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第33話 思念移行その1
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手始めに姫野柚希は天満夜戯乃と出会った入学式後の夜へ、現在の記憶を移行することにした。
そこで彼女は未来で起こる重大な出来事をメモに記したのだ。
メモを書き終えた彼女がコクリと首を傾ければ、薄れゆく意識の中、柚希の意識は現在のものへと切り替わっていく。
自身が机の前に座っていることに違和感を覚えた柚希は、すぐに部屋の時計に目を向け、現在の時刻を確認する。
「……」
そこで十五分間の空白の時間に気が付いた。
「これは」
次いで机に置かれたメモを手に取り、それを確認する。
『今から一年後の未来で、天満夜戯乃は死ぬ。それらを防ぐ方法をここに記す』
メモを目にした柚希は、未来の自分が『思念移行』を発動させたことを瞬時に理解した。
そして再びメモに視線を走らせる。
一つ、敵はどこかのタイミングで天満夜戯乃と接触するだろう。
その際、天満夜戯乃の思考を覗き見ることが可能な能力を発動する。
このことがきっかけとなり、私たちの情報は相手側の魔法少女に筒抜けになってしまう。
「天満夜戯乃……だれ?」
名前の人物に心当たりはなかったが、柚希はメモを読み進めることにした。
魔法少女の戦いにおいて情報が絶対的なアドバンテージになることをあなたも理解しているはず。
ならばあなたはきっとこう考えるでしょう。
天満夜戯乃に伝えなければいいと。
しかしそれも不可能。
なぜなら現在のあなたは知らないかも知れないけど、これから出会う天満夜戯乃は私たちが探し続けたスポットなのだ。
「スポットが同じ学校にいたの!?」
驚嘆する柚希は口許を押さえながら、さらにメモを読み進めていく。
あなたなら理解しているとは思うけれど、彼と関わりを断つことは不可能であり、親しくなれば必ず能力のことを知られてしまう。
仮にそれが知られなかったとしても、天満夜戯乃を人質に取られれば私と可憐にはどうすることもできない。
事実、私たちにはどうすることもできなかった。
敵は用心深く、私たちのすべてを知ったあと、弱味に漬け込むようにやって来る。
それを回避する方法をここに記すとする。
「方法があるのね」
まず第一に、天満夜戯乃と付き合いなさい。
「な、なによこれはっ!?」
がんっ!
思わず立ち上がってしまった柚希の顔は、動揺からか少し赤みが差していた。
「どうして私が知りもしない人と付き合わなければいけないのよ!?」
机に両手をつく柚希だが、今は冷静になれと深呼吸を一つ落としてから、未来の伝言に目を向ける。
きっと今のあなたはどうして!?
そんな風にみっともなく動揺していることでしょう。
「うぅ……っ」
お見通しかと不愉快そうに唇を尖らせる柚希に、未来の柚希は妥協することなく説明を続けていた。
あなたは近い将来、天満夜戯乃に好意を抱くことになる。
「は? ならないわよ!」
否定はしないで!
「……っ」
いまの私がそうなのだから、これも間違いなく事実。
未来のあなたが言っているんだから認めなさい。
だけど、この先の未来であなたがどれほど天満夜戯乃に想いを寄せても、あなたが天満夜戯乃と恋人関係になることはない。
なぜなら天満夜戯乃に好意を抱いているは私だけではない、可憐も彼に好意を寄せているからだ。
意味は、わかるわね?
「可憐とは中学からの付き合いなので、なんとなくわかってしまうのが悲しいところね」
この際だから既成事実作り、ライバルを早めに潰しておくことをおすすめするわ。
「ちょっ!? 未来の私はなにを考えているのよ!」
それにそれが敵に勝つことと一体どう繋がるというのだと、柚希は眉をしかめる。
付き合うことに成功したら、再び私がそちらに赴き『思念移行』を発動させる記憶媒体となるものを作成する(予定)。
そうね、交換日記をしようと夜戯乃くんに提案しておいてくれると助かるわ。
それを媒体にすることにする。
「知りもしない人とどうやって交換日記なんてするのよ! 無茶苦茶言い過ぎよ!」
できなければゲームオーバーよ。
「はぁ……」
それから一晩かけて柚希は作戦を考えた。
どうすれば自然な形で天満夜戯乃に近付き、交換日記を持ちかけることができるのかを。
結論からいうと、やはり未来のメモに従い、彼と付き合うことが一番手っ取り早いと考えた。
そうして柚希は未来の自分の指示に従い、学校の屋上に天満夜戯乃呼び出し、告白をした。
このときの彼女が彼に特別な感情を抱くことはなかった。
魔法少女としての任務を遂行していたに過ぎない。
柚希は計画通り駅前の文房具店で日記を購入するのだが、その際敵の魔法少女、川利音泉華と天満夜戯乃が接触してしまうことになる。
しかし、この時点の柚希がそれに気づくことはない。
柚希は敵である川利音泉華の名前は知っていたものの、その容姿を知ることはなかった。
未来の柚希には過去の自分に、正確に川利音泉華の容姿を伝える術がなかったのだ。
一方川利音泉華は魔法少女である柚希と親しくする夜戯乃に『思考リンク』を発動し、彼女たちの動向を探ろうとしていた。
その後も柚希は未来の自分の指示に従い、何度も夜戯乃とデートを重ねていくこととなる。
その過程で彼女が彼に惹かれていくことは自然なことだった。
未来の姫野柚希は言う。
敵をあざむくためにはまず味方からあざむく必要があるのだと。
