瞳を閉ざした兄の世界に見えているのはオレだけがいい！

・せんちゃん、はじめての仮病

いらっしゃいませ！

　

「早くうつして早くっ！　せんちゃんの体で培養された特製ウイルスならいくらでも吸えるから！　いらっしゃいませ！！」

「優兄……、大丈夫？　優兄もカゼひいてない？　変態すぎるよその思考」

「変態兄を看病する心の準備はよろしいでしょうか？」

「もちろんオッケー……って！　わざとなんてダメに決まってるでしょっ！　しない！　絶対に今日は優兄とチューしないっ！」

「むぅー……せんちゃんのケチっ」

　赤みの薄いくちびるをタコさんのようにチューチューさせ、優兄はふてくされる。
　突き出されたごちそうを前にオレはちょっとドキドキしながらも、なけなしの理性でこらえた。

「ウイルスにケチも太っ腹もないから！」


　──兄弟のボケツッコミが今日は正反対すぎる。
　とはいえオレが優兄を看病するの側だったら、同じような提案をしていてたかもしれない。


　濃厚キス、ホントはしたかった。めちゃめちゃ。むちゃくちゃ。ぐちゃぐちゃ。むちゅむちゅ。


　勢いでキスしない宣言をしたものの、そういえばオレは健康体そのもの。
　チューしようがナニしようが優兄の免疫細胞は休戦状態。平穏のままだろう。

　どんな飛沫を浴びせたって、本当にうつるわけじゃない。

　最悪だ。失敗した。損した。
　悔しい。悔しすぎる。

　せっかく優兄公認の濃厚ベロチュータイムをはふはふと堪能できるチャンスだったのに！！！