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階層
42 牢
しおりを挟むあれから何日経っただろうか。
体感で二ヶ月ほどか、いやもっと経過しているに違いない。
まさか、筆頭馬場が直々に会いに来るとは思いもよらなかった。
そう、あの日自分達は拘束され薄暗く殺風景なコンクリートの部屋に連れ込まれた。
そして、初めてここに来て、直後に打たれた透明の液体をまたもや注射された。
すると、意識が朦朧とし、全身に痺れるような痛みが走る。
それからしばらくすると、身体が鉛のように重くなり身動きが取れなくなる。
しかし、注射されたのは自分だけで柊さんと藤森は危害を加えられることなく座らせられていた。
ただ、初めてそれを打たれた時は薬物か何かかと思ったがどうやらそうではないらしい。なぜなら、拘束される際に擦りむいた傷や打撲した跡が一向に再生しないのだ。
注射を打たれてから数時間ほど傷が再生せず、細胞分裂が明らかに遅くなっているのを体感した。
注射を打たれて数分すると、筆頭馬場がゆっくりと金属の扉を引いて部屋に入ってきた。
身長190センチ越え、岩のように固く盛り上がった肩、鍛え上げられた肉体が白のカッターシャツに浮かび上がる。
それに加えて、左耳から後頭部にかけて酷い縫い跡がついている。
自分が知る限り、バス内で出会ったばかりの馬場はそのような傷はついていなかったはず。だとすれば、この数日間にこれほどの大怪我を負うような出来事があったということになる。
何があったかは分からないが、馬場の様子からしてもの凄い威圧を感じる。それに、左眼が充血しており白目が真っ赤に染まっている。
そして、死んだ魚の目で自分達を微かに見ると、疲れ切った様子で近づいてくる。
軽く咳払いをして自分達の目の前に用意された金属の椅子に腰をおろす。
「お前達のおかげでカベラの信者でもあり特殊構成員の一人が死んだ。」
「それも、俺が訓練を受け持っている優秀な弟子だ。」
「脱走した挙句、構成員まで殺すとは中々の度胸だ。そこは認めよう。」
低い声で俯きながら話しを進める馬場。
「それに、お前達は中々優秀だ。」
「ルールを破った者にこんな事は言いたくないが、お前達は才能があるとみた。」
分厚く大きな手でポケットから葉巻を取り出し、口に加え火をつける馬場。
「ただな、ガベラの掟を破り人を1人殺したのは事実だ。」
「そのことに関して我々は許すつもりはない。」
「よって、今月配属された訓練生達の中で三名の公開処刑を行う。」
「つまり、お前達の失態によって三名が犠牲になるということだ。」
「とにかく、今、お前達に報告することはそれだけだ。」
「あっと、一つ忘れていた。」
「お前達の処刑は教祖様の指示によって却下され、三ヶ月間の投獄となった。」
「俺からは以上だ。」
そう言って速やかに退出していく馬場。
緊張と焦りで困惑していた為、直ぐに理解出来なかったが、後から現状を把握していく。どうやら、藤森も柊さんも理解したらしく少し胸を撫で下ろす様子を見せていた。自分達がルールを破ったというのに、ガベラへと強制的に連れてこられた者達の中で、三人が犠牲にならなくてはいけないといったことに、後ろめたさを感じたが、明らかに以前より薄れているような気がする。簡単に言うと、これまでの過酷な出来事によって人情が薄らぎ、良心が欠如し始めている。ただ、それを認めたくない自分は気づいてもまた目を背ける。
しばらく、馬場の言葉を思い起こしていると、一つ疑問点が生まれた。
それは、筆頭馬場が最後に言っていた教祖様とは誰かということ。
教祖の女は柊さんの手によって死亡し、古い手術室の近くにあった焼却炉で跡形もなく燃やし尽くしたはず。
複数人いるのか?いや、講堂で自分がガベラの教祖だと名乗り出ていたが。
そんなことを考えながら自分は構成員に牢屋まで導かれる。全面金属に覆われた部屋に連れて行かれ、手枷を外される。
藤森や柊さんがどこへ連れて行かれたのか心配で仕方なかったが、注射を打たれたせいでろくに覚醒することも出来ない。
今になって気づいたが、教祖の女との圧倒的な力の差に隠された謎は先程の注射器に含まれた透明の液体が関与しているのではないだろうか。
肉や血を飲むことで異次元のパワーを得られることは事実だが、あまりにも教祖の女と実力差があり過ぎた。
単に戦術不足の可能性もあるが、明らかにパワーの面で劣っている気がした。
巫さんが言うには、自分は突出したDNAの持ち主であり、教祖の女、いわば松坂里帆にも匹敵する、いや上回るほどだと。
しかし、実際は上回るどころか土俵にすら立てていないような気がした。
もし、それがあの透明の液体のせいだとするなら、あれを逃れることで莫大なエネルギーを生み出すことが出来るのではないだろうか。
しかし、現実はそう簡単には進まない。
実際、自分は一週間に一度決まった時間に注射を行われ、能力の発現を抑制される。
それに加えて、食事に肉が出ることはなく、炭水化物と大豆由来のプロテイン、野菜などの食事が毎日出された。
ただ、相変わらず、自分の味覚が治ることもなく殆ど残す日々である。
どうにか脱出しようと試みたが、注射の際には、馬場や宮木、鬼頭、天使や悪魔の刺青を入れた双子など明らかに今の自分じゃ敵わないような傑物が、後方で監視の目を光らせている。
硬いベットとトイレしかない暑い部屋で、そんな生活が体感二ヶ月ほど続き、自分は軽い鬱状態に陥っていた。
そんな状態で壁にもたれ気力を失っていると、どこからか囁き声が聞こえてきた。
「功治くん!功治くん!」
疲れ切った様子でゆっくりと声の聞こえる方へと視線を向ける。
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読んでくれてありがとうございます!
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