そのために柚希は天満夜戯乃との五回目のデートの日、可憐を自宅に呼び寄せていたのだ。
敵の魔法少女に関する重要な話があると嘘をついて。
そこで彼女は未来で起こる重大な出来事をメモに記したのだ。
メモを書き終えた彼女がコクリと首を傾ければ、薄れゆく意識の中、柚希の意識は現在のものへと切り替わっていく。
自身が机の前に座っていることに違和感を覚えた柚希は、すぐに部屋の時計に目を向け、現在の時刻を確認する。
「……」
そこで十五分間の空白の時間に気が付いた。
「これは」
次いで机に置かれたメモを手に取り、それを確認する。
『今から一年後の未来で、天満夜戯乃は死ぬ。それらを防ぐ方法をここに記す』
メモを目にした柚希は、未来の自分が『思念移行』を発動させたことを瞬時に理解した。
そして再びメモに視線を走らせる。
一つ、敵はどこかのタイミングで天満夜戯乃と接触するだろう。
その際、天満夜戯乃の思考を覗き見ることが可能な能力を発動する。
このことがきっかけとなり、私たちの情報は相手側の魔法少女に筒抜けになってしまう。
「天満夜戯乃……だれ?」
名前の人物に心当たりはなかったが、柚希はメモを読み進めることにした。
魔法少女の戦いにおいて情報が絶対的なアドバンテージになることをあなたも理解しているはず。
ならばあなたはきっとこう考えるでしょう。
天満夜戯乃に伝えなければいいと。
しかしそれも不可能。
なぜなら現在のあなたは知らないかも知れないけど、これから出会う天満夜戯乃は私たちが探し続けたスポットなのだ。
「スポットが同じ学校にいたの!?」
驚嘆する柚希は口許を押さえながら、さらにメモを読み進めていく。
あなたなら理解しているとは思うけれど、彼と関わりを断つことは不可能であり、親しくなれば必ず能力のことを知られてしまう。
仮にそれが知られなかったとしても、天満夜戯乃を人質に取られれば私と可憐にはどうすることもできない。
事実、私たちにはどうすることもできなかった。
敵は用心深く、私たちのすべてを知ったあと、弱味に漬け込むようにやって来る。
それを回避する方法をここに記すとする。
「方法があるのね」
まず第一に、天満夜戯乃と付き合いなさい。
「な、なによこれはっ!?」
がんっ!
思わず立ち上がってしまった柚希の顔は、動揺からか少し赤みが差していた。
「どうして私が知りもしない人と付き合わなければいけないのよ!?」
机に両手をつく柚希だが、今は冷静になれと深呼吸を一つ落としてから、未来の伝言に目を向ける。
きっと今のあなたはどうして!?
そんな風にみっともなく動揺していることでしょう。
「うぅ……っ」
お見通しかと不愉快そうに唇を尖らせる柚希に、未来の柚希は妥協することなく説明を続けていた。
あなたは近い将来、天満夜戯乃に好意を抱くことになる。
「は? ならないわよ!」
否定はしないで!
「……っ」
いまの私がそうなのだから、これも間違いなく事実。
未来のあなたが言っているんだから認めなさい。
だけど、この先の未来であなたがどれほど天満夜戯乃に想いを寄せても、あなたが天満夜戯乃と恋人関係になることはない。
なぜなら天満夜戯乃に好意を抱いているは私だけではない、可憐も彼に好意を寄せているからだ。
意味は、わかるわね?
「可憐とは中学からの付き合いなので、なんとなくわかってしまうのが悲しいところね」
この際だから既成事実作り、ライバルを早めに潰しておくことをおすすめするわ。
「ちょっ!? 未来の私はなにを考えているのよ!」
それにそれが敵に勝つことと一体どう繋がるというのだと、柚希は眉をしかめる。
付き合うことに成功したら、再び私がそちらに赴き『思念移行』を発動させる記憶媒体となるものを作成する(予定)。
そうね、交換日記をしようと夜戯乃くんに提案しておいてくれると助かるわ。
それを媒体にすることにする。
「知りもしない人とどうやって交換日記なんてするのよ! 無茶苦茶言い過ぎよ!」
できなければゲームオーバーよ。
「はぁ……」
それから一晩かけて柚希は作戦を考えた。
どうすれば自然な形で天満夜戯乃に近付き、交換日記を持ちかけることができるのかを。
結論からいうと、やはり未来のメモに従い、彼と付き合うことが一番手っ取り早いと考えた。
そうして柚希は未来の自分の指示に従い、学校の屋上に天満夜戯乃呼び出し、告白をした。
このときの彼女が彼に特別な感情を抱くことはなかった。
魔法少女としての任務を遂行していたに過ぎない。
柚希は計画通り駅前の文房具店で日記を購入するのだが、その際敵の魔法少女、川利音泉華と天満夜戯乃が接触してしまうことになる。
しかし、この時点の柚希がそれに気づくことはない。
柚希は敵である川利音泉華の名前は知っていたものの、その容姿を知ることはなかった。
未来の柚希には過去の自分に、正確に川利音泉華の容姿を伝える術がなかったのだ。
一方川利音泉華は魔法少女である柚希と親しくする夜戯乃に『思考リンク』を発動し、彼女たちの動向を探ろうとしていた。
その後も柚希は未来の自分の指示に従い、何度も夜戯乃とデートを重ねていくこととなる。
その過程で彼女が彼に惹かれていくことは自然なことだった。
未来の姫野柚希は言う。
敵をあざむくためにはまず味方からあざむく必要があるのだと。
そのために柚希は天満夜戯乃との五回目のデートの日、可憐を自宅に呼び寄せていたのだ。
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