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第1話 プロローグ
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「勇者吉野よ、久しぶりですね」
一年前、トラックに轢かれた俺は気がつくと、自らを女神と名乗る女に喚び出されていた。
女神は俺に言った、魔王に支配された世界を救ってくれと。
世界を救った暁には、報酬として俺を元の世界に還してくれる。ちなみに断れば今すぐに元の世界に強制送還、俺はそのまま死ぬらしい。
しかし、女神はこうも言った。
異世界を救えば、トラックに轢かれた事自体をなかったことにしてくれると。
正直なところ、俺はどちらでも良かった。
俺は元の世界に未練なんてこれっぽっちもない。両親は俺が幼い頃に事故で死んでいたし、俺を育ててくれた祖父も、俺が中学を卒業してすぐに亡くなった。老衰死だった。
俺は天涯孤独の身。
元の世界に戻ったところで、俺のことなんて誰も待っていない。
それならいっそ、異世界とやらで暮らしたほうが幸せになれるかもしれないと思った。
だから俺は女神とやらにお願いしたんだ。
魔王を討伐して世界を救ったあとも、俺を異世界に残してくれって。
女神は快く承諾してくれた。
なのに、それなのに、なぜ俺はまた女神に喚び出されているのだろう。
「今すっげぇいいところだったんだけど」
世界を救った勇者な俺は、今では一国の王だ。側室は100人を超えており、毎晩むふふなお楽しみが俺を待っている。まさに異世界ハーレムパラダイス。
「勇者吉野、バナナが見えていますよ」
「スケベ中だったんだから当然だろ。つーかヤッてる最中に呼び出さないでもらえるかな? こういうのマナー違反だろ」
「しかし、緊急だったのです」
「緊急?」
俺は耳をほじりながら、めちゃくちゃ面倒くさそうに繰り返した。
「闇の女神によって、元々吉野のいた世界がモンスターで溢れかえってしまったのです!」
「へぇー、大変じゃん」
正直どうでもいい。はっきり言うと興味もない。それより早くルイズのぱふぱふに顔を埋めたい。新しく入った新人メイドのリナリーも気になる。うぶな女の子の恥じらい顔はそそるからな。
「そこで勇者吉野には元の世界に戻り、世界を清浄してきてもらいたいのです」
「断る」
「さすが私の選んだ勇者で……は? 今なんと?」
「だから、断ると言ったんだ」
「魔物たちに襲われているのは吉野が生まれ育った世界の人々なのですよっ!」
「関係ないね。俺はあの世界には興味もなければ未練もない。よって誰がどうなろうが知ったこっちゃない。何より、俺は今幸せなんだ。せっかく掴んだ幸せを手放してまで、なんで俺が薄情な元の世界の連中を助けにゃならんのだ。あいつらは俺が生活苦しくてバイトに明け暮れていた時も、貧乏って嫌だよなって鼻で嗤いやがったんだ! 思い出しただけでムカムカしてきた!」
俺は忘れかけていたクラスメイトたちの顔を思い出し、その場で拳を振り抜く。
「ざまあみろ! ……な、なんだよ?」
そんな俺に女神は軽蔑の目を向けてくる。
少しだけ後ろめたさを感じてしまう。
「勇者吉野は自分さえ良ければそれで良いのですか! 目の前で人々が苦しみ嘆き悲しんでいるというのに、吉野は知らんぷりするのですか!」
「いや、その、別に、そこまでは言ってないだろ? たださ――」
「ただ何なのです?」
「せっかく魔王を討伐して王様にまでなったのに、一ヶ月で終わりなんて、そりゃあんまりだよなって」
「しかし、一ヶ月は楽しんだのでしょ?」
「まあ、そりゃそうだけど……」
この幸せが一生続くと思っていた矢先、また地獄のような日々に戻れと言われたら、さすがの俺だってまいっちゃうよ。
「他の人に頼めないのかよ。前に俺以外にも勇者は居るって言ってなかったか?」
「ええ、居ますよ。しかし、彼らは皆、別世界を救っている最中なのです。暇を持て余している吉野とは違います」
まるで俺が働きもしないニートみたいな言い草だな。こちとらバカンス休暇中だ。
「他の人の手が空くまで元の世界の人たちには待ってもらうってのはどうだろう?」
「吉野っ!」
ダメか。
女神の怒声に肩をすくめていると、女神がとんでもないことを言い出した。
「ではこうします。吉野が元の世界を救うまで、異世界に帰還することは禁止とします!」
