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第四章
第十二話〜スタイル〜
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帰路につき、森の中、道無き道を突っ切る。途中はまるで動物のように、枝から枝へと跳んでいた。
吹き抜ける風。赤に染まる葉の間を通ってくる日光。日の出の、今日一番の光だ。この日の最初の光を浴びるのはちょっとした優越感がある。自然を謳歌する趣味のあるレナには、ご褒美に等しいものだ。
森を抜ければ、街に出る。そこはもう。全力疾走。人のいない道を瞬時に判断し、ルートを構成していく。
″家″に着けば、まだ窓のカーテンが開けられていない。静かに入り、服を部屋着に着替える。こうすれば、出かける格好をしていないので、詮索されることはないだろう。最近、やけに二人が敏感なので、仕事を限定される。心配をかけると、とてつもなく言葉のマシンガンを浴びせられるので、それは避けたい。
「よし。さてと、グリムを呼ぶか」
鏡の前で髪を一本に結わえ、グリムに連絡を入れるため振り返った。だが、その必要はなかった。
「呼んだかい?」
声がした。まるで、分かっていたような口ぶりだ。
その方を向けば、出窓となっている床板でしゃがむ男が。それも、いつもどおりの不気味な格好。見る人によれば紳士的な格好にも見えるだろう。にこっ、と心の底であるわけがない笑みを浮かべ、よいしょと入ってくる。
「呼んだは呼んだ。けど待て」
それ以上の接近は許すまいと、手で制する。
一方でグリムは何を言われるのか待っていた。検討がつかないらしい。
こちらは心の底から嫌な顔をして、ただただ用件を済ませた。
「靴で入ってくんなっ」
レナにしては大声を出す。
おや、とそこで自覚したのかグリムは自分の足元をみた。ちらとレナをみると、潔癖なのか、殺気立った様子で短刀に手をかけている。
「あぁ、大丈夫だよ。これは新品だから」
「紛らわしい」
普通に玄関から入ってくればいいものの、なぜこうも直通で来てしまうのだろうか。以前も靴で入ってきてたが、こうなると常習犯になりかねない。
「靴の方が臨機応変に対応できるだろう? 例えば今とかね」
そう言って、グリムはドアの方を指さす。
その意図を理解したレナは心底溜息をつき、机の横にかけたレッグホルスターを太ももにつける。
手馴れた動作で、元々レッグホルスターに入っていたハンドガンを手にし、ドアに銃口を向けた。
その直後、まるで打ち合わせをしたかのように飛び出す人影。その人物を認識するよりも早く、引き金を引く。
サイレンサー付きのハンドガンは、空気の抜けるような音を出しながらも、弾丸を人影――男の額へめり込ませた。
威力が弱いながらも、確実に命を刈り取る。ただ、辺りは血だらけで、どうにも戦場を彷彿とさせてしまう。話し合いは別のところの方がよさそうだ。
「靴関係ない」
「それぐらいいいだろう。それより、ずっとマガジンに弾こめてたのかい? だめだろう、弾は抜かなきゃ」
「グリムが来るかと思ってさっきこめたばっかだから平気」
「君が僕相手に銃とは珍しいね。近距離派だろうに」
淡々と、一般人では血相をかけるほどの場面に居合わせながらも、顔色一つ変えず、何気なく会話は続く。闇の世界に浸りきっている証拠だろう。
「遠くから撃てるのはお得。返り血少ないし」
「でもズレたら終了でしょ」
「ズレるわけない。そう簡単にズラすものですか」
ふふん、と自信ありげにレナは言う。少し煽り気味に言ったグリムだったが、頼もしい返答に微笑みながらベッドに腰掛ける。
グリムにまだ人間性が残っていたのだろう。成長を喜ぶような喜色を目に浮かべていた。これは本心からだと、これまでの偽りの目と比べてわかる。
この本性を見破った一瞬は、レナにとって観察眼を鍛えられたと実感できることであった。
吹き抜ける風。赤に染まる葉の間を通ってくる日光。日の出の、今日一番の光だ。この日の最初の光を浴びるのはちょっとした優越感がある。自然を謳歌する趣味のあるレナには、ご褒美に等しいものだ。
森を抜ければ、街に出る。そこはもう。全力疾走。人のいない道を瞬時に判断し、ルートを構成していく。
″家″に着けば、まだ窓のカーテンが開けられていない。静かに入り、服を部屋着に着替える。こうすれば、出かける格好をしていないので、詮索されることはないだろう。最近、やけに二人が敏感なので、仕事を限定される。心配をかけると、とてつもなく言葉のマシンガンを浴びせられるので、それは避けたい。
「よし。さてと、グリムを呼ぶか」
鏡の前で髪を一本に結わえ、グリムに連絡を入れるため振り返った。だが、その必要はなかった。
「呼んだかい?」
声がした。まるで、分かっていたような口ぶりだ。
その方を向けば、出窓となっている床板でしゃがむ男が。それも、いつもどおりの不気味な格好。見る人によれば紳士的な格好にも見えるだろう。にこっ、と心の底であるわけがない笑みを浮かべ、よいしょと入ってくる。
「呼んだは呼んだ。けど待て」
それ以上の接近は許すまいと、手で制する。
一方でグリムは何を言われるのか待っていた。検討がつかないらしい。
こちらは心の底から嫌な顔をして、ただただ用件を済ませた。
「靴で入ってくんなっ」
レナにしては大声を出す。
おや、とそこで自覚したのかグリムは自分の足元をみた。ちらとレナをみると、潔癖なのか、殺気立った様子で短刀に手をかけている。
「あぁ、大丈夫だよ。これは新品だから」
「紛らわしい」
普通に玄関から入ってくればいいものの、なぜこうも直通で来てしまうのだろうか。以前も靴で入ってきてたが、こうなると常習犯になりかねない。
「靴の方が臨機応変に対応できるだろう? 例えば今とかね」
そう言って、グリムはドアの方を指さす。
その意図を理解したレナは心底溜息をつき、机の横にかけたレッグホルスターを太ももにつける。
手馴れた動作で、元々レッグホルスターに入っていたハンドガンを手にし、ドアに銃口を向けた。
その直後、まるで打ち合わせをしたかのように飛び出す人影。その人物を認識するよりも早く、引き金を引く。
サイレンサー付きのハンドガンは、空気の抜けるような音を出しながらも、弾丸を人影――男の額へめり込ませた。
威力が弱いながらも、確実に命を刈り取る。ただ、辺りは血だらけで、どうにも戦場を彷彿とさせてしまう。話し合いは別のところの方がよさそうだ。
「靴関係ない」
「それぐらいいいだろう。それより、ずっとマガジンに弾こめてたのかい? だめだろう、弾は抜かなきゃ」
「グリムが来るかと思ってさっきこめたばっかだから平気」
「君が僕相手に銃とは珍しいね。近距離派だろうに」
淡々と、一般人では血相をかけるほどの場面に居合わせながらも、顔色一つ変えず、何気なく会話は続く。闇の世界に浸りきっている証拠だろう。
「遠くから撃てるのはお得。返り血少ないし」
「でもズレたら終了でしょ」
「ズレるわけない。そう簡単にズラすものですか」
ふふん、と自信ありげにレナは言う。少し煽り気味に言ったグリムだったが、頼もしい返答に微笑みながらベッドに腰掛ける。
グリムにまだ人間性が残っていたのだろう。成長を喜ぶような喜色を目に浮かべていた。これは本心からだと、これまでの偽りの目と比べてわかる。
この本性を見破った一瞬は、レナにとって観察眼を鍛えられたと実感できることであった。
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