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よくある話──異世界666─

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朝起きて、普通にメシ食って普通に学校行こうとして。

「……玄関開けたら秒で異世界って、なんだそれ」

こう、妙な光に包まれるとか、神や女神を詐称するエラそーなじーさんやらムダに色気過剰な姉ちゃんやら自意識過剰なお子サマやらに『アナタは死にました』とか言われるなんてそーゆーテンプレは無かった。
暴走トラックが突っ込んできた?
普通の住宅街で、どーやって?
事故りそーな子供を助けた?
マジで「行ってきまーす」って、玄関開けた瞬間だったって。
落とし穴にハマるとか、妙な光に包まれるとか、そんなコトもなかった。

唐突にも程がある。




え? と思った時には、現実じゃ見た事もない場所に普通に立ってた。
何のファンタジー映画ですか? ってカンジの、ムダにだだっ広い石造りの寒々とした広間。

「……は?」

ポカ~ンとするのも当然だろう。
こちとら普通に登校しようとしてた、一般男子高校生だそ。

目ぇシロクロさせてたら。

「おぉ……よくぞ、よくぞ我が呼びかけに答えてくれた! 勇者よ!」

やたら感極まったっポい、じーさんの大声がしてな。

「……は?」

思わず周囲を見回した。

いや、だって勇者ってダレ?




そしたらまぁ、前の方にムダにきらびやかな──あれ、玉座ってヤツか?──デカい椅子に座ってたのか、玉座の前で半立ちになってる分厚いマント着て、首大丈夫か? って心配になるような重そうな王冠かぶった、正に『トランプの王様』みたいなじーさんが、めっちゃたぎってた。

『トランプの王様』を中心に、斜め前にオレ様切れ者! って顔した片メガネのおっさんが一人。
その反対側には、ごっつい剣……だろうな、アレ。
見るからに重そうな剣を持った、つか、腰に下げた強そうなおっさんが一人立ってた。

その他にもズラ~っと、こう……広間の壁に沿って人がいっぱい……。
お子様は一人も居なかったけど、それなりに年くった老若男女が、こっちを見てた。

なんか俺、見世物になった気分でな。

で。
思わずもう一回。

「は?」

そしたらトランプの王様。

「……は?」

思わず見つめ合う2人トランプの王様と俺

……って、ナニも芽生えたりしねえぞそこで妙な声で鳴いた女子。
っつか、元女子。
だらしない顔でこっち見んな。




なんつうか、こう。
状況的に、あのトランプの王様に直に話しかけると『不敬である!』とか言って難癖つけられそうな気がする。
ので。
こっちの様子を伺ってる片メガネのおっさんに向かって。

「あの、すいません。ここはどこで、今どういう状態でしょうか?」

真っ正面から聞いてみた。

片メガネのおっさんは、目を見開き。

「……え?」

ポロっと片メガネが落ちた。
って、ああ、細いチェーンで服に繋げてんのか片メガネ。
なんかプラプラしてる。

「あの、すべて承知の上でここに……我がハルム国に来て下さった訳ではないのですか?」
「は?」

結果。
おっさんとも見つめ合う羽目になった。




話が進まない、ということで。
片メガネを装着し直したおっさんが、ざっくりと話したところによると。

ハルム国が誇る王家の一粒種、アナマリア姫がリーリス帝国の支配者、魔王と渾名される帝王ギルバによって誘拐された、と。
帝王ギルバは色好みで、アナマリア姫を15番目の妻とする為に拉致、及び監禁、か~ら~の~……と、いう訳で。

「我が国の軍事力では、帝国には敵いません。ならば、異界より招きたる勇者殿に姫の奪還を願おう、と」

他力本願にも程があるだろ。

そこの、ムダにデカい剣持った強そうなおっさんに行ってもらえよ。

それともナニか?
自分の国の財産の一部である兵士は使えないけど、どっか他所から来た勇者(笑)ならば、ナニをどうしても構わない、と?
少なくとも、我が国の民ではないから失敗してもまた次の勇者(笑)を呼べばいい、とか?

……ざっけんな。

思わずジト目になった俺だが。

「……ん?」

その何チャラ姫がかっさらわれて、何日だ?



確か、テレビドラマで誘拐事件の被害者の生存率って、72時間とかFBI が言ってた気がする。
無事(?)なのは3日か……。
その辺どうよ、片メガネのおっさん?

「えふ……?」

おっさんは、聞き慣れない言葉に戸惑いながらも答えた。

「3ヶ月ほど前です、ね」

ありゃ。

「そりゃもう手遅れだな。その帝王って、女好きなんだろ? とっくに名実ともに15番目の嫁になってるわ。来年には、元気な赤ん坊産まれてんじゃねぇ? ……拐った帝王と拐われた姫さんが健康な男女だったら、さ」

来年には孫が産まれるのか、もれなくじーさんだな王様。

そう、サラッと言ってみたら。

「「「なにーっ!」」」
「ぶくぶくぶく……」
「王が、王が口から泡を吹いて白目むいて気絶したーっ!」
「早く、早く治癒師をーっ!」

なかなかの騒ぎになった。




俺、もう帰っていいかな。

泡吹いたトランプの王様のおかげで、こっちに注目する視線が全滅した。

で、見た感じ術者っポいフード付きのずるずるローブに意味ありげなデカい杖持ったじーさんを見つけて。
広間の隅っこに引きずってって、帰せ戻せとやったらば。

「何か対価を」

珍しいモノを寄越せ、だと。
忠誠心とか、無いらしい。

珍しいモノねぇ……。

モノは試し、とばかりに小銭をじゃらっと出して。
これはアルミ、これは銅となんかの金属の合金、これは……と、ざっくり説明して、こんな金属はあるか? と聞いたらば。
面白い素材だーって、じーさん大喜び。

で。




結果。

六百六十六円で、玄関前に戻ってきた。
どうやら時間的には1分も経ってないらしい。

なんだろうな。

なんか、こう……やる気っつーか、学校行く気が失せた。

けど、まあ……しょうがねぇから学校行くか。

またどっかに呼ばれたりしたら嫌だから、何も言わずに黙ったままで行こう。

やれやれ……。

朝から疲れた。




異世界に拉致されて、\666円払って速攻戻ってきた。

なんだこれ。






終わり。
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