階層

海豹

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階層

31 闘い

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 首が熱く、痺れるような痛みを感じる。
ワイヤーロープで椅子と固定されているため身動き一つとれない。
冷や汗と身震いが一向に止まらず、情緒不安定に陥ったのか軽度の過呼吸が始まった。
「残るは天使の眼球、悪魔の聖水のみ。」
「現段階にて生贄と、大いなる力は揃った。」
「お前のおかげでな。」
「ああ、やはり絶品だ。力が漲る。」
まさかと思い熱を持った首を確認する。
予想通り、首から鎖骨にかけて流血していた。
教祖の女は舌なめずりをした後、口を大きく開けて犬歯を剥き出し笑った。
「お前の血は栄養価が高く、ヘモグロビンの含有量、鉄濃度も高い。」
「おかげで筋力、硬化力が通常の3倍まで跳ね上がりを見せている。」
「見るか?この私の力を」
そう言って石台に寝かせらていた女性を片手で持ち上げ座らせた。
ふらふらと俯いた意識の無い女性の顔が鮮明に見える。
「え!?」
「おい!!」
その女性の顔を見た瞬間自分の中に張り詰めていた怒りが爆発し憤怒する。
「おい!どう言うつもりだ!!」
「今すぐ朝陽を離せ!」
「ググッグググ」
身体を震わせながら歯軋りをし、怒鳴りつける。
教祖の女に対する憎悪や殺意が自分の中で著しく芽生える。
「おい、朝陽に傷一つつけてみろ、お前をぶち殺すからな!」
「あはははは、あははは。」
唾を飛ばしながら怒り狂う自分の姿を見て教祖の女は指を指し嘲笑う。
「お前如きがこの私を殺すだと!?」
「笑わせるな。」
教祖の女から笑顔は消え、死んだ魚の目で自分を見下ろし睨みつける。
その漆黒の目は闇そのものであり、魂が吸い取られるような感覚に陥る。
「そうか、なるほどな。」
「なるほど、そう言うことか。」
「お前は武者震いが起こるほどこの私を殺したいのだな。」
「いいだろう、なら、望み通り殺させてやる。」
「ただし、殺しきれなかった場合どうなるか分かるな?」
そう言って笑いながら朝陽の方に目をやる教祖の女。
「確実に私の息の根を止めなければこの女は血と肉へと化す。」
「準備はいいな功治。」
自分は教祖の女が醸し出す悪魔のような悍ましいオーラに圧倒され口が聞けず黙り込む。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうした。」
「S級ホープ、神より授かりし力を持った者として恥ずかしくないのか。」
「躊躇や慈悲はいらない"あの頃"のお前のように自分を解き放て。」
「仲間や愛するものを奈落から救いたいのであれば自らが立ち向かうしか無い。」
「人は皆、罪を犯す。」
「己の罪に対して懺悔するのではなく、己の罪を受け入れ許す人間になれ。」
「な?功治?」
その瞬間、教祖の女は眉間に皺を寄せながら、隣に座る意識の無い朝陽の腕に注射器を差し込んだ。
注射器を徐々に引き上げ、容器に真紅の血液が溜まっていく。
そして、限界まで引き上げると注射器を抜き、石台に朝陽を再び寝かした。
「さあ、ショウタイムだ。」
そう言って教祖の女は血液の入った注射器を握りロングコートを靡かせながら自分に近づいてくる。
顔の前まで近づき、肉食鳥のような鋭く赤い目を合わせ、自分の目を凝視している。
高く尖った鼻が自分の鼻に触れそうになるくらいまで近づき、自分の口を力ずくで抑えつけ無理矢理開かせられる。
そして、注射器の上部を指で吹き飛ばし中の血液を自分の口に注ぐのであった。
今まで感じたことのない旨み。
全身が芯から喜びを感じているのが分かる。
一つ一つの毛細血管にエネルギーが行き渡る。
ここまで全身に力が漲るような感覚は今まで経験したことがない。それに加えて、この良質な味わい、失神しそうになる程美味である。
そして、数十秒すると、全身の筋肉が肥大を始めた。それと共に、脳内シナプスの活性化が始まり知能が爆発的に上昇していく。
教祖の女はその異様なまでの変化に顔を引きつらせ後退りをしている。
止まらぬ高揚感と底なしの怒りが自分を支配し、目の前にいる教祖の女を本能がロックオンするのであった。
今すぐにでも叩き潰したいという狩猟本能と、人間としての倫理、いわゆる理性が8対2ほどの比率で自分をコントロールしている。
「素晴らしい、素晴らしすぎる。」
そう言って教祖の女は動転し、声を震わせている。
「ついに、私と対等にやり合える者が現れたか。」
「楽しみだ、楽しみだ。」
「おい、功治!手加減するな、全力を尽くせ。」
そう言って前傾姿勢になった教祖の女は、犬歯を剥き出し目を見開いて光の如し速さで周囲を動き回る。
自分は、全身の筋肉を拡張させ、何重にも巻かれたワイヤーロープを一瞬で弾き飛ばした。
それと共に、左の頭上から硬化した拳が物凄い速さで降ってきたため体を右に捻らせそれを間一髪で避ける。
すると、着地した教祖の女の拳が石畳を粉々に吹き飛ばし刹那な間、時間が生まれる。
それを見逃すことなく、右膝を硬化させた自分は左脚で跳躍し女の腹部を三メートル近くまで蹴り上げる。
ただ、S級ホープである教祖の女はそう簡単に攻撃を受けることは無く、空中で身体を捻り見事に避けて見せた。
ただ、自分は跳躍しすぎたことによる予期せぬ反動が生まれ、身体を少したりとも動かすことが出来ない。
その瞬間、回転によって生まれた遠心力を最大限に活用した飛び蹴りが、硬化が遅れた自分の下顎を吹き飛ばし血しぶきが舞う。
それと共に、全身にエネルギーが伝わり受け身を一切取ることなく石畳を十枚ほど砕き散らかし鳥居に背中を強打した。
だが、教祖の女は止めることなく自分の腹部、胸を交互に物凄い速さの打撃を連発で打ち込む。肋骨骨折、脊椎破損に加え下顎を無くした自分は口を閉じることが出来ず、血が下垂れ落ちる。
思うように身体が動かず、衝撃で視界もぼやけている。
しかし、それも束の間五秒程経つと出血が止まり、見事に肋骨から顎にかけて超再生が行われ、ぶちぶちに引き離された大胸筋の筋繊維も融合した。
完全修復はしていないものの痛みは無くなり、修復時の筋繊維が固く厚くなった。
ただ、教祖の女に今一つとして衝撃を与えられておらず、未だエネルギーが漲っている様子である。

















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