お前が脱がせてくれるまで

16.浅い息/無意味

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　どうしてそんなことをしてしまったのか、自分でも分からない。


「――響ッ！」


　気づいたら、何もかもが弾け飛んでいた。

　衝動のまま彼の身体に覆いかぶさり、その首と腰に手を回し、力いっぱいに抱きしめた。
　今まで果たせなかった想いをぶつけるように。

「……ひび、き……っ！」

　それだけでは事足りず、胸いっぱいに彼の髪のにおいを吸い込み、唇の先でやわらかな頬をなぞる。
　薄い皮膚を通して伝わってくる温度はとても心地よかった。擦れ合う皮膚は痺れるような甘い疼きへと変わっていく。

「……っ、ん」

　もっと彼を感じたい――求めれば求めるほど身体は渇いていく。
　熱に誘われるまま、吐息をもらす場所をふさいだ。その呼吸を止めそうなほど激しくむさぼってしまう。


　この瞬間、気づいた。
　俺は、やっぱり、響が欲しい。

　希望のままに前を見据える明るさが。
　傷ついた者のそばに寄り添う優しさが。
　小さなことを気に留めない朗らかさが。
　ときには他人に甘えられる図々しさが。

　そのすべてが、欲しい――。


「ンンッ！」


　我に返ったのは彼の苦痛が震えとなって舌先に伝わったときだった。
　すべての罪を自覚したのは、重ねあった唇を離したあとだった。
　身を起こしたときには、もう何もかもが手遅れだった。
　仰向けのまま、言葉も無く、呆然とこちらを見つめる響。

　その瞳の奥に俺がいた。

　やっと満たされた欲望に薄ら笑いを浮かべる、俺が――。


「あああぁ……っ！」


　悲鳴のようなものが勝手に口の間から漏れ、自分自身から逃げ出すように後ずさる。
　猛烈な悔やみが杭となって心臓に打ち込まれていく。あふれ出したのは血ではない。無色透明な涙。
　汚れきった身体から、それは次々に流れ落ちていく。

「……ごめん、……ひび、き、……ごめっ……」

　響は何をされたのかまだ分かっていなさそうに、何度も何度もまばたきをする。
　だが、次第にその目はうるんでいく。事の重大さが巡り始めているようだ。

「……ごめっ、……ん……」

　俺は思わず頭を抱えた。
　髪をかきむしるとまた悲鳴のようなか細い声が漏れていく。
　唇で触れてしまった禁忌に、怒りがふつふつとこみ上げてくる。

「くっ……！」

　分かっていたのに。
　こんなことしたって、虚しいだけだと――。