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23.響く声/共通点
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しおりを挟む「わざわざ追いかけてきて、こんなことになって。一体何が言いたかったの? ん?」
皮肉なほどやさしい口調で問いかけてくる。捕まえた獲物をなぶるように。
「も、もう一度、……たっ、……」
ギリギリのところで抵抗し続けながら、俺は口を開く。
「拓海……兄さん、の、ところへ……」
「ハッ。あんな男ともう一度やり直せって言うの? 冗談じゃない」
「……がうっ……、兄さん、……も、もうすぐ、あの部屋から、引っ越す。だから――」
この話題を差し出せば、少しは動揺してくれると思っていた。
「だから、何?」
なのに、相手は驚くほど平然としていた。微塵も動じていない。
淡々とした態度の裏に隠れた気迫と腕力に、俺のほうが屈してしまいそうになる。
「もしかして荷物のこと? なら、全部処分していいの。必要なものなんて一つも無いんだから」
「違うっ! ケティだって本当は――」
「何度も言わせないで。あいつとはもうとっくの昔に終わってるの。ただ、サヨナラが遅くなっただけ」
腕の力に抗い続ける首の筋力は、そろそろ限界だった。
紅い唇が次第に近づいてくる。
「よく覚えておきなさい、龍広」
「……っ」
「恋なんて、するだけ損なのよ」
俺の体内に吐息を流し入れるように、ケティはささやく。
「永遠に残るものなんて一つも無いの。どんなに大切にしたって、いつか全部消えるのよ」
そのとき、俺は思い出していた。
粉々に割れてしまったティーカップを――。
それらを拾い上げ、悲しそうに微笑む横顔を――。
「……同じ、だ」
「なに?」
唇と唇が触れ合う寸前、その動きがぴたりと止まる。
「拓海兄さんも……同じこと、言ってた……」
二人が共に過ごした時間は、ちゃんと残っている。
本人たちも気づかないうちに。
いくら否定したって、壊れたって、見ないようにしたって、二人の中にきっと――。
「そう」
ケティは短く、深い溜息をついた。
「いまさら通じ合ったって、嬉しくないわ」
吐き捨てられた思いは、きっと本心ではなかっただろう。その瞬間のケティは今にも泣き出しそうに目を潤ませていたから。
だが、俺がその表情を目にしたのは、ほんの一瞬だった。
「――!?」
次の瞬間には壁から剥がされるように投げ飛ばされ、地面を転がっていたのである。
頭だけはなんとかかばったものの、代わりに膝や腕に強い衝撃を受けてしまう。
「そんなこと言えばあたしが喜ぶとでも思った?」
「……ツッ!」
「甘くみないで」
「ああっ!」
立ち上がろうと力を入れた途端、肩口をおもいっきり踏みつけられる。
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