怪異探偵№99の都市伝説事件簿

安珠あんこ

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ファイル.03 ツチノコ狂想曲

ファイル.03 ツチノコ狂想曲(1)

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「あー、今月も赤字ですー」

 ノートパソコンの画面を見つめながら、サキは頭を抱えていた。

「どうした、サキ君?」

「先生、ここ最近仕事の依頼が来てないので、赤字なんですよー」

「確かに……」

「確かにじゃないですよー。このままじゃ、この事務所を借りるのに必要なお金も払えなくなるし、私のお給料も無くなっちゃうんですからねー。ここ最近、値上がりするものばかりで、食べ物買うのも大変なのにー」

「わかった、わかったよサキ君。うーん。仕方ない、あんまり乗り気じゃないが、まりえの知り合いから何か仕事をもらうか」

 九十九はメールでとある人物と連絡を取った。

 二時間後、黒いスーツを着た男性が九十九探偵事務所を訪れた。

 応接室で九十九はこのスーツの男性と打ち合わせをしていた。

「どうです、九十九さん。都市伝説を調査しているあなたにピッタリの仕事でしょう?」

「私にツチノコを見つけ出して、その報告記事を書けというわけですか?」

「ええ、日本のUMA、未確認生物の中でもツチノコは抜群の知名度ですし、うちの雑誌でも人気ですからね。計算出来るコンテンツなので、定期的に記事にしたいネタなんですよ」
 
「しかし、ツチノコの目撃情報はたくさんあるのに、この令和の時代になっても、一匹も見つかっていません。正直言って、私も発見できる自信はないですよ」

「まあまあ、心配しないでください。今回私がこの話を持ってきたのは、ちゃんと理由があるんです」
 
 月刊ヌーの編集長である望月良平は、記者である伊藤まりえから九十九の話を聞いていた。
 それから、望月編集長は定期的に九十九の事務所に顔を出すようになり、九十九たちと知り合いになった。
 この編集長はいつも真っ黒なサングラスをかけた、ちょいワルっぽい見た目のおじさんだ。
 しかし、見た目とは裏腹に、彼の話し方はとても穏やかで紳士的だった。
 
「読者から月刊ヌーの編集部に寄せられてくるツチノコの目撃情報が、ここ半年で急増してるんです。しかも、ある特定の地域に集中しているんですよ」

「なるほど、それは興味深いですね」
 
「それが、G県にある八十狩村(やそがりむら)なんですけど、目撃情報が多いからか、村が最近ツチノコに高額の懸賞金をかけたみたいで。それで、全国から人が殺到しているみたいなんですよ。そこで九十九さんには、その村の取材をお願いしたいんです」

「そんなことがあったとは。実に興味深いです。いいでしょう。その仕事、引き受けます」

「おお、行ってくださるんですね。ありがとうございます。交通費とか取材にかかる費用は全部うちの会社で持ちますから、後で領収書出してくださいね」

「その件なんですが、最近ウチもいろいろと厳しくてですね。その、望月さんがよろしければ、取材費を前借りできないかなと……」

 九十九は手を合わせて望月編集長に頼み込んだ。

「しょうがないですねー」
 
 望月は、自分の財布から六万円を取って、机に置いた。
 
「今回だけですよ、九十九さん。東京からG県まで往復で一人二万円ぐらいかかります。宿泊費を入れても、これだけあればなんとかなるでしょう。最終的にはうちで支払いますけど、前借り期間中は借用したということにします。なので、一応借用書を書いてもらいますけど、いいですね?」
 
「望月さん、ありがとうございます。もちろんそれで大丈夫です。サキ君、借用書を書くから、紙とペンを持ってきてくれ」

「はーい」

「あ、そうそう。うちの雑誌はツチノコに懸賞金をかけてるんです。生捕りにして編集部まで持ってきてくれたら、報酬にプラスして百万円支払いますよ」

 ぱしゃん。

 その言葉を聞いたサキは、思わず持っていた紙とペンを床に落としてしまった。

「ひゃ、ひゃくまんですってー!? そ、それ、本当なんですかー?」

「ええ。うちの社長は都市伝説が大好きですから。ツチノコを発見したら、相応のお金を出してもいいといっています」

「最高でーす。せんせー、すぐに準備して捕まえにいきましょー」

「まあまあ、落ち着いてください、鷹野さん。九十九さん、うちに寄せられた目撃情報とかの詳細は後からメールで送りますね」

「よろしくお願いします。では、借用書を書きますね」

 借用書を受け取った望月編集長は事務所を後にした。
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