5 / 147
猫との暮らし
しおりを挟む
「これ、タイ厶だし、こっちのはローズマリー。あ、どくだみも生えてる亅
朝になり泊まった小屋と周りを散策した。
朝日が差し込む森の中は昨夜の真っ暗な怖さとは大違いで、まるで童話の世界。
小屋も古いけど頑丈そうで、掃除すれば暮らしてはいけそうだ。
裏には小さな小川が流れてて、魚も泳いでいた。
「だから、ここに住んでたの?亅
昨夜からお世話になってる黒猫は、小川のそばで泳ぐ魚をじっと見ている。
糸はカバンにあったし釣りできるかな、待って、網があれば罠を作って。
カバンの中には着古した私の服が詰め込まれていた。他には裁縫道具や刺繍糸、本に日記らしいものまで。もう少しお金になるものでも入ってたらよかったんだけど。婚約者を頼りにしていってたんだろうから仕方ないか。
「ったくあんな男!」
黒猫が顔をあげ、びくりとする。
「あ、ごめんね」
思わず声に出してたようで、黒猫に謝ると、
「何もないよりはマシよね。まずは掃除!亅
と気合を入れた。
拾ってきた枯れた細い枝をまとめて箒にするとホコリを掃き出す。カバンに入っていた古い布を雑巾代わりにして床を拭く。
こんなことになって、ずっと夢だろうと思ってた。
だけどあまりに長過ぎるし、リアルすぎる。
現実世界で日本人だった私はストレス解消にスマホで転生モノやファンタジーの漫画を読んでいた。ゲームまで手を伸ばしてもいたのよね。まあそのぐらいハマっていた。
まさにそれじゃないのかな、って何となく思い始めていた。
何のお話なのかはわからないけど、どれかの中に転生しちゃったんじゃないだろうか。
この世界に転生し私はミーガンになってしまったわけで、ミーガンはどうなっちゃったんだろう。
私と同じように彼とお義母さんと友達に裏切られて。
私みたいにキレて怒ってなんてタイプではなさそうだし、卒倒しちゃったのかな。同じ状況だった私の意識がそこに入り込んだのかも。
じゃあ、本当のミーガンはこの体の中で眠っているのかもしれない。
ただ、いったいどの話なのか、漫画なのか、ゲームなのか。わからない。
それにどうせ転生するならお金持ちの悪役令嬢にでもなればよかったのに。ミーガンはどう考えても悪役令嬢ではなさそうだ。悲劇の貴族令嬢かな。今はその貴族の称号すらないみたいだが。
「悪役令嬢に転生したら死を回避しつつ静かに暮らしたのになあ」
悪役令嬢らしからぬ働きぶりで、キレイになった床をぐるりと見回した。
「まあ、ここも静かに暮らせるわよね。うるさい人も嫌な奴もいないし」
窓辺であくびをしていた黒猫がたんっと床に降りると、あちこちをくんくん。
「どう、きれいになったでしょ」
自慢げに背中をそらす私に近づいてきた黒猫は、
「みゃあみゃあ」
と顔を見て声を上げた。
「え? 何? あ、もしかしてごはん?」
黒猫が満足げに「にゃあ」とひと鳴き。
「あ、えーと。魚取りにいこうか」
ともかく、布の袋みたいなのをカバンから取り出して持っていく。
小川の中には小さい魚が結構泳いでる。手でつかめそうな気がするんだけど。
「うわっ」
「ひゃっ」
「きゃあああ」
案に相違して手元には濡れそぼった袋のみ。
「あの、仕掛けをつくれば、明日の朝には」
取れるんじゃないかな、ダメかな、と黒猫のほうを見ると。あきれたような顔でまるでため息のように「にゃあああああああ」と鳴かれた。
そのまま方向転換するとすたすたと進んでいく。
完全に呆れられたみたい。
「ねえ、何か取りに行くの?」
猫の本能で狩りに行くのかも。だが、黒猫はこちらを振り返ると、
「にゃあ」
こっちに来いとばかりに顔をくいっと前へ向ける。
どうやらついて来いといっているようだ。
朝になり泊まった小屋と周りを散策した。
朝日が差し込む森の中は昨夜の真っ暗な怖さとは大違いで、まるで童話の世界。
小屋も古いけど頑丈そうで、掃除すれば暮らしてはいけそうだ。
裏には小さな小川が流れてて、魚も泳いでいた。
「だから、ここに住んでたの?亅
昨夜からお世話になってる黒猫は、小川のそばで泳ぐ魚をじっと見ている。
糸はカバンにあったし釣りできるかな、待って、網があれば罠を作って。
カバンの中には着古した私の服が詰め込まれていた。他には裁縫道具や刺繍糸、本に日記らしいものまで。もう少しお金になるものでも入ってたらよかったんだけど。婚約者を頼りにしていってたんだろうから仕方ないか。
「ったくあんな男!」
黒猫が顔をあげ、びくりとする。
「あ、ごめんね」
思わず声に出してたようで、黒猫に謝ると、
「何もないよりはマシよね。まずは掃除!亅
と気合を入れた。