「はぁあああ!? 何がこうしますだよ! 意味がわかんねぇよ! 何より約束が違うだろ! 魔王を倒したら俺はずっと異世界に居ていいって、そういう約束だったはずだろ!」
「証明できますか?」
「は? 証明……?」
「私と吉野との間にそのような取り決めがあったことを証明できるのですかと聞いているのです」
「なっ、できるわけないだろ。口約束だったんだから」
「では無効ですね」
「汚ねぇぞ! 女神が詐欺紛いなことしていいのかよ!」
「世界を、人々を救うためです。では、こちらにサインを」
前回は契約書なんてなかったくせに、なんで今回はちゃっかり契約書を作ってんだよ。
「……っ」
向井吉野は元居た世界を救うまで異世界には帰還致しません。尚、今後も女神の命令には快く従うことを誓います。
なんだよこのふざけた契約書はっ! どこのブラック企業だ。これじゃ奴隷契約じゃないか。
誰がこんなふざけた契約書にサインなんぞするか。
「今後もってのが気になるんだが?」
「なら気にしなければいいだけの話ではありませんか」
「ふざけるな!」
「吉野は勇者なんですから、人々が困っていたら我が身を犠牲にしてでも戦果に飛び込まねばならないのです」
「横暴だ!」
「いいえ、義務です」
俺は断固サインなどしないという意思表示の下、腕を組み、その場でドスンと胡座をかいた。
「代わりに私がサインしときますね」
「なんでだよ! おかしいだろうがっ!」
「天界ルールでは契約書の代筆は認められています」
「頼んでねぇよ! 俺がいつお前に代筆を頼んだんだよ! 女神のくせにインチキすんじゃねぇよ!」
「一応元の世界に戻る時間はこちらで調整するつもりですが、細かい時間や場所までは無理なので、そのへんはアバウトってことでお願いしますね」
「聞けよ! 俺の話を無視するな! つーか何勝手に話を進めてんだよ! ――ってなんだよこれ!?」
いつかと同じように足下に魔法陣が出現すると、まばゆい光が俺を包み込んでいく。
「おい、てめぇっ! こんなことが許されると思うなよ!」
「世界を救ったらまた会いましょう。勇者吉野」
「ふざけんなっ、このクソ女神がぁあああああああああああああ!!」
こうしてトラックに轢かれて異世界で勇者となった俺は、モンスターが溢れてしまった世界を救うため、再び勇者として召喚されたのだった。
一年前、トラックに轢かれた俺は気がつくと、自らを女神と名乗る女に喚び出されていた。
女神は俺に言った、魔王に支配された世界を救ってくれと。
世界を救った暁には、報酬として俺を元の世界に還してくれる。ちなみに断れば今すぐに元の世界に強制送還、俺はそのまま死ぬらしい。
しかし、女神はこうも言った。
異世界を救えば、トラックに轢かれた事自体をなかったことにしてくれると。
正直なところ、俺はどちらでも良かった。
俺は元の世界に未練なんてこれっぽっちもない。両親は俺が幼い頃に事故で死んでいたし、俺を育ててくれた祖父も、俺が中学を卒業してすぐに亡くなった。老衰死だった。
俺は天涯孤独の身。
元の世界に戻ったところで、俺のことなんて誰も待っていない。
それならいっそ、異世界とやらで暮らしたほうが幸せになれるかもしれないと思った。
だから俺は女神とやらにお願いしたんだ。
魔王を討伐して世界を救ったあとも、俺を異世界に残してくれって。
女神は快く承諾してくれた。
なのに、それなのに、なぜ俺はまた女神に喚び出されているのだろう。
「今すっげぇいいところだったんだけど」
世界を救った勇者な俺は、今では一国の王だ。側室は100人を超えており、毎晩むふふなお楽しみが俺を待っている。まさに異世界ハーレムパラダイス。
「勇者吉野、バナナが見えていますよ」
「スケベ中だったんだから当然だろ。つーかヤッてる最中に呼び出さないでもらえるかな? こういうのマナー違反だろ」
「しかし、緊急だったのです」
「緊急?」
俺は耳をほじりながら、めちゃくちゃ面倒くさそうに繰り返した。
「闇の女神によって、元々吉野のいた世界がモンスターで溢れかえってしまったのです!」
「へぇー、大変じゃん」
正直どうでもいい。はっきり言うと興味もない。それより早くルイズのぱふぱふに顔を埋めたい。新しく入った新人メイドのリナリーも気になる。うぶな女の子の恥じらい顔はそそるからな。
「そこで勇者吉野には元の世界に戻り、世界を清浄してきてもらいたいのです」
「断る」
「さすが私の選んだ勇者で……は? 今なんと?」
