上 下
139 / 147
ミーガンの結婚行進曲

一緒に生きていく

しおりを挟む
「そんなもんじゃないかな。たとえ失敗だと思っても、それがいい方向にいくこともある。失敗から学ぶこともある。生きてれば失敗なんて山のようにあるんだから」
「そうだけど……」
「王太子妃っていう立場が重いのはわかるよ。俺も王太子で後々は王になれと言われてきた。けど、怖いと感じないことなんてないんだ」
 いつも自信満々に見えるのに。ディーンは手のひらを空に向け、指の間から瞬く星を見ている。

「世の中には優秀な人間は山のようにいる。だけど、王太子と言う立場の俺を周りの人間は持ち上げる。近くに俺より優秀な人間がいてもだ。そんなの変だろう? 俺はだから、いつも失敗しないように誰もが立場に関係なく認めてくれるように頑張ってきたんだ。誰も文句が言えないように」
 手を降ろし、下を向いたディーンは「それでもさ」とつぶやくように言う。
「俺だって失敗はする。言わなきゃよかったってことを言ってしまって後悔することもある」
 それはそうだろう。人間なんだもの、と思ってハッとする。
 私は努力もしないで端からあきらめてるってこと?

「ディーン、私」
 にこりとしたディーンはうなづき、私の手をとると、顔をじっと見つめる。
「俺と2人で生きてほしい」
 真剣な表情から目が離せない。

「ミーガンが失敗しそうになったら俺が助けるし、俺が失敗しそうになったら援護してほしい。俺の側にいてほしいんだ、これからずっと」
 ディーンの目がまるで夜空の星のように澄んでいて綺麗だな、なんて思ってしまう。
「ミーガン・ボナート、俺と結婚してください」

 真剣な表情はいつになく緊張してる。なんだかとても愛おしくって、私は小さくうなづいた。
「ありがとう、ディーン。私でよければ」
 そっと肩を引き寄せられ、優しく抱きしめられた。
「ありがとう、ミーガン」
 抱きしめられたまま、ディーンは私の髪をなでた。

 何だか恥ずかしくて顔を上げられない。
 だが、ディーンは「そのかわり」と言い出した。

「へ?」
 いきなり怖いんですけど。
「そのかわり、ひとつだけいうこと聞いてほしい」

「な、なに?」
「子供の名前は俺がつける。わかった?」
「はい? それ、どういう」
「ミーガンに命名はさせないってこと」

「ちょっと! それどういう意味よ」
「理由聞く? なあ、ごましお」
 二人に挟まれたままのごましおが「みゃあ」と鳴いて、ディーンがくすくすと笑いだした。

「命名力がないって言いたいのね」
「もうっ」と言った私も吹き出してしまって。
 ふたりで笑いあいながら、いつまでもこうして笑いあって過ごしていけることを星に願った。


~7年後~

 あれ?
 誰かが僕の名前を呼んでいる。

「アーサー?」

 アーサー・ルクルット。
 僕の名前だ、父様がつけてくれた名前。

「母様?」
 涙目の母様が僕をぎゅっと抱きしめた。

「僕……」
「よかった、本当によかった」
 抱きしめられたまま見ると、父様が小さな妹のリリーを抱えてほっとした顔でこちらを見ていた。

「父様。リリー」
「にいに」
 小さな妹がちっちゃな手を伸ばしてくる。

「よかった、気が付いて。お前、木から落ちて気を失っていたんだ」
「木? あ、そうか。僕、ごましおが木に登ってたから。あれ? 僕、ごましおだったよ」
 僕から離れた母様が目を見開いて、僕の額に手をやる。
「熱はないわね。アーサー? 母様のことわかるわよね」
「うん」

「あなた、ごましおって。ごましおはほら」
 見ると、暖炉の前で丸くなっている。
「だって、僕、ごましおって。そうだ、母様がつけたんだよね、ごましおって名前。それで、僕、バスケットに入れられて。ひどい女の人が母様を剣で、僕、飛びついて噛みついてやったんだ。ねえ、その人どうなったの? そのあとはここにいて」
 説明してた僕ははっとした。
「そうか、僕、夢見てたんだね。なんだ、変な夢だね」

 顔を見合わせていた母様と父様。
 ふたりは眉を下げ、僕の頭をなでてくれた。

「よくやった、アーサー。お前のおかげでミーガン、母様は助かったんだぞ」
 と父様が言い、母様は、
「ありがとう、アーサー」
 とまたぎゅっと僕を抱きしめた。

 何だか訳がわからないけど、母様に
「小さな王子様」
 と言われ、僕はとっても嬉しかったんだ。



※      ※       ※        ※       ※

お疲れさまでした。
ミーガンの結婚行進曲はこれで終了となります。
が……
あと少しだけ、婚約中の出来事を書き足そうと思っています。
以前書いたレラのお母さん、ロマンス小説家のミランダ夫人の目線でお話は進みます。
まだ書いていない答え合わせみたいなこともあったのと、
近況でも書いたのですが、大賞に参加したら、文字数が足らない!ってことに気づきまして(汗)
もう少しだけお付き合いいただけたら嬉しいです。
できたら投票の方もどうぞよろしくお願いします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生してストーリー無視で商才が開花しましたが、恋に奥手はなおりません。

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】乙女ゲームの悪役令嬢である公爵令嬢カロリーナ・シュタールに転生した主人公。 だけど、元はといえば都会が苦手な港町生まれの田舎娘。しかも、まったくの生まれたての赤ん坊に転生してしまったため、公爵令嬢としての記憶も経験もなく、アイデンティティは完全に日本の田舎娘。 高慢で横暴で他を圧倒する美貌で学園に君臨する悪役令嬢……に、育つ訳もなく当たり障りのない〈ふつうの令嬢〉として、乙女ゲームの舞台であった王立学園へと進学。 ゲームでカロリーナが強引に婚約者にしていた第2王子とも「ちょっといい感じ」程度で特に進展はなし。当然、断罪イベントもなく、都会が苦手なので亡き母の遺してくれた辺境の領地に移住する日を夢見て過ごし、無事卒業。 ところが母の愛したミカン畑が、安く買い叩かれて廃業の危機!? 途方にくれたけど、目のまえには海。それも、天然の良港! 一念発起して、港湾開発と海上交易へと乗り出してゆく!! 乙女ゲームの世界を舞台に、原作ストーリー無視で商才を開花させるけど、恋はちょっと苦手。 なのに、グイグイくる軽薄男爵との軽い会話なら逆にいける! という不器用な主人公がおりなす、読み味軽快なサクセス&異世界恋愛ファンタジー! *女性向けHOTランキング1位に掲載していただきました!(2024.9.1-2)たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます! *第17回ファンタジー小説大賞で奨励賞をいただきました!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...