目標:撤収

庭にハニワ

文字の大きさ
上 下
37 / 374

テンプレなんか…。

しおりを挟む
気付いた時、おれは不可視の拘束を解かれ、地に…床に倒れ込んでいた。一瞬、ほんのちょっとの間、意識を飛ばしていたらしい。
主様は禁書を手に、おれを見下ろしていた。
もういいや、と言わんばかりの冷めた視線に、今度は切り捨てられる恐怖が襲ってきた。
おれは、敵対する立場だというのに、目の前のこの方のモノでありたい、と強く、強く願ってしまった。
後はもう、半ば無意識だった。
ただひたすらに懇願した。
自分はあなたの役に立つ。絶対に裏切らない。あなたが望むのであれば、この国も滅ぼす、と。
その願いの結果は、今おれがあの方の呪式法陣をこの身に受けていることで分かるだろう。
胸に咲いた異世界の赤い華。細い花弁が幾重にも連なる、見たことも無い華はおれが主様のモノである、という証明だ。
主様の望みが叶い、解放の時が来てもこれだけは、この華だけは消滅させる気はない。

叶うのなら、魂魄までもお側に。

主様はそこまでの束縛はお望みではないのだけれど。



いい加減、ずるい連呼も疲れたのか飽きたのか、元部下は肩で息をしていた。
…叫び過ぎだ…。
そんな元部下に声をかける。


お前はお前の任務を果たせ。
おれは主様の命令を果たす。


…分かったっス。
あ、お頭。ひょっとして、ご主人様方の使用済みのナニか、持ってたり…は、しないか。
はー…。


おれの元部下が、とんだ変態だった。

露骨に肩を落として、深々とため息をつく元部下を、呆れた目で見ていると。


オレが欲しいってワケじゃねースよ。
や、欲しいけど、ってそーじゃなくて。


ちょっとワタワタしてる。
面白い。


だーっ!貴族連中が欲しがってんスよ!
ヘンタイなのはアイツらっス!


あー。
納得した。
貴い血、などと言っているが、フタを開けたら変態嗜好ばかりだものな。
血が濃ければ濃いほどに、オカシなヤカラのイカれ具合が天井知らずだ。

『お貴族サマなんて言えば聞こえはいいけど、皆大変な変態だ』

と、言ってたのは誰だったか…。
確か当人も貴族だったような。
…間近で見ていた故の発言か…。


しかし…其奴らは何なんだろうな。
神の聖遺物でも求める気分なのかね?


や、知らねーっス。どっちかってぇと高名な舞台女優の私物かナンか欲しいってのと似てる気がするっス。


…元部下と2人、顔を合わせて深くため息をついた。
本来諜報機関ってこういう使い方するモノじゃないだろうに。
…今に始まったことじゃないか。


まあ、とりあえず今回は帰るっス。
王にはちゃんとお頭の言葉伝えとくっスよ。
ご主人様方によろしくっス。


そう言って、元部下は消えた。
…アイツ、あんなに軽やかな性格だったか…?

軽く頭を振って、おれは当初の目的地、盗賊ギルドへと向かった。

少しだけ、気が楽になったような気がした。



やって来ましたティニークァ国。
基本的には農業メインの、のほほんとした平和な国、らしい。
良いねー、平和な国。
平和が一番だよな。
ホント、いろんな意味でな…。
色ボケとか居ないといーんだけどな~。
まあ、ミヤさん居るしな。
儚い夢かー。

で。
街道を銀竜の操る馬車でのんびり移動中。
たまにすれ違うのは農家の人の荷馬車とか、その荷馬車に便乗している行商人とか…。
商隊とは遭わなかったな。タイミングの問題かね?
あ、お約束っちゃお約束の盗賊とか夜盗とかは…俺とミヤさんでさっくりと。
銀竜には最初に言った通りにスズとリッカさんの護衛を頼んだ。

正直に言おう。
盗賊どもはスズ達2人の付与魔法の練習台に、もってこいだった。…実験台とも言うが。
攻撃力低下、防御力低下、速度低下、等々。
とにかく数をこなすこと、を目標として頑張っていた。
…銀竜の指導の元に、な。

ちなみに国境の街を越えてティニークァ国に入った最初の街で、総合ギルドに登録したんだが。
…テンプレなんかなかった。
そりゃそうだわな。ギルドのテンプレってようするに、役所に行ったらたまたまソコにいた見ず知らずの他人にいきなりケンカ売られた、とか。役所の…役人が個人情報をデカい声で周囲に洩らす、てな感じだよな。
現実にはあり得ないわな。
密かにワクワクしてたスズがガッカリしてた。

冷静に考えろよ。
役所でそんなことが起きるわけないだろ?

総合ギルドだぞ。
物理系と魔法系と生産系が一カ所に纏まってんだぞ。
ちょっとでもやらかしたら、どこまで大騒ぎになると思ってんだよ。
ギルド側…役所が黙ってるわけないじゃん。

もう一回言う。
ここは現実だぞ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編集】ゴム服に魅せられラバーフェチになったというの?

