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10.ふたり/致命傷

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  ◆ ◆ ◆


「――っは!」

 詰まるような呼吸と共に目覚めた。
 夢であったはずなのに、全身が熱く、汗まみれだった。行為が終わったあとのように。
 水がほしい――と、思ったとき、ゴトン、ゴトン、と物音がした。
 隣の部屋からにしては、音が大きい。なにかを転がしているのか、それとも置いているのだろうか。音と共に、床の振動も感じる。

 おそるおそる、布団から頭を出してみる。

 とっくに夜が来ていると思ったのに、部屋の中は明るかった。
 つけた覚えがないのに、照明がついている。その白い光に、目の奥がにぶく痛んだ。
 今度は引き出しを開けたり閉めたりする音がした。それから何かを探るような気配も。一体誰だろう。
 半身を起こし、目をこすりながら音の方を見る。

 流し台の前に誰か立っていた。
 こちらに背を向けているその人物は、ワニのうろこみたいな模様のジャケットの上に、淡いピンク色のエプロンをつけていた。
 見覚えのあるセンスの無さに、心臓が跳ね上がる。


「ひ――」

「おっ! やっと起きたんでちかぁ、たっちゅん!」

 振り返ったのは、拓海兄さんだった。
 胸を満たした淡い期待が、一瞬にして泡と消えた。よく考えれば、そんなことあり得ないと分かったはずなのに。

「いっぱい寝てまちたねぇー! じぇんじぇん起きにゃいから、お兄たん、とっても心配ちまちたよー!」

 そもそも、忙しい兄がどうしてここにいるのだ。状況が把握できず、返す言葉が見つからない。兄は大袈裟に両手を広げ、しばらくそのまま笑っていた。

「ちっ、ちまちたよぉー!」

 リアクションをとる気力すら湧かず、ぼんやりとその笑顔を見つめた。

「……ちた、よ……」

 けれどあまりにも俺が無反応で辛くなったのだろう。気まずそうに咳払いするなり、

「分かったよ。……普通に、はっ、話すから。そんな目で見んなって」

 と、肩をすくめた。
 俺はいま、どんな目をしているのだろう。霧がかったような頭の中、己のことなと考えられるはずはなかった。なにもかもが面倒になってくる。再び横になり、布団を頭までかぶる。

「どうした? カゼひいたか?」

 追いかけるように言葉が飛んできた。黙ったままでいると、兄は溜息をつき、枕元までやってきた。

「もう。たっちゅんは、しょーがない子でちゅねぇ」

 しおらしく、布団の乱れを直してくれる。

「よし。何か作ってやるか! まともなもん食ってないんだろ?」

 そんなことはない――つもりだ。
 でも、今日に限っては何も口にしていない。
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