少女が過去を取り戻すまで

tiroro

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後日談

66:悠太郎との約束

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 吉田さんと友達になって一週間ほど経った頃。


「そろそろ、お互い下の名前で呼び合ったらどうだ?」

 悠太郎に言われて気付いた。
 私、せっかく吉田さんと友達になったのに、ずっと吉田さんのこと“吉田さん”って呼び続けてた。
 心の中でとはいえ、“吉田さん”って言い過ぎて“吉田さん”がゲシュタルト崩壊しそう。

「そうだよね……私達みんな、名前で呼びあってるのに、吉田さんだけずっと“吉田さん”のままじゃ他人行儀な感じになっちゃうよね……。
 いきなりそう呼んでも吉田さんが嫌がるかもしれないから、一応、本人にも聞いてみるけど」

 帰りにうちに寄った悠太郎は、またしても晩御飯をうちで食べていた。
 今日は肉じゃがです。

「OK出たら、悠太郎も、吉田さんのこと恵利佳って呼ぶ?」

「いや、俺は……友達にならないって意味じゃないけど、ちょっとそう呼ぶのは抵抗あるな……」

「なんでさ」

「だって、お前の前で吉田のことそう呼ぶのって、なんか変じゃないか?」

「二人とも、食べるかおしゃべりするか、どっちかにしなさい」

「「はーい……」」

 お母さんに叱られちゃったので、話の続きはまた後で。
 それにしても、なんで私の前で吉田さんを恵利佳って呼ぶのが変なんだろう?


*****


 今日もお母さんの料理は最高だった。

 私も肉じゃがに挑戦したことはあるんだけど、甘くなりすぎちゃって、お父さんが何とも言えない顔で食べてたのを覚えている。
 簡単そうに見えて、意外と難しい肉じゃが。

 お皿を片付けて、テーブルも拭いたので、私と悠太郎のお仕事は終わり。
 リビングで寛いでいるお母さんのところへ。

「「お母さん、ごめんなさい」」

 二人して謝る。

「わかればよろしい。二人とも、いつもお片付けありがとね。
 悠太郎君も、すっかりうちの子ね」

「その場合は、俺が兄ということでしょうか?」

 わけのわからんことを言う悠太郎。

「悠太郎君って、何月生まれ?」

「7月です」

「じゃあ、玲美よりお兄さんだね。あの子、10月だから」

 悠太郎が彼氏兼お兄ちゃんになってしまった。


「そうだ、さっきの話の続きだけど……なんだっけ?」

「俺が吉田のことを恵利佳って呼ぶかどうかって話だろ?」

「そうそう、何で私の前で呼ぶと変なの?」

「言われてみれば、別に変ではないか……由美のことも呼び捨てだしな」

「でしょ?」

「でも、彼女の前で吉田のことを名前呼びするのもな……」

「……いま、玲美のことを彼女と言った?」

 お母さんが食いついた。
 そういえば、まだ言ってなかったっけ?

「悠太郎、私の彼氏になった」

「この、おマセさん共め!」

 なぜか、お母さんからくすぐり攻撃される。

「キャハハハッ! やーめーてー! 悠太郎にも攻撃しろよ!」

「悠太郎君にそんなことしたら、お母さんがセクハラで訴えられるでしょ」

「面白いお母さんだな」

 あいつ、安全な場所から高みの見物しやがって。 

「こんな子でよければ、これからも仲良くしてあげてね」

「あ、はい」

 こんな子って酷くない?

「まあ、吉田のことはその時になったら考える。それより、明日って何か用事あるか?」

「明日? 特に何もないけど」

「デート……行かないか?
 吉田の件も一応解決したんだし、恋人らしいことはそれからって約束だったろう?」

「そういえば、そうだったね。
 デートなんかしたことないから、どうしたらいいのかわからんけど」

「悠太郎君。そういうことなら、明日はちゃんと可愛い格好させるから、お母さんに任せておきなさい」

「さすがです、お母さん」

 母が娘のデートに介入してくる。

「俺から言っておいてなんだけど、デートと言ってもどこに行こうかな……。
 小学生二人で行けるところなんて、限られてくるし……」

「牧場なんてどうかしら? 動物園や遊園地だと広いから、小学生二人だけで行かせるのは心配だけど、牧場ならお行儀良くしていれば大丈夫でしょう」

「牧場か……この辺に、ありましたっけ?」

「大丈夫。お母さんが連れてってあげるし、帰りも電話をくれたら迎えに行ってあげるから」

 母が娘のデートに介入してくる。
 
「じゃあ、初デートは牧場で決まりだな。何時からにしようか」

「お昼くらいからしか空いてないから、うちでお昼を食べてから行きなさいな」

「何から何まですみません。今日も晩御飯いただいたのに」

 母の介入が半端ない。

「お節介かもしれないけど、二人とも、まだ小学生だからね。
 心配する親心もわかってくれると嬉しいな。あんなことあったばかりだし……」

 それを言われたら何も言えません。

「でもさ、お昼だとお父さんもいるし、悠太郎もきまずいんじゃない?」

「少し緊張するけど、優しそうな人だったし、大丈夫だと思う」

「悠太郎君の言う通り、うちの人は優しい人だから大丈夫。
 小学生同士のお付き合いなら、温かい目で見てくれるでしょ」

 お母さんがそう言うならいいか。
 お父さんは、お母さんに弱いみたいだし。

 とりあえず、明日の予定も決まったことだし、今日は早めに寝ようかな。


*****


「明日はいよいよ玲美と初デートか……」

「お母さんが出しゃばりでごめんね」

「とんでもない。
 吉田の件では親達に心配掛けちゃったからな。
 これでも、かなり譲歩してくれてるんだと思うぞ」

「そうだよね……」

 あの事件からまだそんなに経ってないんだし、心配するのも無理はないか。

「それにしても、ほんといいお母さんだよな」

「悠太郎のお母さんもね。働きながら子育てってすごいと思うよ」

「今晩寝れるかな……楽しみ過ぎて寝れなさそうな気がする」

「遠足じゃないんだから……」


「……じゃあ、帰る。おやすみ」

「おやすみなさい。気を付けてね」

 そう言っておきながら、私も緊張して、なかなか寝付けないような気がするんだよね。
 友達と遊びに行くのとは、やっぱりちょっと違うんだよね……たぶん。


 それから部屋に戻ると、お母さんによる明日の服選び地獄が待っていた。
 デートって、思ってたよりも大変なんだな……。

 疲れちゃって、ぐっすりと朝まで寝れました。
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