目標:撤収

庭にハニワ

文字の大きさ
上 下
362 / 374

既に番外編じゃあない。69

しおりを挟む
王城中の人間が、なんともモヤモヤしたモノを抱えたままで一夜が明けて。

新しい1日が、始まる。

朝食時。
勇者達の使っている食堂で。
それまでどこに居たものか、3ヶ月振りに現れた真言が、王国にとってはあり得ない、認められないバクダンを投下した。

「元の世界に帰れる術を見つけてな。それなりの準備も済んでる。帰りたいヤツは、3日後の昼迄にそれなりの身辺整理なり、心の準備なりして俺のトコに申し出てくれ。ちなみに、お前ら全員この世界に残るって言っても、俺は帰る」
「待て、真言。オレも帰るって言ったじゃんか」

言いたい事だけサラッと言って、さっさとその場を後にした真言の後を、和樹が追いかけていく。
帰還か残留か、あくまで個人の希望次第、というコトらしい。
みんなで一緒に帰ろうぜー……なんて、説得する気は最初から無いようだ。



何を言われたのか、ワケが分からずに呆然とした後。
ようやく理解した勇者達は、ちょっとしたパニック状態になった。

そりゃそーだよ。
前の晩に、王国側としてはもう勇者達を元の世界に帰らせるつもりは無いって、神に暴露されたばかりで。
じわじわと不安と怒り、嘆き悲しみが押し寄せて来ていたところに、帰れるよ……って。

何それ、どーゆーコト!?

言い出しっぺはとっとと逃げてるし。
そーなると、真言と結構一緒に居たヤツに矛先は向くワケで。

「委員長~っ!?」
「佐伯のおっさん~っ!」

……とりあえず。
勇者達にとっては、担任と副担任+1は頼りにならない、と完全に切り捨てられたようだ。
何人かが、運ちゃんさー……とバス運転手加藤に話を振ろうとするが、加藤もまた。

「……ちょっと佐伯サン、どーゆーコトかね?」

と、冬至に聞きに行ってるし。



わいわいと集る勇者達に、とにかく自分達が知ってるだけの事をあらいざらい話す冬至と尚人。
ちなみに、春香と千里はしれっとした顔で、勇者達の最後尾でお茶を濁していたりする。

「……まぁ、そんなカンジだ」
「……すべての準備は既に終わっているそうです。後は、帰還希望者と共に儀式? をするだけだとか」

なんとなくぐったりしながら、勇者達との質疑応答を終えた冬至。
おっさんは、元の世界ではこーゆー若い──17・8の子供達に集団で取り囲まれて、きゃんきゃん吠えつかれるような事は無かった。
故に、ちょっと……正直、かなり精神的にクるモノがあった。
が、いろんな意味で、頑張った。
他に頼りになる大人が居ないから、しょうがないね。



ひととおり話を聞いた勇者達は。
1人考え込む者、何人かでさわさわ……と話し合いを始める者。
後は、何故真言が帰還方法を知ってるのか? と、ちょっと的外れな怒りを覚えた者も居たりする。
職能勇者の自分達が知らない事を、何でアイツが……だって、さ。

まぁ、真言が一方的に切った期限内は、勇者達は完全に使いモノにならないだろう。



勇者達に投下されたバクダンは、王城中を震撼させた。
報告を受けた王と上層部は、すべての思惑が思う通りにならない事に憤り。
暗部から上がってきた情報があやふや過ぎて使いモノにならない事に腹を立てて。
思い通りにならない勇者達──特に真言──に怒りを募らせ。
いっそのこと一思いに……と、汚れ仕事を暗部に発注するが。
暗部側から拒否された。

……もう元の世界に帰るしな? と、被っていた猫をすっぱりと脱ぎ捨てた真言が、余計なちょっかいかけてきた貴族連中を、ひと睨みで精神的に〆てるのを垣間見た暗部連中が。

あ、これムリー……敵わないー。

と、早々にナニかを諦めた模様。

元々、一部の暗部連中は真言の部屋に仕掛けられていたエンドレスなケチャにヤられて、真言に服従していたが。
真言から。

「俺の邪魔はするな。それと、こっちに協力するんなら、報酬としてエンドレスケチャの音源を仕込んだ魔法道具をくれてやる」

さりげなく上から目線で申し出られて、五体投地で了承した暗部連中だった。

ちなみに、魔法道具は真言と和樹の合作で。
これを作る際に、和樹は疑問に思っていた事を聞いた。

「真言よ~。『嘆きの森』の死霊軍団の時、スマホでエンドレス般若心経流せば良かったんじゃね?」
「あ~……」

真言は、あんまし聞かれたくなかったなー、と頭をガリガリ掻いて、言った。

「いや、あん時なー。その存在をキレイに忘れてたのと、5日以上王城から出て野外演習で出歩くワケだし、まぁ大丈夫だろ……って思ってな。……スマホの充電忘れてて、充電切れてマシタ」
「……お前、そーゆートコあるよな~……」









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編集】ゴム服に魅せられラバーフェチになったというの?

