目標:撤収

庭にハニワ

文字の大きさ
上 下
292 / 374

組んでみた、らしい。

しおりを挟む
「サメの肝、5匹分な」

肩に、尻尾が2本ある猫を乗せた青年が、ギルドに依頼された品物を納品しに来た。

ここは、マドゥーニーギルド。
海沿いの町にあるギルドである。
最近、クラーケンが討伐された関係なのか、大量の真珠の産地と認識された町でもある。

本日の受付担当、キツネの獣人──コウにおキツネ様と呼ばれていた──は、納品書に依頼完了の印を押して、青年に質問した。

「肝以外の素材──サメ肉とか皮とかは、どうしました?」
「にゃ。身は美味しくいただいたのにゃ」

青年の肩にいた猫又は、ぐるぐると喉を鳴らしている。
実に満足そうだ。

えー……。
サメ5匹分のサメ肉、全部食べちゃったっていうワケ?

おキツネ様は、内心冷や汗が滝のように流れ落ちている。

いや、だってさ?
人の肩にちんまり乗っかる大きさの猫が、この大きさの肝を胎内に持ってたサメを、5匹分ペロッといったって……。
どんだけ食うんだ、この猫……。

無いわー……という目で猫又を見るおキツネ様。
その視線に気付いたのか、猫又は慌てたように言いつのる。

「にゃ! あたしが一匹で、サメ5匹も食ったと思ってるにゃ? さすがにそれは無いにゃ。友達連中と一緒に、ちょっとサメ肉パーティーしただけにゃ!」
「……踊り食いって、あーゆーの言うのかな……。狂喜乱舞する猫達が……」

青年の──ジェイドの目は、どこか遠くを見ていた……。



しばし沈黙……。

は、と我に返ったおキツネ様は。

「……そう、サメ肉以外の素材ですよ。皮とか歯とか、あと骨とか……」

皮や歯はともかく、骨なんか何に使うのか……。
まぁ、素材として欲しいって人がいるんならいいか。

ジェイドは、詳しく考えるのを止めた。

「サメ皮とかなら銀竜さんが、まとめて預かっててくれてる……って、あれ? 銀竜さんは?」

ジェイドはキョロキョロと周囲を見渡して、解体場の方から戻ってくる銀竜を見つけて。

「銀竜さん!」
「にゃ!」

銀竜の元に飛んで行った。
あまりに急な動きに、猫又がツメを立ててジェイドの肩にしがみついてるぞ。
お前……虎種じゃなかったのか。
その行動は、飼い主になついたワンコだ。

「……獣化してないのに、ブンブン振り回す尻尾が見えるようだ……」

おキツネ様は、なんとなく生温かくジェイドを見送った。



報酬はちゃんと貰うように。
銀竜に窘められたジェイドは、わたわたと受付にやってきて。

「ごめん、サメの肝の報酬……」
「あいよ」

おキツネ様は、ちょっと頼りないお子様を見る目でジェイドに報酬を渡すと。
後方で見守る姿勢に入っている銀竜に、視線を向けた。

コウ達が国に帰っても、銀竜がここに居ることで、また彼らが戻ってきてくれるのでは……。
と、儚い望みを持つ者が多いのは、ここマドゥーニーギルドだけではない。
ガランギルドでも、いまだに彼らが再びやって来るのを待ちわびているらしい。
コウ達と一度接触しただけのラクナギルドも。

銀竜によると、彼らの故郷は遠く、遥か遠くにあるらしい。
故に、再び彼らに会えるかどうかは運次第、というところらしいが。



この人も、謎な人ではあるんだよな~……。

おキツネ様は、颯爽とギルドを後にする銀竜を見送った。
ジェイドが仔犬のように、その後を追っていく。

……やっぱりワンコ系?
虎って、猫科だよね?
あれ?

首を傾げて2人を見送ると、ジェイドの肩に乗っていた猫又が顔だけ振り向いて、にやり、と笑った。

猫のにやにや……ある意味レア……。

ちょっと得した気分になったおキツネ様だった。



銀竜と、猫又連れのジェイドが去ったギルドでは、さまざまな企みが渦巻いていた。

「……あの子達はもう居ないけど……銀竜さんは残ってくれたのね。……相変わらず良い男……」
「アイツらならば、勧誘しても良いか?」
「んー、銀竜さんの、あの腕は捨てがたい」
「あの若いのは使えるのか?」
「猫又かわいい」

……なんか視点が違うのもいるが。

優良物件2人+α。
本人達の預かり知らぬところで、争奪戦がこっそりと幕を開けていた。
中には。

「嫁と子供が居てもかまわない!」

という、銀竜の愛人希望もいたりする。
……銀竜は、のらりくらりとかわしているが。

ジェイドも、色恋方面で狙われているぞ。
猫又母よ。
息子の嫁チェック、がんばれー。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編集】ゴム服に魅せられラバーフェチになったというの?

