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第10話 ゴブリン村
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降臨初日に村人たち全員が信者復帰したことは非常に喜ばしく、実に幸先の良いスタートを切れたと思う。
――のだが、問題は山積み。
というか、何一つ解決していない。
一番の問題はやはり、神トリートーンとの圧倒的戦力差である。
ガブリエルの報告によると、トリートーン側の信者代表者はそれなりの国を有している。
それに比べて俺の信者代表者――アーサー・ペンドラゴンの国は……ご覧の通り小さな村一つ。
これでは流石に話にならない。
こちらの拠点地がバレてしまえばワンパン確実。
幸いこの村は魔物たちが跋扈する大森林のド真ん中に築かれており、そのお陰で他国からの侵略はない。存在すら知られていない。
樹海がうまい具合に隠れ蓑になっているためと推測する。
しかし、その分よけいな敵も多い。
モンスターとかモンスターとかモンスターとか……。
それでも、これまでアヴァロンの民がこの大森林で暮らせてこれたのには理由がある。
かつて俺がペンドラゴン王家に送った宝具が村を守護していたからだ。
その力が徐々に弱まりつつあるからこそ、今回のようなゴブリン襲撃を簡単に許してしまった。
そのゴブリンたちはというと……。
「違うじょ! そうじゃないじょ!」
「おめぇさ下手くそだな。きっと夜の方も下手くそなんでぇねぇがぁ?」
「ゴブゴブゴブ――んっなら夜の狩人にはなれねぇべな」
「バッ、バカにすんじゃねぇ! つーかお前らゴブリンはなんでそんなに下ネタ好きなんだよ!」
「そうだそうだ! 黙って教えろっ! あとその変な笑い方やめろよな!」
村の連中に弓の使い方を指導中だ。
あいつら……仲がいいんだが悪いんだかいまいちわからん。
しかも、神の祝福を受けたことにより、野性味あふれていたゴブリンの外見がマイルドに変化していた。
ゴブスケいわく、なんだか以前よりも力があふれてくるとのこと。
種族進化はしていないはずなのに……不思議だ。
何はともあれ、こちらとしては戦力になるなら大歓迎。そのために受け入れたのだから。
この際種族なんぞ気にしている場合ではない。
で、問題は……あれだ。
「あっ、ご、ごめんっ!?」
「いっ、いや……そのっ。わ、わわわたしの方こそすまないっ!」
「なにをやっとんのだ……あいつらは」
アーサーとジャンヌの二人には、手の空いている村人たちと一緒に俺の自宅――社を建設してもらっているのだが、さっきからちょっと手が触れただけであの調子だ。
昨夜しっかりやることやったというのに、何を今更手が触れただけでドギマギしとるのだ。
純情ぶって童貞や処女のようなリアクションをするんじゃないよ。腹立たしい。
「二人共、相当意識し合っていますね」
「めんどくさい奴らだな」
ミカエルたその言う通り、さすがに意識しすぎだ。
「あら、可愛らしいではありませんか」
「そうかぁ? ならミカエルたそは四六時中あれを見せつけられてもそう思えるか?」
「それは……。さすがにウザいですね」
素直でよろしい。
他人のイチャコラを見せつけられることほどつまらないものはないからな。
「神様、少しいいだべかぁ?」
「どうした?」
村人たちに弓を教えていたゴブゾウが、頼りない声音で話しかけてきた。
「オラたちできればこのままこの村でずっと暮らしていきたいべ」
「そりゃ構わないというか、こちらとしては端っからそのつもりだが?」
なんせ貴重な戦力だ。簡単に手放したりはしない。
「それに、友好の証としてアーサーに不格好なペンダントを貰ってたじゃないか。この村というか国の王がいいって言ってんだからいいんだろ」
「それはオラたちとしても非常に有り難いべ。ただ……」
「なにか問題でもあるのか?」
「家族が心配ってのもあるべさ」
「お前女房がいるのか?」
「んっだぁ。床上手なメスだべぇ! 神様も一度抱いてやってほしいくらいだべさ!」
「――断るっ! 断じて断るっ!!」
ゴブリンの女を寝取る趣味など俺にはない。よって光の速度で断ってやった。
「お前たちの家族もみんなこの村に呼び寄せればいい。神である俺が赦す」
労働力を増やして村を――国をでかくしていくための人員集め。一石二鳥だ。
しかし、ゴブゾウの表情はどこか冴えない。
「呼べない理由でもあるのか?」
「オラたち……村のみんなを人質に取られているべさ」
「人質って……。お前らひょっとして誰かに命令されて襲ってきたのか?」
「んっだぁ。大森林を突っ切りさらに東に進むと、龍の背骨と呼ばれる巨大な鉱山にぶち当たるべさ。そこには魔族の街があるんだべ」
「魔族の街っ!? ちょっ、ちょっと待て!」
そんな情報あったかな?
報告書に目を通していくと……あった!
