにありフロアを広く見渡せた。大きな窓はマジックミラーになっていて、外から見たらただの鏡があるようにしか見えない。すぐ下を見下ろすと事務カウンターがあり、三人の女性が忙しそうに来客の対応に追われていた。

「社長、お飲み物は？」

「不要だ。お前はお前の職務を果たすがいい」

　隣でカチコチになっている店長は、沈黙の気まずさにパソコンを一心に見つめる事しか出来なくなっていた。後ろに立つ運転手は慣れっこの様に、誰に見られているわけでもないのに綺麗に背筋を伸ばして立っていた。

　椅子を軋ませて足を組む貴臣の胸中を知りえるのは誰がいるだろうか。