瞳を閉ざした兄の世界に見えているのはオレだけがいい！

・ゆっくりおさんぽしよう（ほのぼの）

ありがとね

　

　追加で質問してみても、「ふひっ」とか「へへっ」と思わせぶりに吐息をもらすだけ。
　リズムを刻むように白杖の先っぽを、てん、てん、と地面に当てて遊んでいる。

　そんなに焦らすとキスしちゃうぞ──と言ってやりたい。いや、脇の下くすぐりまくりの刑がいいか──。
　悪だくみが伝わったらしい。

　優兄は大きく息を吸い込むと「あのね」と切り出してきた。


「選んでくれたのは、せんちゃんだよ」

「え？」


　穏やかな声はビルの壁に跳ね返って、まるでエコーがかかっているみたいだった。


「誰かに必要とされたいって思ってたぼくを選んでくれたのが、せんちゃんだったの」


　耳がぴりぴりと痺れる。そんなの初めて聞いた。
　オレは物心つく前からものすごく寂しがりだったらしくて、ひとりにされると必ず泣きわめいて、いろんな人に迷惑をかけてきた。オレがもう泣かないようにずっとそばにいるって優兄が選んでくれた──そう思ってた。

「せんちゃんに選んでもらったときの、あったかい気持ちがずーっと忘れられなくてさ。みんなにも同じ気持ちになってもらいたいって思うようになったんだ」

「優兄……」

「ありがとね。選んでくれて」

　繋ぎ合わせた手に優兄のほうから、きゅっと力がこめられる。

「ずっとずっと離さないでいてくれて」

　ことばにはできないけれど、この一年間にあったことや、それ以前の悲しかったことや辛かったことが一気によみがえってくる。
　どんなときにも優兄が必ずそばにいた。オレだって優兄のそばにいた。


　──絶対に離すわけないじゃないか。