拾ってきた枯れた細い枝をまとめて箒にするとホコリを掃き出す。カバンに入っていた古い布を雑巾代わりにして床を拭く。
こんなことになって、ずっと夢だろうと思ってた。
だけどあまりに長過ぎるし、リアルすぎる。
現実世界で日本人だった私はストレス解消にスマホで転生モノやファンタジーの漫画を読んでいた。ゲームまで手を伸ばしてもいたのよね。まあそのぐらいハマっていた。
まさにそれじゃないのかな、って何となく思い始めていた。
何のお話なのかはわからないけど、どれかの中に転生しちゃったんじゃないだろうか。
この世界に転生し私はミーガンになってしまったわけで、ミーガンはどうなっちゃったんだろう。
私と同じように彼とお義母さんと友達に裏切られて。
私みたいにキレて怒ってなんてタイプではなさそうだし、卒倒しちゃったのかな。同じ状況だった私の意識がそこに入り込んだのかも。
じゃあ、本当のミーガンはこの体の中で眠っているのかもしれない。
ただ、いったいどの話なのか、漫画なのか、ゲームなのか。わからない。
それにどうせ転生するならお金持ちの悪役令嬢にでもなればよかったのに。ミーガンはどう考えても悪役令嬢ではなさそうだ。悲劇の貴族令嬢かな。今はその貴族の称号すらないみたいだが。
「悪役令嬢に転生したら死を回避しつつ静かに暮らしたのになあ」
悪役令嬢らしからぬ働きぶりで、キレイになった床をぐるりと見回した。
「まあ、ここも静かに暮らせるわよね。うるさい人も嫌な奴もいないし」
窓辺であくびをしていた黒猫がたんっと床に降りると、あちこちをくんくん。
「どう、きれいになったでしょ」
自慢げに背中をそらす私に近づいてきた黒猫は、
「みゃあみゃあ」
と顔を見て声を上げた。
「え? 何? あ、もしかしてごはん?」
黒猫が満足げに「にゃあ」とひと鳴き。
「あ、えーと。魚取りにいこうか」
ともかく、布の袋みたいなのをカバンから取り出して持っていく。
小川の中には小さい魚が結構泳いでる。手でつかめそうな気がするんだけど。
「うわっ」
「ひゃっ」
「きゃあああ」
案に相違して手元には濡れそぼった袋のみ。
「あの、仕掛けをつくれば、明日の朝には」
取れるんじゃないかな、ダメかな、と黒猫のほうを見ると。あきれたような顔でまるでため息のように「にゃあああああああ」と鳴かれた。
そのまま方向転換するとすたすたと進んでいく。
完全に呆れられたみたい。
「ねえ、何か取りに行くの?」
猫の本能で狩りに行くのかも。だが、黒猫はこちらを振り返ると、
「にゃあ」
こっちに来いとばかりに顔をくいっと前へ向ける。
どうやらついて来いといっているようだ。
55
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生してストーリー無視で商才が開花しましたが、恋に奥手はなおりません。
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】乙女ゲームの悪役令嬢である公爵令嬢カロリーナ・シュタールに転生した主人公。
だけど、元はといえば都会が苦手な港町生まれの田舎娘。しかも、まったくの生まれたての赤ん坊に転生してしまったため、公爵令嬢としての記憶も経験もなく、アイデンティティは完全に日本の田舎娘。
高慢で横暴で他を圧倒する美貌で学園に君臨する悪役令嬢……に、育つ訳もなく当たり障りのない〈ふつうの令嬢〉として、乙女ゲームの舞台であった王立学園へと進学。
ゲームでカロリーナが強引に婚約者にしていた第2王子とも「ちょっといい感じ」程度で特に進展はなし。当然、断罪イベントもなく、都会が苦手なので亡き母の遺してくれた辺境の領地に移住する日を夢見て過ごし、無事卒業。
ところが母の愛したミカン畑が、安く買い叩かれて廃業の危機!? 途方にくれたけど、目のまえには海。それも、天然の良港! 一念発起して、港湾開発と海上交易へと乗り出してゆく!!
乙女ゲームの世界を舞台に、原作ストーリー無視で商才を開花させるけど、恋はちょっと苦手。
なのに、グイグイくる軽薄男爵との軽い会話なら逆にいける!
という不器用な主人公がおりなす、読み味軽快なサクセス&異世界恋愛ファンタジー!
*女性向けHOTランキング1位に掲載していただきました!(2024.9.1-2)たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます!
*第17回ファンタジー小説大賞で奨励賞をいただきました!
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる