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8.繋ぐ罪/ふたり

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 ゆるい自習時間には、昼休みも課題も無い。
 正午には帰宅を許可される。
 平日の昼に街を歩ける解放感につられ、二人でいろいろな話をした──と、いうかほとんど響が一方的に話をしていた。どうでもいいことから、本当にどうでもいいことまで。

 俺から切り出した話題は、一つだけ。


「修学旅行、行かなくて後悔してないか?」

 響は最初、参加する気満々だった。それなのに急に意志を変えたのである。もしかしたら俺のせいで彼は諦めたのではないかと、密かに気になっていたのだ。

「全然ッ」

 俺の気持ちに反して、キッパリと言い切ってくれた。

「だってさぁ、龍広くんがいないとボクどこにも行けないもん。一週間もそれが続くんだよ? 退屈じゃん!」

 だが、響が入るはずだった班の中には、彼のことが気になっているらしき女子もいた。
 俺が見るに、かなりの物好き女。
 彼女はきっと旅行期間に響と仲良くなろうと計画していたはず。響さえその気なら、旅行を通していい感じになれただろうに。

「んー……」

 そのことを話すと、彼は珍しく長く考え込んだ。
 うなりながら髪や唇やアゴの下を触り、言葉を探し回っていた。
 しばらくして顔を上げたかと思えば、

「なんか、ボクさ、カノジョとか、まだいらないんだよね」

 神妙な面持ちでつぶやいた。
 そして俺の背中をポンポンポンとリズムよく叩き、


「龍広くんがいれば、別にいいや」


 そう笑ってくれた。
 その表情に嘘はなかった。


 ──響は、俺だけを必要としている。


 胸の奥底に秘めていた感情に、初めて光が当たった。そんな気がして。
 つい、頬がゆるんだ。

 俺も同じだ、響。
 お前さえいてくれれば、もう、なにもいらない。


「あーあ。もうずーっとこのまま自習でいいのにねぇ!」


 これからずっと、ふたりだけで過ごしていけたらどれほど幸せだろう。


「そうだな」


 分かっている。
 この願いはきっと叶わない。

 だからこそ、俺はずっとずっと──できるものなら永遠に──この時間を忘れないでいよう。


 
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