「だから、断ると言ったんだ」
「魔物たちに襲われているのは吉野が生まれ育った世界の人々なのですよっ!」
「関係ないね。俺はあの世界には興味もなければ未練もない。よって誰がどうなろうが知ったこっちゃない。何より、俺は今幸せなんだ。せっかく掴んだ幸せを手放してまで、なんで俺が薄情な元の世界の連中を助けにゃならんのだ。あいつらは俺が生活苦しくてバイトに明け暮れていた時も、貧乏って嫌だよなって鼻で嗤いやがったんだ! 思い出しただけでムカムカしてきた!」
俺は忘れかけていたクラスメイトたちの顔を思い出し、その場で拳を振り抜く。
「ざまあみろ! ……な、なんだよ?」
そんな俺に女神は軽蔑の目を向けてくる。
少しだけ後ろめたさを感じてしまう。
「勇者吉野は自分さえ良ければそれで良いのですか! 目の前で人々が苦しみ嘆き悲しんでいるというのに、吉野は知らんぷりするのですか!」
「いや、その、別に、そこまでは言ってないだろ? たださ――」
「ただ何なのです?」
「せっかく魔王を討伐して王様にまでなったのに、一ヶ月で終わりなんて、そりゃあんまりだよなって」
「しかし、一ヶ月は楽しんだのでしょ?」
「まあ、そりゃそうだけど……」
この幸せが一生続くと思っていた矢先、また地獄のような日々に戻れと言われたら、さすがの俺だってまいっちゃうよ。
「他の人に頼めないのかよ。前に俺以外にも勇者は居るって言ってなかったか?」
「ええ、居ますよ。しかし、彼らは皆、別世界を救っている最中なのです。暇を持て余している吉野とは違います」
まるで俺が働きもしないニートみたいな言い草だな。こちとらバカンス休暇中だ。
「他の人の手が空くまで元の世界の人たちには待ってもらうってのはどうだろう?」
「吉野っ!」
ダメか。
女神の怒声に肩をすくめていると、女神がとんでもないことを言い出した。
「ではこうします。吉野が元の世界を救うまで、異世界に帰還することは禁止とします!」
「はぁあああ!? 何がこうしますだよ! 意味がわかんねぇよ! 何より約束が違うだろ! 魔王を倒したら俺はずっと異世界に居ていいって、そういう約束だったはずだろ!」
「証明できますか?」
「は? 証明……?」
「私と吉野との間にそのような取り決めがあったことを証明できるのですかと聞いているのです」
「なっ、できるわけないだろ。口約束だったんだから」
「では無効ですね」
「汚ねぇぞ! 女神が詐欺紛いなことしていいのかよ!」
「世界を、人々を救うためです。では、こちらにサインを」
前回は契約書なんてなかったくせに、なんで今回はちゃっかり契約書を作ってんだよ。
「……っ」
向井吉野は元居た世界を救うまで異世界には帰還致しません。尚、今後も女神の命令には快く従うことを誓います。
なんだよこのふざけた契約書はっ! どこのブラック企業だ。これじゃ奴隷契約じゃないか。
誰がこんなふざけた契約書にサインなんぞするか。
「今後もってのが気になるんだが?」
「なら気にしなければいいだけの話ではありませんか」
「ふざけるな!」
「吉野は勇者なんですから、人々が困っていたら我が身を犠牲にしてでも戦果に飛び込まねばならないのです」
「横暴だ!」
「いいえ、義務です」
俺は断固サインなどしないという意思表示の下、腕を組み、その場でドスンと胡座をかいた。
「代わりに私がサインしときますね」
「なんでだよ! おかしいだろうがっ!」
「天界ルールでは契約書の代筆は認められています」
「頼んでねぇよ! 俺がいつお前に代筆を頼んだんだよ! 女神のくせにインチキすんじゃねぇよ!」
「一応元の世界に戻る時間はこちらで調整するつもりですが、細かい時間や場所までは無理なので、そのへんはアバウトってことでお願いしますね」
「聞けよ! 俺の話を無視するな! つーか何勝手に話を進めてんだよ! ――ってなんだよこれ!?」
いつかと同じように足下に魔法陣が出現すると、まばゆい光が俺を包み込んでいく。
「おい、てめぇっ! こんなことが許されると思うなよ!」
「世界を救ったらまた会いましょう。勇者吉野」
「ふざけんなっ、このクソ女神がぁあああああああああああああ!!」
こうしてトラックに轢かれて異世界で勇者となった俺は、モンスターが溢れてしまった世界を救うため、再び勇者として召喚されたのだった。
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