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それでもゴールは相合傘の下
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しおりを挟む「でも……それは……こっちの一方的な思い込みかもしれないし……」
「愛情表現だったんじゃないですかね!?好きじゃない人を本番中に押し倒すことなんてできません!みんなの前で仲の良さを見せつけたかったとかそんな理由ですよ絶対絶対絶対ッ!!」
「鷲尾くん……?」
一條さんは長いまつ毛をぱちぱち弾ませ、鷲尾を見つめている。
彼の焦げ茶色の瞳は光の角度によってエメラルドグリーンに輝く。美しいという言葉しか頭に浮かばない。その輝きを見つける度、鷲尾はいてもたってもいられない気持ちになる。
だが、いま鷲尾の身に迫っているのは間違いなく危機だ。
おそらく、彼はにじっぴの正体が誰なのか気づき始めている。
──やばい。超やばい。
『バレたら即クビ!』という守谷さんの声が特別緊急事態警報として脳髄に響く。
鷲尾は一條さんの肩をつかんだまま、とりあえずハハハと笑った。わざとらしいほどの作り笑い。
「オレってば、にじっぴの気持ちを妄想しすぎっすかね? わは、ははは……」
作り笑いの原因は、ちびっ子の鷲尾が高長身の肩をつかみ続けるのが一苦労だったせいもある。
頭一つ分以上の身長差をうめるには、全力で背伸びをしなければいけなかった。
長年履き倒している鷲尾のボロスニーカーは今にも底が抜けてしまいそうにぐにゃんと曲がってバナナの皮のよう。
おまけに鷲尾のわがままボディは夜中のカップラーメンとアイスが主成分。
そんなものを支えなきゃならない足の親指はミシミシきしむし、ぴーんと伸ばしたふくらはぎは今にも攣りそう。
身も心もピンチ。
それでも一條さんにはなんにも悟られないよう、わざとらしいほど口角を上げてニッコリと笑う。
「実は、オレ、あの動画見たときだいぶ嫉妬しちゃいまして……そのせいで今日は思考回路バグってるのかもしれないっす」
「嫉妬?」
「あいつだけあんないい思いしてうらやましいなぁーって……。オレだって一條さんを押し倒したいのに」
「わっ、鷲尾クンっ!?」
彼の瞳に宿っていた疑いが散り散りになって、代わりに驚きや混乱で満たされていく。
視線を強制的に合わせるように見上げれば、キスを交わす数秒前のようないいムードになっていく。
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