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階層
34 psycho
しおりを挟む「きゃあああー!!!」
そう叫声を上げ後退りをする柊さん。その行動と表情で何があったか理解する自分。
恐らく彼女は自分が襲われているのを目撃し、興奮のあまり手に持っていたナイフで教祖の女に斬りかかったのだろう。
そして、たまたま首に当たってしまい、この惨たらしき光景に恐れ慄いているに違いない。
しかし、それが事実と言うなら疑問点が多い。
なぜ、自分がmから貰ったサバイバルナイフを手にしているのか。
そして、今まで姿が無かったのにも関わらず颯爽と現れ自分を完璧なタイミングで窮地から救ったという嘘みたいな事実。
そして、漆黒に包まれた階段での出来事に加え、巫さんの姿が今もなお見当たらないということ。
そのように思慮していると、腰を抜かし後退りしていた柊さんが話し始めた。
「そんな、ありえない!」
「恐ろしいわ。」
「まさか、ここまでとは思いもよらなかった。」
そう顔を青ざめて驚く柊さんに恐る恐る近づく。
「あの、柊さん!」
疲労からか柊さんの目が酩酊した時のようにキマっている。
「あ、佐海くん」
「大丈夫ですか!?」
「ええ、大丈夫どころか、むしろ高揚感すら芽生えてるわ。」
「高揚感?」
「ええ、」
まぁ、確かに無理もない。
ここに来てから目の前で多くの人が亡くなり、二度もこんな悲惨な光景を目の当たりにしたのだから。
それに、幽霊の存在をも怖がるようなかよわい女性なら無論のことである。
「そうですよね、これ見て狂わない方がおかしいですよね。」
「ええ、興奮しておかしくなりそうでした。」
「でも、佐海くんがあそこまで動けるとは、ほんとびっくりです!見直しました。」
「え、?」
「柊さん、一部始終見てたのですか?」
「当たり前じゃないですか、あれほどの血腥くて面白い闘い胸が踊りましたよ。」
「面白いって、、どういう、、」
「あっと、そんなことより一ついいですか?」
「ほんと一生のお願いなんですけど。」
「はい、、なんですか?」
「その、このナイフもし良かったら頂けないかなと思って。」
「今までこんな傑作に出会ったことないんです。」
「刃が入った瞬間に分かりました。」
「これは卓越された匠の技術だって。」
そう突拍子もないことを言って恍惚に見惚れた顔をする柊さん。
「はぁ、?」
何を言い出すのかと疑問の念を抱き思わずため息を吐いてしまった。
「分かってます、分かってます。」
「そんなこと絶対許されないですよね。譲れるわけないですよね。」
「でも、それが無理なら力ずくになってしまうかもしれないです。」
「ちょっと、何言いだすんですか?」
「いや、だから、あのその、このナイフが欲しくて仕方がないのです。」
「え、?」
「ナイフ?」
「柊さん、あなたこの女を殺してしまった事に愕然としていたんじゃないのですか?」
そう言って綺麗に切断された頭部を指差す。
「え、?なんの話ですか。」
「ああ、いや私はどうしてもこのナイフの切れ味が気になって仕方なかったので試しただけですよ。」
「いやいや、じゃなんで悲痛な表情で今のような挙動を?」
「功治さんって本当面白い方ですね。」
「でも、そういう斬新な考え方もユニークで良いんじゃないですか。」
「あ!それとも、もしかして少しおつむが弱いのですかね、?」
「いや、自分は妥当なことを言ってると思いますけど。」
「なるほど、野暮な偏屈者でしたか。」
「まぁいいです、とにかく手伝ってください。」
そう言ってサバイバルナイフをポケットにしまい、切断された女の頭を左腕で抱えて、もう片方の手で女の脚を持ち上げる。
「ちょっと何不貞腐れてるんですか?早く手伝ってください。」
「まさか、図星だったんですね。」
いや、図星も何も柊さんの言動に面食らって虚脱状態だと心の中で唱える。
「何も思ってないのですか?この女性のこと。」
「え、ああこの人ですか?」
「そうですね、一言で言うと滑稽ですか、ねあはははあははは。」
「あはは、あはあーやば。」
「ちょっと功治くん笑かさないでくださいよ。」
本心から愉悦に浸っているように見受けられ、あまりのキャラの変異に手のひら返しされた気分になる。
ただ、今の柊さんは疲れているだけだと信じて口を出さないようにした。
「ここを持てば良いのですか?」
「ええ、お願いします。」
「あの、どこに持ってくつもりなんですか?」
「そうですね、まぁ一応人に見つからないところですかね。」
「人に見つからないところって?」
「さて、私もまだ分かりません。」
「まぁ、一つ言えることは悠長にはしていられないということですかね。」
一歩進むたびに切断面から血が流れ出てくる。
その為、自分の太ももから下が真っ赤に染まり濡れている。
「ちょっと、ちゃんと真心持って佐海くん!」
「え、?」
「ああ、はい、」
「え、こんなところに抜け道があったんですね。」
絵画の描かれた壁に少しの隙間がありそれを引くと、金属製の階段が現れた。
「あの、朝陽を置いて行けないんですけど。」
まだ衰退しきった蒼白な様子で石台に寝転ぶ朝陽。
「ああ、大丈夫ですよ。また戻ってくれば良いので。」
「そうですか、」
「ほら、じゃ行きましょ!」
そう言って一段ずつゆっくりと狭い階段を登っていく。
「あの、そういえば巫さんは?」
「ん、本当だ、ゆめちゃんどこ行ったんだろ。」
「というか、柊さんあの漆黒の階段でいつから自分と逸れましたか?」
「それがさ、分からないんですよ。」
「佐海くんに背負ってもらって少しすると急に睡魔に襲われて、気づいたら見知らぬ部屋にいたから。」
「そうそう、それでさその部屋本当に怖くてさ。」
「え、怖い?」
「そう、なんていうか不気味なオーラが立ち込めてるというか。ほんと今にも幽霊出そうで、泣きそうだった。」
しばらく我慢していたがついに限界が来たため発する。
「ちょっと!柊さん本気で言ってるんですか。」
「今の現状を見てくださいよ。」
「首を切断された女性の遺骸を遺棄するため運んでるんですよ、それなのに幽霊が怖くて泣きそうだったとかいくらなんでも整理がつきません。」
「流石にさっきからあなたの言動はカオス過ぎますよ。」
「本当に自分おかしくなりそうです。いや、もうなってます。」
「くずくずうるさいな、いいからさっさと持てよ。」
優しい落ち着いた声が冷酷無慈悲な低い声に変わる。
「この女を殺したからなんだってんだよ。」
「お前もこいつが大勢の人殺してたところ見ただろ。」
「こんな女、百害あって一利なしの害虫なんだよ、少しは考えろよ惰弱者が。」
自分はあまりの驚きと恐怖で全身に戦慄が走る。
そうして唖然としていると、ふと記憶が蘇った。そういえば、初めて会った時自分が目を覚ますとこの人は洗面台で自分の血を見て笑っていたな。
「殺されて当然、な?分かるな。」
「ということで、愚問はやめてね佐海くん!」
さっきまでの恐ろしく低く、威勢のある声が一瞬にして高く幼い声に変換される。
ショートカットの前髪を掻き上げながら返り血を拭いゆっくり微笑む姿を見て、自分は何も発することなく天を仰いだ。
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