少女が過去を取り戻すまで

tiroro

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本編

12:伊藤ファンクラブ

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 最近女子の間で伊藤ファンクラブとかいうのが流行ってる。
 伊藤ファンクラブっていうのは、転校生の伊藤くんのファンクラブのことね。

 たしかにイケメンだとは思うけど、同じクラスの男子のファンクラブを作るってどうよ。

 伊藤ファンクラブは、うちのクラスの佐島さんが会長として布教活動をしている。
 そして、その勢いはこのクラスだけに留まらず、学年全体に広がりつつあるのだとか。
 みんな、伊藤くんのこと、アイドルか何かと勘違いしてんじゃないの?


「伊藤くん、すごい人気だよね」

「ねー。わたしは伊藤くんよりも、由美ちゃんのファンクラブに入りたいんだけど」

「もう入ってる」

「やったー」

 由美ちゃんのファンクラブに公認で入れた。
 これで、わたしがファン一号だ。

「玲美ちゃんは、ああいうカッコいい子は好き?」

「好きも何も、ただの同じクラスの男の子じゃん」

「興味なさそうだね」

「わりとどうでもいいかなー。由美ちゃんはどうなの?」

「わたしも、ファンクラブには興味ないかな」

 やっぱそうだよね。
 あれがS〇APとか、本物のアイドルっていうなら話は変わってくるけど、ただの一般人だし。

 そもそも伊藤くんがどういう性格かもわかんないのに、顔だけじゃ好きになれません。
 あと、なんとなくイケメンはキザなイメージがあるので、どっちかというと嫌いなほうかも。


*****


 20分休みになって、今日も由美ちゃんの逆上がりの練習に付き合っている。

 足が上がりかけて落ちちゃうところを、わたしが足を持って少し補助してみたら回れた。
 あと少しって感じなんだけど……もしかして、上への勢いがたりてないのかな?

「たぶん、由美ちゃんは前に蹴り上げてる気がする。
 次は、足を高くジャンプするみたいに上に向かって蹴り上げてみて」

「そっか……なんとなくわかったかも!」

 そこから練習すること数回。
 ついに、由美ちゃんは逆上がりに成功した。

「やった! やったよ、玲美ちゃん!」

「やったね! きれいに回ってたよ!」

 由美ちゃんは、がんばり屋さん。
 できないことを諦めたくなくて、ついに逆上がりができるようになった。

 すごいな、由美ちゃんは。
 泳げなくてプール嫌いって言ってるわたしも、そんな由美ちゃんを見習わないとね。


 鉄棒の上に座ると、お尻がひんやりして気持ちいい。

 男子達は今日もドッジボールやってるね。
 うちのクラスは、周りにファンクラブの会員達がいるからすぐにわかるよ。

「玲美ちゃん……」

「ん?」

「それ、どうやったの?」

「座っただけ」

 なんか変なことやった?
 結構みんなやってると思うけど。

 ……よいしょっと。

「それ……なんなの!?」

「スカート回り」

 なんか由美ちゃんがプルプル震えてる。
 そして、さっそく真似しようとしてる。

「できないよ……それも教えて! お願い!」

「えー……」

 わたしが余計なことをやってしまったばかりに、由美ちゃんの鉄棒レッスンはまだまだ続く。


*****


 学校が終わって、伊藤くんが帰ろうとすると、それについていくファンクラブ会員達。
 これってもう、そこらのアイドルの域を超えてるような気がする。

 それを見たクラスの男子達がグチグチと何かをつぶやいている。
 まあ、伊藤くんだけがあんなにモテてるのを見ていい気はしないよな。

 そんな中、西田は何とも思ってないみたいで、モテモテな伊藤くんを見ても平然としていた。
 死ねーとか言ってたし、あいつが一番伊藤くんを嫌ってるかと思ってたら、そうでもないのか。

 気がついたら、クラスに残ってる女子は由美ちゃんとわたしだけになっていた。
 ファンクラブに入ってない子達も、なんだかんだで伊藤くんを追いかけてるっぽい。

「お前らは伊藤についていかないんだな」

 残ってるわたし達を見て不思議に思ったのか、西田の方から話しかけてきた。

「別に、ファンでもなんでもないし」

「伊藤くんのこと、嫌いってわけじゃないんだけどね」

 わたしは、あまり好きじゃないけど。

「日高はそうじゃないって顔してるな」

「顔に出てた?」

「露骨にな。まあ、ああいうやつが嫌いってやつもいるんだろうけど、そんなに嫌わないでやってくれ」

「西田は伊藤くん好きなの?」

「まあな。話してみたら意外といいやつだったんだ。
 お前ら……一応言っておくが、好きってそういう好きじゃないぞ」

 一瞬、男のファンクラブ会員が誕生したかと思った。

「最近、よく一緒に遊んでるんだ。
 ファンクラブなんかできたせいで、おれ以外の奴からは嫌われちゃってるっぽいんだよな、あいつ。
 あと、日高からもか……なんで嫌ってんだお前は」

「んー……嫌いっていうか、なんていうんだろ……いけ好かないってやつ?」

「クラスの男達の感想だ、それは……」

「玲美ちゃんおもしろーい」

 由美ちゃんに面白がられてるし。

 でも、なんか意外……伊藤くんが西田と仲良くなってたなんて。

 あと、西田がこんなに理知的にしゃべれるやつって思ってなかったから、そっちの方が驚いたわ。
 もっとこう、ゴリラみたいなやつって思ってたから。

「お前、またなんか失礼なこと考えてるだろ……」

「なんでわかった」

「顔に出てるよ、玲美ちゃん」

 そんなに顔に出てるのか、わたし。
 ゴリラみたいな顔しちゃってた?ウホウホしてた?

 由美ちゃんが笑ってるので、まあいいか。

「さて、おれも帰るか。今日もこれから、あいつと遊ぶ約束してるんだ」

「そっか。じゃあわたし達も帰るよ。
 遊ぶ時はファンクラブ会員達に気を付けてね」




 帰る時、女子達に囲まれてる伊藤くんを発見した。
 あんまり嬉しそうな顔はしてないし、毎日あんなんじゃ大変そうだ。

 そう思って見ていたら、伊藤くんと目が合った。
 なぜかニコッとされたけど、そんなんするから勘違いされるんだぞ。
 
 話してみたらいいやつね……とりあえず、もういけ好かないとか言うのはやめとこ。
 勝手に嫌っちゃっててごめんね、伊藤くん。
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