村を守護していた宝具が結界に似た役割を果たし、大森林の中央には魔物が近づけなくなっていた。が、近年その力が弱まりつつある。
そのせいで、昔から大森林の覇権をめぐって争っていた魔族や魔物が、再び活発に動きつつあるとかなんとか……。
うわぁ、めんどくせぇっ。
つーか一夜漬けだとやっぱり見落としが出てくるよな。
後半ほとんど寝落ちしてしまってたし。
「オラたち鉱山の街からやってきた魔族に、村を奪うように言われただ。だからこの村の人たちに立ち退いてほしいってお願いしたべ。元々中央は獣鬼一族の縄張りだったし。けんどぉ、いくら頭を下げても立ち退いてくれなかっただ。そしたら、ホブゴブリンの旦那が力強くで奪ってやるだって……」
「そういう流れだったのか……。なんかホブゴブリンにも悪いことをしてしまったな」
「そんなことねぇべ。この世は弱肉強食だべさ。殺らなきゃ殺られるべ」
そう言ってもらえると助かる。
「お前たちの村にはまだ魔族がいるのか?」
「見張りのコボルトたちがいるべ」
「よし、なら迎えに行ってそのままゴブゾウたちの村の連中を連れ帰ってくればいいってことだろ?」
「助けてくれるべかぁっ!」
「当たり前だろ? 俺は偉大なる慈悲深き神なのだから。信者となったお前たちが祈るのであれば、助けるのが神だ」
「祈るべっ! オラたち毎日欠かさず全力でお祈りするべ!」
ゴブゾウに呼ばれたゴブリンたちが一斉に跪く。
やはり祈られるのは気分がいい。
「そういうことなら私にも協力させてくれ」
「ジャ、ジャンヌが行くなら僕も行くよ! かっ、彼氏だし……」
「―――かっ、彼ぴぃっ!?」
言った方も言われた方もいちいち赤くなるなよ。鬱陶しいな。
「俺の社はどうするつもりだ? まだ全然できていないじゃないか」
「心配しなくても村のみんなが建ててくれるですよ」
「かっ、かかかかれぴ……アーサーの言う通りだ!」
なんで今言おうとした!
「それに、どうせ僕たちが居ても邪魔になるだけですから」
わかってたんなら真面目にやれよっ!
この色惚け王とその従者がァッ。
「では、その間の村の防衛はわたくしにお任せください」
「ミカエルたそなら何の心配もいらないな。では、出発は明朝とする」
「やったべぇっ!!」
「神様とジャンヌが居れば百人力じょ!」
大はしゃぎするゴブリンたちに、村人たちの顔にも笑顔がこぼれる。
――のだが、問題は山積み。
というか、何一つ解決していない。
一番の問題はやはり、神トリートーンとの圧倒的戦力差である。
ガブリエルの報告によると、トリートーン側の信者代表者はそれなりの国を有している。
それに比べて俺の信者代表者――アーサー・ペンドラゴンの国は……ご覧の通り小さな村一つ。
これでは流石に話にならない。
こちらの拠点地がバレてしまえばワンパン確実。
幸いこの村は魔物たちが跋扈する大森林のド真ん中に築かれており、そのお陰で他国からの侵略はない。存在すら知られていない。
樹海がうまい具合に隠れ蓑になっているためと推測する。
しかし、その分よけいな敵も多い。
モンスターとかモンスターとかモンスターとか……。
それでも、これまでアヴァロンの民がこの大森林で暮らせてこれたのには理由がある。
かつて俺がペンドラゴン王家に送った宝具が村を守護していたからだ。
その力が徐々に弱まりつつあるからこそ、今回のようなゴブリン襲撃を簡単に許してしまった。
そのゴブリンたちはというと……。
「違うじょ! そうじゃないじょ!」
「おめぇさ下手くそだな。きっと夜の方も下手くそなんでぇねぇがぁ?」
「ゴブゴブゴブ――んっなら夜の狩人にはなれねぇべな」
「バッ、バカにすんじゃねぇ! つーかお前らゴブリンはなんでそんなに下ネタ好きなんだよ!」
「そうだそうだ! 黙って教えろっ! あとその変な笑い方やめろよな!」
村の連中に弓の使い方を指導中だ。
あいつら……仲がいいんだが悪いんだかいまいちわからん。
しかも、神の祝福を受けたことにより、野性味あふれていたゴブリンの外見がマイルドに変化していた。
ゴブスケいわく、なんだか以前よりも力があふれてくるとのこと。
種族進化はしていないはずなのに……不思議だ。
何はともあれ、こちらとしては戦力になるなら大歓迎。そのために受け入れたのだから。
この際種族なんぞ気にしている場合ではない。
で、問題は……あれだ。
「あっ、ご、ごめんっ!?」
「いっ、いや……そのっ。わ、わわわたしの方こそすまないっ!」
「なにをやっとんのだ……あいつらは」
アーサーとジャンヌの二人には、手の空いている村人たちと一緒に俺の自宅――社を建設してもらっているのだが、さっきからちょっと手が触れただけであの調子だ。
