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6.卑屈弟/探る指
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しおりを挟む「ところでお客様、何をお探しですか?」
かと思えば急に店員面してきやがる。
完全におもちゃにされているようだ。腹が立ってしょうがないが、イラついてはいけない。余計にからかわれるだけだ。
深く息を吸い、気を落ち着ける。
「本じゃない。店員を探してる」
「はい?」
「立花響って……いるだろ」
改めてフルネームを口にすると、どうも照れる。語尾が小さくなってしまったが、伝わりさえすればどうでもいい。
尾津は静かに目を細める。
「ふーん。彼をご所望ですか」
「黙れ」
「今日はシフト入ってなかったけど」
「……そうか」
──大学ではそんなこと言っていなかったが。
「もしかして響くんと知り合い?」
「ああ。友達だ」
「……そう」
疑うように俺を見てくる。
その口元には、何か言いたげな薄い笑み。
まったく、勘のするどいヤツだ。油断できない。
「いいか、誤解すんなよ。ただの友達だからな」
少なくとも現状では──。
「フーン。そういうこと」
“そういう”ってどういうことだ、とは聞けなかった。
少しでも墓穴を掘るような真似をすれば、たちまち突き落とされるに違いない。
そんなことより。
尾津に聞けば分かるはずだ。響の恋人は一体誰なのか。
──真実が、すぐ隣にある。
だが、その最後の障壁が厚い。単刀直入に聞けないこともないが、今後のことを考えると踏み切れなかった。
知られてしまったら最後、こいつは俺の知りたくない情報をあらゆるところから仕入れ、オブラートにくるみもせず投げつけるに決まっている。
その攻撃に耐える自信が、正直、ない。
とりあえず、尾津が響の相手ではないことだけは確かだ。
こいつは自分から告白するタイプではない。罠をしかけ、獲物を徐々に引き寄せるようなヤツだ。その細くて長い手脚は、蜘蛛の化身である証なのではないかと妄想してしまうほどに。だとすると、響の相手は──。
俺はまたレジに視線を向ける。
「気になる娘でもいるの? ゲイなのに」
「うるさい」
「もしや……今や両刀に……?」
「無駄口叩くな。さっさと仕事に戻れ」
睨み付けてやるも尾津は少しも動じることなく、軽く咳払いをしただけだった。
「言葉が過ぎました。申し訳ありません、お客様」
少しも思っていないくせによくそんなこと言えたものだ。
「お詫びに教えてあげましょっか。……私の今のお気に入りは、塩田まほちゃんっていうの」
「まほ?」
「今、レジに入ってきた子よ」
まるで尾津の言葉を合図にしたかのように、奥からやってきた若い女がカウンターの内側へ入り、レジを開けた。
まだ高校生くらいの、あどけなさがある子。暑いのか緊張しているのか分からないが、頬を真っ赤に染めている。化粧っ気のない澄んだ目は手元の辺りをうろうろとさまよい、落ち着きがない。
「顔ちっちゃくて可愛いでしょ」
「……どうでもいい」
「すっごく面白い子よ。見てて全然飽きないの」
恋愛などしたことがなさそうな純な雰囲気。
あの娘が響を束縛している──とは、どうもイメージが結びつかない。
「……さぁて、お仕事お仕事! いきますかぁ!」
尾津はわざとらしくあくびをすると、すれ違いざま俺の手に何かを握らせる。
スマホだった。
尻ポケットに入れていたはずだが、いつの間に抜き取られたのだろう。
画面を見ると尾津の連絡先がきっちり登録されていた。
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