モーハ

飛雪

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第1章 重力波

アラン

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 アランは波動の研究者で第1級の専門家だ。コプリスタルの表面の顕微鏡写真を見ると、すぐに重力波の干渉がこの惑星の物質に影響し、結晶表面の分子がこのような複雑な構造に変形した。それで、表面を擦ると振動が発生し、その振動が、空間を振動させるのだということを見抜いた。
 空間の振動が、なぜ物体を転移させるのかについて、そしてあそこに行きたいと思う思考によって転移先が決定することについては、「わからない」ということだった。
 また、これまでの重力波検出装置の精度が悪かった点については、地上に設置していたからだと、持論を展開した。おじさん、ミーナ、私の4人は、その方面に詳しくないので納得するしかなかった。
 で、星系ライブラリーに依頼して星系間空間に重力波測定装置を設置し、観測精度を上げるためのアランの発案による装置を追加した。それにより、測定精度が格段に向上した。15桁どころでなかった。
 それにより、転移による移動距離はコプリスタルの大きさに従うのではなく、転移させる物体の質量に依存することがわかった。我々の人体ぐらいの質量だと、小指ぐらいの結晶で充分であることがわかった。
 また、コプリスタルを布で振動させなくても電磁波で振動させても転移が可能になることもわかった。
 次に、転移先の指定方法も、思考に寄らなくても可能であることがわかって来た。そして多数の試行錯誤の後に加える電磁波の周波数と振幅を微妙に調整することで可能になった。初めは宇宙空間の3次元座標を指定することで転移先を指定することを目指したが、調整が難しくてその考えは放棄し、現在地からの相対座標で指定する方式に変更した。
 最後になぜ転移できるのか、という問題だが、これは、われわれ4人の力では及ばなかった。アランが、彼なら解決できるかも知れないと言ったのがバージェスという理論物理学者だ。
 またライブラリーの力を借り、仕事を依頼すると、二つ返事で了承してくれた。2週間後に来てくれるという。
 その夜、ミーナと二人で、アランといい、バージェスといい、皆そんなに暇なのだろうか、という話をした。ミーナはライブラリーのおかげだろうと言っていた。
 ライブラリーにはいろんな情報が記録されていた。知っていたということ。大事なのはそれをどうやって教えてもらうかだ。別の言い方をすると検索の方法だ。多年の経験からと言うか、ライブラリーの検索技術も進化向上していて、かなり曖昧にきいてもちゃんと答えてくれる。
「こんなことが、いつ起こったんだろう」のような質問も「ここの恒星系に、コプリスタルの表面の構造を変化させるような重力波はいつ来た?」と推論し「そんな重力波を発生させるような中性子星やブラックホールの連星系は近くにないか?」や、「結晶の風化具合からいつ頃起こったか推測できないか?」というような聞き方に変換してちゃんと答えてくれる。ただ、この質問の答えは「わかりません。」たが。わからなかったら知りたいでしよ?がミーナの主張の基礎だ。
 私は遺伝子革命で、人類が長命化して、興味を持てる内容が減って来たからだろうと言ったがミーナはなかなか納得しなかった。
 この問題は翌日まで持ち越し、ついにおじさんの耳まで届いた。おじさんは私の説を支持してくれた。

 2週間後にバージェスが到着して仲間に入ったが、まず、大昔からある多元宇宙論の話をしてくれた。おじさんは知っていたようだったが、私やミーナは初めて聞く話だった。
 その線から考えると、重力波の干渉が、この宇宙の空間を引き裂き隣の宇宙との間に穴を開ける。その穴に落ちるわけだ。隣の宇宙に行ったこの宇宙の物質は隣の宇宙の中を光速で移動し、この宇宙に戻ってくる。それが、この宇宙から一瞬で消え、別の場所で一瞬で現れる現象ではないか、それを転移と捉えたのではないかという話だった。ジャンプと言ってもいいんじゃないかとも言っていた。
 バージェスは翌日から自分の理論を確かめる装置を組み立て始めさっそく実験に取り掛かった。
 近くに実験棟も建設し、私達はそこへ移動して研究と実験、観測を繰り返した。
 しばらくすると、転移ジャンプの理論的な確かさを確立することができた。
で、おじさんは皆を集めて今後どうするかを話し合うことにした。皆それを了承して集まって来た。
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