ジャン・幸田
大衆娯楽
ゴムで出来た衣服などに関係した人間たちの短編集。ラバーフェチなどの作品集です。フェチな作品ですので18禁とさせていただきます。 【ラバーファーマは幼馴染】 工員の「僕」は毎日仕事の行き帰りに田畑が広がるところを自転車を使っていた。ある日の事、雨が降るなかを農作業する人が異様な姿をしていた。 その人の形をしたなにかは、いわゆるゴム服を着ていた。なんでラバーフェティシズムな奴が、しかも女らしかった。「僕」がそいつと接触したことで・・・トンデモないことが始まった!彼女によって僕はゴムの世界へと引き込まれてしまうのか? それにしてもなんでそんな恰好をしているんだ? (なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

少年達はラバーに包まれ地下空間へと閉じ込められる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【第1部完結】Solomon of worth~人生2周目、清く正しくギルド職員やってます!

シノン
ファンタジー
そこそこブラック企業で、毎日仕事、仕事、仕事、寝る前にちょこっとだけゲーム! まあ大人になるってこういうことだよねと日々を生きていた俺。 ある日の休日出勤で階段から転げ落ちてきたベビーカーの赤ん坊を助けたら、死んだ。 気がつくと機械的な神様に出会い、俺がやってたゲームの世界に転生することになったんだけど……。 願ったギフトがこの世界では危険すぎるなんて、聞いてないよ!! 注意書き ① 戦闘描写などに伴い、暴力表現、流血表現など一部残酷と思われる表現があります。 ② この世界では、種族性別問わず婚姻関係を結べます。   (※某ゲームの親密度を上げるとキャラクター同士が結婚出来るよ、同姓とも出来るよ~な感じです)   年齢制限が必要な性描写はありませんが、同性、異性で恋人、夫婦関係の人物が登場します。   そういう関係の登場人物が出ることがありますというだけで、恋愛が主体の話ではないことをご了承ください。 小説家になろう様、カクヨム様に投稿してます。

恋に臆病な僕らのリスタート ~傷心を癒してくれたのはウリ専の男でした~

有村千代
BL
傷心の堅物リーマン×淫らな癒し系ウリ専。淫猥なようであたたかく切ない、救済系じれじれラブ。 <あらすじ> サラリーマンの及川隆之は、長年付き合っていた彼女に別れを告げられ傷心していた。 その手にあったのは婚約指輪で、投げやりになって川に投げ捨てるも、突如として現れた青年に拾われてしまう。 彼の優しげな言葉に乗せられ、飲みに行った先で身の上話をする隆之。しかしあろうことか眠り込んでしまい、再び意識が戻ったときに見たものは…、 「俺に全部任せてよ、気持ちよくしてあげるから」 なんと、自分の上で淫らに腰を振る青年の姿!? ウリ専・風俗店「Oasis」――ナツ。渡された名刺にはそう書いてあったのだった。 後日、隆之は立て替えてもらった料金を支払おうと店へ出向くことに。 「きっと寂しいんだよね。俺さ――ここにぽっかり穴が開いちゃった人、見過ごせないんだ」 そう口にするナツに身も心もほだされていきながら、次第に彼が抱える孤独に気づきはじめる。 ところが、あくまでも二人は客とボーイという金ありきの関係。一線を超えぬまま、互いに恋愛感情が膨らんでいき…? 【傷心の堅物リーマン×淫らな癒し系ウリ専(社会人/歳の差)】 ※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています ※全10話+番外編1話(ほぼ毎日更新) ※イチャラブ多めですが、シリアス寄りの内容です ※作者X(Twitter)【https://twitter.com/tiyo_arimura_】 ※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】 ※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】

破滅転生〜女神からの加護を受けて異世界に転生する〜

アークマ
ファンタジー
人生が詰んだような生き方をして来た阿村 江はある日金を借りに家に帰ると妹、阿村 加奈の代わりに加奈に恨みがある男に刺され死んでしまう。 次に目が覚めた時、女神と名乗る女性が現れ「あなたを異世界で私のできうる限りの最高の状態で異世界に転生させます」と言われ渋々だが第二の人生を異世界でおくることを決める。新たな世界では前のような人生ではなく最高の人生をおくろうと江は転生した世界で考えていた。

ちっちゃな王妃様に最も愛されている男

くる ひなた
ファンタジー
 記念すべき百代目のヴィンセント国王ウルには、ちっちゃくて可愛い妻がいる。  しかし、彼がこの幼馴染の愛娘マイリを娶ったのには、王国の創始に関わるのっぴきならない事情があった。  鬼畜面の守衛も、あらゆる可愛さを魔界に置いてきたような悪魔も、敵対している大司祭さえ、ちっちゃな王妃にかかればみんな「かわゆい!」  器は、元気いっぱいの愛くるしい幼女。  中身は、代々の国王に寄り添ってきた人智を超えた存在。  そのうんと大きな愛情に包まれた若き国王は、ただ一人の貴重なツッコミ担当。  この度初めて人間の器を得たマイリに振り回され、対価と称して時折首筋をガジガジされつつも、ウルは栄枯盛衰悲喜こもごも入り乱れる国々の狭間で祖国を守っていく。 ※『新しい国王と王妃のままごとのようでいて時々血腥い新婚生活』より改題  断片漫画↓ https://www.alphapolis.co.jp/manga/894098289/376569275

男達は二人きりのホールで惨めに身悶える

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...