ジャン・幸田
大衆娯楽
ゴムで出来た衣服などに関係した人間たちの短編集。ラバーフェチなどの作品集です。フェチな作品ですので18禁とさせていただきます。 【ラバーファーマは幼馴染】 工員の「僕」は毎日仕事の行き帰りに田畑が広がるところを自転車を使っていた。ある日の事、雨が降るなかを農作業する人が異様な姿をしていた。 その人の形をしたなにかは、いわゆるゴム服を着ていた。なんでラバーフェティシズムな奴が、しかも女らしかった。「僕」がそいつと接触したことで・・・トンデモないことが始まった!彼女によって僕はゴムの世界へと引き込まれてしまうのか? それにしてもなんでそんな恰好をしているんだ? (なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

少年達はラバーに包まれ地下空間へと閉じ込められる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【第1部完結】Solomon of worth~人生2周目、清く正しくギルド職員やってます!

シノン
ファンタジー
そこそこブラック企業で、毎日仕事、仕事、仕事、寝る前にちょこっとだけゲーム! まあ大人になるってこういうことだよねと日々を生きていた俺。 ある日の休日出勤で階段から転げ落ちてきたベビーカーの赤ん坊を助けたら、死んだ。 気がつくと機械的な神様に出会い、俺がやってたゲームの世界に転生することになったんだけど……。 願ったギフトがこの世界では危険すぎるなんて、聞いてないよ!! 注意書き ① 戦闘描写などに伴い、暴力表現、流血表現など一部残酷と思われる表現があります。 ② この世界では、種族性別問わず婚姻関係を結べます。   (※某ゲームの親密度を上げるとキャラクター同士が結婚出来るよ、同姓とも出来るよ~な感じです)   年齢制限が必要な性描写はありませんが、同性、異性で恋人、夫婦関係の人物が登場します。   そういう関係の登場人物が出ることがありますというだけで、恋愛が主体の話ではないことをご了承ください。 小説家になろう様、カクヨム様に投稿してます。

恋に臆病な僕らのリスタート ~傷心を癒してくれたのはウリ専の男でした~

有村千代
BL
傷心の堅物リーマン×淫らな癒し系ウリ専。淫猥なようであたたかく切ない、救済系じれじれラブ。 <あらすじ> サラリーマンの及川隆之は、長年付き合っていた彼女に別れを告げられ傷心していた。 その手にあったのは婚約指輪で、投げやりになって川に投げ捨てるも、突如として現れた青年に拾われてしまう。 彼の優しげな言葉に乗せられ、飲みに行った先で身の上話をする隆之。しかしあろうことか眠り込んでしまい、再び意識が戻ったときに見たものは…、 「俺に全部任せてよ、気持ちよくしてあげるから」 なんと、自分の上で淫らに腰を振る青年の姿!? ウリ専・風俗店「Oasis」――ナツ。渡された名刺にはそう書いてあったのだった。 後日、隆之は立て替えてもらった料金を支払おうと店へ出向くことに。 「きっと寂しいんだよね。俺さ――ここにぽっかり穴が開いちゃった人、見過ごせないんだ」 そう口にするナツに身も心もほだされていきながら、次第に彼が抱える孤独に気づきはじめる。 ところが、あくまでも二人は客とボーイという金ありきの関係。一線を超えぬまま、互いに恋愛感情が膨らんでいき…? 【傷心の堅物リーマン×淫らな癒し系ウリ専(社会人/歳の差)】 ※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています ※全10話+番外編1話(ほぼ毎日更新) ※イチャラブ多めですが、シリアス寄りの内容です ※作者X(Twitter)【https://twitter.com/tiyo_arimura_】 ※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】 ※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】

破滅転生〜女神からの加護を受けて異世界に転生する〜

アークマ
ファンタジー
人生が詰んだような生き方をして来た阿村 江はある日金を借りに家に帰ると妹、阿村 加奈の代わりに加奈に恨みがある男に刺され死んでしまう。 次に目が覚めた時、女神と名乗る女性が現れ「あなたを異世界で私のできうる限りの最高の状態で異世界に転生させます」と言われ渋々だが第二の人生を異世界でおくることを決める。新たな世界では前のような人生ではなく最高の人生をおくろうと江は転生した世界で考えていた。

ちっちゃな王妃様に最も愛されている男

くる ひなた
ファンタジー
 記念すべき百代目のヴィンセント国王ウルには、ちっちゃくて可愛い妻がいる。  しかし、彼がこの幼馴染の愛娘マイリを娶ったのには、王国の創始に関わるのっぴきならない事情があった。  鬼畜面の守衛も、あらゆる可愛さを魔界に置いてきたような悪魔も、敵対している大司祭さえ、ちっちゃな王妃にかかればみんな「かわゆい!」  器は、元気いっぱいの愛くるしい幼女。  中身は、代々の国王に寄り添ってきた人智を超えた存在。  そのうんと大きな愛情に包まれた若き国王は、ただ一人の貴重なツッコミ担当。  この度初めて人間の器を得たマイリに振り回され、対価と称して時折首筋をガジガジされつつも、ウルは栄枯盛衰悲喜こもごも入り乱れる国々の狭間で祖国を守っていく。 ※『新しい国王と王妃のままごとのようでいて時々血腥い新婚生活』より改題  断片漫画↓ https://www.alphapolis.co.jp/manga/894098289/376569275

男達は二人きりのホールで惨めに身悶える

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...