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10.ふたり/致命傷
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「――っは!」
詰まるような呼吸と共に目覚めた。
夢であったはずなのに、全身が熱く、汗まみれだった。行為が終わったあとのように。
水がほしい――と、思ったとき、ゴトン、ゴトン、と物音がした。
隣の部屋からにしては、音が大きい。なにかを転がしているのか、それとも置いているのだろうか。音と共に、床の振動も感じる。
おそるおそる、布団から頭を出してみる。
とっくに夜が来ていると思ったのに、部屋の中は明るかった。
つけた覚えがないのに、照明がついている。その白い光に、目の奥がにぶく痛んだ。
今度は引き出しを開けたり閉めたりする音がした。それから何かを探るような気配も。一体誰だろう。
半身を起こし、目をこすりながら音の方を見る。
流し台の前に誰か立っていた。
こちらに背を向けているその人物は、ワニのうろこみたいな模様のジャケットの上に、淡いピンク色のエプロンをつけていた。
見覚えのあるセンスの無さに、心臓が跳ね上がる。
「ひ――」
「おっ! やっと起きたんでちかぁ、たっちゅん!」
振り返ったのは、拓海兄さんだった。
胸を満たした淡い期待が、一瞬にして泡と消えた。よく考えれば、そんなことあり得ないと分かったはずなのに。
「いっぱい寝てまちたねぇー! じぇんじぇん起きにゃいから、お兄たん、とっても心配ちまちたよー!」
そもそも、忙しい兄がどうしてここにいるのだ。状況が把握できず、返す言葉が見つからない。兄は大袈裟に両手を広げ、しばらくそのまま笑っていた。
「ちっ、ちまちたよぉー!」
リアクションをとる気力すら湧かず、ぼんやりとその笑顔を見つめた。
「……ちた、よ……」
けれどあまりにも俺が無反応で辛くなったのだろう。気まずそうに咳払いするなり、
「分かったよ。……普通に、はっ、話すから。そんな目で見んなって」
と、肩をすくめた。
俺はいま、どんな目をしているのだろう。霧がかったような頭の中、己のことなと考えられるはずはなかった。なにもかもが面倒になってくる。再び横になり、布団を頭までかぶる。
「どうした? カゼひいたか?」
追いかけるように言葉が飛んできた。黙ったままでいると、兄は溜息をつき、枕元までやってきた。
「もう。たっちゅんは、しょーがない子でちゅねぇ」
しおらしく、布団の乱れを直してくれる。
「よし。何か作ってやるか! まともなもん食ってないんだろ?」
そんなことはない――つもりだ。
でも、今日に限っては何も口にしていない。
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