瞳を閉ざした兄の世界に見えているのはオレだけがいい！

・ひとりぼっちの土曜日（微R15/ヤキモチ）

抱っこ大至急っ！

　

「いいからオレも抱っこ！　大至急っ！」

「はいはい」

　優兄は起き上がろうとしたけれど、その時間すら惜しかった。オレのほうからその胸に飛び込んで小さな背中に腕を回し、ぎゅっと抱き寄せる。
　優兄にまたがってのハグ。きっと重たいだろうけど、早く抱きしめてもらいたくてしょうがなかった。


「せんちゃんったら、もー！」

　ふふっと笑う声が耳たぶをくすぐる。

「だって、我慢できないから……」

　ウズウズがとまらなくてほっぺにチューしたらもっと我慢できなくなって、くちびるにキスした。一回だけじゃ足りなくて、二回、三回。
　先っぽだけでふにふにする軽いキス。

「ごめんね。今日たくさん心配しちゃった？」

「う……」

　謝らないでほしい。

　鼻のあたりがツンと甘酸っぱく痛む。涙の前触れだ。
　優兄は見えてないのにそれに気づいているのか、「ごめんね」と頭をポンポンしてくれた。それから腕にいっぱい力を入れてギュッからの、ほっぺスリスリ。
　しあわせハグのフルコースだ。ますます鼻が痛くなる。


「よしよし、もう元気だからね。ごめんね。いつも……」

　ことばで直接『さみしかった』なんて言えないから、お返しとして首筋にチューした。ミルク色の肌はとてもいい匂いがする。
　どんなに世界が広くても、オレの居場所はここなんだって心から思える匂い。


「んっ」


　そのしるしを残しておきたくて、ちょっとだけ強く吸い付いた。痕がうっすら残るぐらいに。

「せんちゃんっ……」

「ゆーにぃ」

　もう一度キスし合いながら、こっそりパーカーのポケットをさぐった。甘い甘いキャンディを求めて──。

　取り出そうとした瞬間、妙な視線を感じた。床に転がっているぬいぐるみがじっとオレを見ている。
　無表情のそいつに──ニタニタ顔のアホ崎に──優兄とのいちゃいちゃを見物されている気がして、萎えた。
　ポケットのなかでキャンディをぐぎゅっと握りつぶす。

　よく考えたら、今日のすべての元凶はこれなのだ。
　いくらその瞬間が気持ちよかったって、優兄のからだに負担がかかって、翌日寝込ませてしまうのなら使いたくない。

　未練がましく甘い匂いを発するそれをゴミ箱のほうにおもいっきり放り投げた。


「……ん？　どうかしたの……？」

「なんでもない」


　その日はそのまま、キスだけで終わらせた。