ジャン・幸田
大衆娯楽
ゴムで出来た衣服などに関係した人間たちの短編集。ラバーフェチなどの作品集です。フェチな作品ですので18禁とさせていただきます。 【ラバーファーマは幼馴染】 工員の「僕」は毎日仕事の行き帰りに田畑が広がるところを自転車を使っていた。ある日の事、雨が降るなかを農作業する人が異様な姿をしていた。 その人の形をしたなにかは、いわゆるゴム服を着ていた。なんでラバーフェティシズムな奴が、しかも女らしかった。「僕」がそいつと接触したことで・・・トンデモないことが始まった!彼女によって僕はゴムの世界へと引き込まれてしまうのか? それにしてもなんでそんな恰好をしているんだ? (なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

少年達はラバーに包まれ地下空間へと閉じ込められる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【第1部完結】Solomon of worth~人生2周目、清く正しくギルド職員やってます!

シノン
ファンタジー
そこそこブラック企業で、毎日仕事、仕事、仕事、寝る前にちょこっとだけゲーム! まあ大人になるってこういうことだよねと日々を生きていた俺。 ある日の休日出勤で階段から転げ落ちてきたベビーカーの赤ん坊を助けたら、死んだ。 気がつくと機械的な神様に出会い、俺がやってたゲームの世界に転生することになったんだけど……。 願ったギフトがこの世界では危険すぎるなんて、聞いてないよ!! 注意書き ① 戦闘描写などに伴い、暴力表現、流血表現など一部残酷と思われる表現があります。 ② この世界では、種族性別問わず婚姻関係を結べます。   (※某ゲームの親密度を上げるとキャラクター同士が結婚出来るよ、同姓とも出来るよ~な感じです)   年齢制限が必要な性描写はありませんが、同性、異性で恋人、夫婦関係の人物が登場します。   そういう関係の登場人物が出ることがありますというだけで、恋愛が主体の話ではないことをご了承ください。 小説家になろう様、カクヨム様に投稿してます。

恋に臆病な僕らのリスタート ~傷心を癒してくれたのはウリ専の男でした~

有村千代
BL
傷心の堅物リーマン×淫らな癒し系ウリ専。淫猥なようであたたかく切ない、救済系じれじれラブ。 <あらすじ> サラリーマンの及川隆之は、長年付き合っていた彼女に別れを告げられ傷心していた。 その手にあったのは婚約指輪で、投げやりになって川に投げ捨てるも、突如として現れた青年に拾われてしまう。 彼の優しげな言葉に乗せられ、飲みに行った先で身の上話をする隆之。しかしあろうことか眠り込んでしまい、再び意識が戻ったときに見たものは…、 「俺に全部任せてよ、気持ちよくしてあげるから」 なんと、自分の上で淫らに腰を振る青年の姿!? ウリ専・風俗店「Oasis」――ナツ。渡された名刺にはそう書いてあったのだった。 後日、隆之は立て替えてもらった料金を支払おうと店へ出向くことに。 「きっと寂しいんだよね。俺さ――ここにぽっかり穴が開いちゃった人、見過ごせないんだ」 そう口にするナツに身も心もほだされていきながら、次第に彼が抱える孤独に気づきはじめる。 ところが、あくまでも二人は客とボーイという金ありきの関係。一線を超えぬまま、互いに恋愛感情が膨らんでいき…? 【傷心の堅物リーマン×淫らな癒し系ウリ専(社会人/歳の差)】 ※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています ※全10話+番外編1話(ほぼ毎日更新) ※イチャラブ多めですが、シリアス寄りの内容です ※作者X(Twitter)【https://twitter.com/tiyo_arimura_】 ※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】 ※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】

破滅転生〜女神からの加護を受けて異世界に転生する〜

アークマ
ファンタジー
人生が詰んだような生き方をして来た阿村 江はある日金を借りに家に帰ると妹、阿村 加奈の代わりに加奈に恨みがある男に刺され死んでしまう。 次に目が覚めた時、女神と名乗る女性が現れ「あなたを異世界で私のできうる限りの最高の状態で異世界に転生させます」と言われ渋々だが第二の人生を異世界でおくることを決める。新たな世界では前のような人生ではなく最高の人生をおくろうと江は転生した世界で考えていた。

ちっちゃな王妃様に最も愛されている男

くる ひなた
ファンタジー
 記念すべき百代目のヴィンセント国王ウルには、ちっちゃくて可愛い妻がいる。  しかし、彼がこの幼馴染の愛娘マイリを娶ったのには、王国の創始に関わるのっぴきならない事情があった。  鬼畜面の守衛も、あらゆる可愛さを魔界に置いてきたような悪魔も、敵対している大司祭さえ、ちっちゃな王妃にかかればみんな「かわゆい!」  器は、元気いっぱいの愛くるしい幼女。  中身は、代々の国王に寄り添ってきた人智を超えた存在。  そのうんと大きな愛情に包まれた若き国王は、ただ一人の貴重なツッコミ担当。  この度初めて人間の器を得たマイリに振り回され、対価と称して時折首筋をガジガジされつつも、ウルは栄枯盛衰悲喜こもごも入り乱れる国々の狭間で祖国を守っていく。 ※『新しい国王と王妃のままごとのようでいて時々血腥い新婚生活』より改題  断片漫画↓ https://www.alphapolis.co.jp/manga/894098289/376569275

男達は二人きりのホールで惨めに身悶える

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...