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第一章

3話 来客

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『で、この子はお前の彼女なのか?』

『いや違う、ただのクラスメイトだ』

 目の前の白人マッチョ。エヴァンは面白そうに聞いてくる。その隣にいるは楓に至っては、なんの話をしているのか分かっていなさそうだ。それもそのはず。梓音とエヴァンは、英語で話をしているのだ。しそして、何故英語を話せるのかという、疑問を楓は梓音に対して視線を送る。

「お前、英語わからないのか?」

「わ、わかりますよ? ええもちろん」

 じゃあなんでそんなに目が泳いでいるんだと、梓音は思う。楓自身英語がわかるとは言ってるいるが、確実にわかっていないと思う。実際、先ほどのエヴァンとの会話で楓は聞き取れていない。そんな彼女を見たエヴァンは申し訳なさそうに口を開いた。

「スミマセン」

「いや、エヴァンあんた日本語普通に話せるだろ」

「あ、バレた?」

 戯けて言う。この軍人ふざけている気がする。はぁ……と、ため息を吐いてから楓に向き直る。

「天使さん。これでわかったろ? だからもう帰ってくれ」

「また、帰れって……帰りませんよ? 貴方のその持病の事と、そこのアメリカ軍人さんのこと、どんな関係があるのか教えていただかないと」

「納得して帰れないってか?」

 コクリと頷く。どうも、この少女は、自分が理解した上で納得し無いと突っ走るタイプだ。それはいいのだが、もう少し自分の身を案じたらどうなのか。男二人、しかも男の家に上がる時点で警戒心がないように思える。

「それにしてもシオ。さっきの電話での話はこの子のことか?」

「あぁ、そうだ。まさか忘れ物をして戻ってきたところにエヴィと鉢合わせるとは思わなかったが……しかもそのまま居るし」

「居て悪いですか? 私は貴方がまた卑屈になるんじゃないかと心配で来てるんです。それに、英語が話せるなんて知りませんでしたし……。あと九条君は病弱だったのではないんですか? こんないかにも体育会系の知り合いがいるとは……」

「いや、早く帰れよ。もう夜二十時だぞ。親が心配してるんじゃねえのか?」

「いえ、大丈夫です。一人暮らしをしていますので。それに先ほども言いましたが、私の家はこの真下です。すぐそこです。なんでしたら、私の家で話をしますか?」

「移動するのが面倒くさい。第一……」

「グウウウゥゥ!」

 梓音の言葉をかき消す程でもないが、小さくお腹がなった。梓音でではない。エヴァンでもなさそうだ。と言うことは……楓を見ると顔を真っ赤にして俯いている。やはり彼女だった。かなり恥ずかしかったのだろう。

「はぁ、腹減ってるなら言えよ…!…なんか作るから。エヴィもなんか食うか?」

「お、ありがたい。最近軍の飯ばっかでよお、シオの飯が食えるとか感動だぜ。何せめっちゃくちゃ美味いからなぁ」

「そりゃどうも……天使さん。なんか食いたいのある? 無ければ適当に作るけど」

「な、なんでもいいです……」

「そうか……エヴィは?」

「俺もなんでも良い」

「じゃあ、簡単なので良いか」

 別に残り物を出しても良いのだが、エヴァンだけならともかく、楓がいる。残り物を出すのはマナー違反だろう。炊飯器の中は生憎空っぽ。冷蔵庫の中には、エビやアサリ、貝類、野菜類がたくさんある。食糧庫の中には……サフランがあった。洗い物を減らすためにパエリアでもしよう。

「あの……何かお手伝いできることはありませんか?」

 申し訳なさそうに声をかける楓は、ご飯を作ってもらう罪悪感でもあるのか、その問いには梓音は無いと答える。すると、落ち込んだようにソファに戻る。エヴァンが何か話しかけているようだ。楓も合わせて何か話している。ちょっと戯けた表情をしているあたり、きっと
英語が話せないから申し訳なく思っているのだろう。挙句、梓音から料理の手伝いを断られたのだ。何をすれば良いのかと考えている。

 一応客と言えば客なのだから、大人しく料理ができるまで待っていれば良いのにと思う。梓音はまな板と包丁を取り出し、フライパンに油を注いで火をかける。フライパンが温まるまでに火が通りにくい野菜から切っていき、そのままフライパンに入れる。焼け始めの音が聞こえてきたら、炒め始める。少し火を弱めて次の食材を切る。しなやかに動くその手さばきは美しく早い。調理に集中していたため、楓がその動きを見ていることには気づかなかった。


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