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第31話 大罪の悪魔ベルゼブブ

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 ベルゼブブは一旦兵たちを引かせ、夜の妖精王ティターニアと俺たちを自分の居る東側の客席に呼び寄せた。

「……」

 非常に気まずい。
 こいつがあのベルゼブブだということが未だに信じられなかった。
 が――僅かではあるものの、老人からはたしかに悪魔の気配が漂ってくる。

「(おい、ベルゼブブってこんなに弱々しかったか?)」
「(なっわけないでしょ! ベルゼブブといえば地獄でも指折りの実力者よ!)」

 ……だよな。
 と思うも、眼前の老人はやはり弱々しい。
 過去に一度だけベルゼブブを見たことがあるのだが、あの頃のベルゼブブは人間でいうところの二十代前半くらいの見た目だった。
 白と黒のツートンカラーも、今ではほんのりと赤みを帯びた淡い鼠色一色。
 あの頃の面影はなく、どっからどう見てもただの老人だ。

 わずか数百年で悪魔がここまで老けこむなど聞いたこともなかった俺は、未だに彼がベルゼブブだという実感が持てない。

「(てゆーか、なんであちしたちまで呼ばれてんのよ? これっていわゆる家族会議ってやつでしょ?)」
「(そんなの俺だって知るかよ! つーか呼ばれたのは俺だろ? お前は勝手についてきただけじゃねぇか!)」
「(あんたって本当にケツの穴の小さい男ね。細かすぎんのよ)」

 喧しいわっ!

 アーサーにジャンヌにアマンダ、それにゴブトリオは少し離れた席に腰をおろし、こちらを窺っている。
 俺はなぜかベルゼブブに呼ばれてクレアの隣に座っている。ロキは、呼ばれてもいないのに俺の隣に座っていた。

「お前のことは、娘から聞いている」
「え……俺のこと?」

 一体何のことだとクレアに視線を向ければ、背中を丸めて小さくなり、左手薬指にはめられた指輪を弄っている。

「――ハッ!?」
「……?」

 目が合うと間を置かず、彼女は熱病に侵されたかのように赭面した。

「娘と結婚するなら、お前にも知っておいてもらいたい。俺様たちがなぜ、魔族街ワンダーランドを築くに至ったのか」

 ……は? 結婚ッ!?
 何を言っているのだ。

「それって、ママが人間嫌いな理由と関係あるの?」
「ああ……」

 疲れきった哀しい声だった。

夜の妖精王ティターニアは、アルドラは元奴隷だ」
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