昨夜しっかりやることやったというのに、何を今更手が触れただけでドギマギしとるのだ。
純情ぶって童貞や処女のようなリアクションをするんじゃないよ。腹立たしい。
「二人共、相当意識し合っていますね」
「めんどくさい奴らだな」
ミカエルたその言う通り、さすがに意識しすぎだ。
「あら、可愛らしいではありませんか」
「そうかぁ? ならミカエルたそは四六時中あれを見せつけられてもそう思えるか?」
「それは……。さすがにウザいですね」
素直でよろしい。
他人のイチャコラを見せつけられることほどつまらないものはないからな。
「神様、少しいいだべかぁ?」
「どうした?」
村人たちに弓を教えていたゴブゾウが、頼りない声音で話しかけてきた。
「オラたちできればこのままこの村でずっと暮らしていきたいべ」
「そりゃ構わないというか、こちらとしては端っからそのつもりだが?」
なんせ貴重な戦力だ。簡単に手放したりはしない。
「それに、友好の証としてアーサーに不格好なペンダントを貰ってたじゃないか。この村というか国の王がいいって言ってんだからいいんだろ」
「それはオラたちとしても非常に有り難いべ。ただ……」
「なにか問題でもあるのか?」
「家族が心配ってのもあるべさ」
「お前女房がいるのか?」
「んっだぁ。床上手なメスだべぇ! 神様も一度抱いてやってほしいくらいだべさ!」
「――断るっ! 断じて断るっ!!」
ゴブリンの女を寝取る趣味など俺にはない。よって光の速度で断ってやった。
「お前たちの家族もみんなこの村に呼び寄せればいい。神である俺が赦す」
労働力を増やして村を――国をでかくしていくための人員集め。一石二鳥だ。
しかし、ゴブゾウの表情はどこか冴えない。
「呼べない理由でもあるのか?」
「オラたち……村のみんなを人質に取られているべさ」
「人質って……。お前らひょっとして誰かに命令されて襲ってきたのか?」
「んっだぁ。大森林を突っ切りさらに東に進むと、龍の背骨と呼ばれる巨大な鉱山にぶち当たるべさ。そこには魔族の街があるんだべ」
「魔族の街っ!? ちょっ、ちょっと待て!」
そんな情報あったかな?
報告書に目を通していくと……あった!
村を守護していた宝具が結界に似た役割を果たし、大森林の中央には魔物が近づけなくなっていた。が、近年その力が弱まりつつある。
そのせいで、昔から大森林の覇権をめぐって争っていた魔族や魔物が、再び活発に動きつつあるとかなんとか……。
うわぁ、めんどくせぇっ。
つーか一夜漬けだとやっぱり見落としが出てくるよな。
後半ほとんど寝落ちしてしまってたし。
「オラたち鉱山の街からやってきた魔族に、村を奪うように言われただ。だからこの村の人たちに立ち退いてほしいってお願いしたべ。元々中央は獣鬼一族の縄張りだったし。けんどぉ、いくら頭を下げても立ち退いてくれなかっただ。そしたら、ホブゴブリンの旦那が力強くで奪ってやるだって……」
「そういう流れだったのか……。なんかホブゴブリンにも悪いことをしてしまったな」
「そんなことねぇべ。この世は弱肉強食だべさ。殺らなきゃ殺られるべ」
そう言ってもらえると助かる。
「お前たちの村にはまだ魔族がいるのか?」
「見張りのコボルトたちがいるべ」
「よし、なら迎えに行ってそのままゴブゾウたちの村の連中を連れ帰ってくればいいってことだろ?」
「助けてくれるべかぁっ!」
「当たり前だろ? 俺は偉大なる慈悲深き神なのだから。信者となったお前たちが祈るのであれば、助けるのが神だ」
「祈るべっ! オラたち毎日欠かさず全力でお祈りするべ!」
ゴブゾウに呼ばれたゴブリンたちが一斉に跪く。
やはり祈られるのは気分がいい。
「そういうことなら私にも協力させてくれ」
「ジャ、ジャンヌが行くなら僕も行くよ! かっ、彼氏だし……」
「―――かっ、彼ぴぃっ!?」
言った方も言われた方もいちいち赤くなるなよ。鬱陶しいな。
「俺の社はどうするつもりだ? まだ全然できていないじゃないか」
「心配しなくても村のみんなが建ててくれるですよ」
「かっ、かかかかれぴ……アーサーの言う通りだ!」
なんで今言おうとした!
「それに、どうせ僕たちが居ても邪魔になるだけですから」
わかってたんなら真面目にやれよっ!
この色惚け王とその従者がァッ。
「では、その間の村の防衛はわたくしにお任せください」
「ミカエルたそなら何の心配もいらないな。では、出発は明朝とする」
「やったべぇっ!!」
「神様とジャンヌが居れば百人力じょ!」
大はしゃぎするゴブリンたちに、村人たちの顔にも笑顔がこぼれる。
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