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17.無意味/解く鎖

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 頭を下げようとした瞬間、ふっ、と笑うような息づかいが聞こえた。

「その話はもういいって、たっちゅん」

 俺の額の上にポンと手を置く。そこから頭全体を撫でるように動かしてくる。

「別にお前だけのせいじゃないだろ?」
「でも……」
「もう終わったことだから、いいよ。許す。許すからさ、この件はもう終わりにしよう」
「……っ」

 違う。
 別に俺は、許してほしくて謝ろうとしているわけじゃない。
 少しでも罪をつぐないたくて――。

 それなのに、今の兄さんはあまりにも投げやりだ。
 己の感情の全てを諦めてしまったような、悟り切ってしまったような――。

「なにが……いいんだ……」

 認めたくなくて、つい、言い返してしまった。

「……良いわけ、が、ない、のに……」

 俺が真剣に向き合おうとしているのに、なにもかもその胸の奥底にしまいこむなんて――。
 そんなの、ずるいじゃないか。 
 兄はしばらく黙ったまま、なんの答えもくれなかった。
 いくら視線を送ったところで無意味。気づいているくせに見ようとすらしない。

「……兄さん」

 さっきから耳の奥で音がしている。
 花火じゃない。
 俺自身の心臓の音だ。どく、どく、と強く脈打つ音。
 膝に乗せた指が、震えている。

「……じゃあ……、教えてくれよ」

 手のひらに冷たい汗を感じながらも、自分から切り込んでいくしかなかった。いまさら引き返すことはできない。

「どうして俺とケティのこと知ってたのか……」

 分かっている。
 兄さんは言いたくないのだ。
 だからなにもかも許そうとする。
 許すことで、全部無かったことにしようとしている。

「……いつから、知ってたのか……」

 それでも、俺は元に戻ることなんてできなかった。
 ケティが取り残されたままになっているから。日常と引き換えに真実を隠してしまえば、彼にすべての罪をなすりつけることになる。

 あの日、ケティは涙を浮かべていたのに。腫れ上がった左目だけで泣いていたのに。

 きっと、彼はまだ、兄さんのことを――。

 
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