階層

海豹

文字の大きさ
上 下
15 / 42
階層ゲーム

15 コネクト

しおりを挟む


 嫌な予感がする。巫さんの言っていることは意味不明だが、少し思い当たることもある。
確かに、自分は中学時代の記憶というものを思い出すことができない。それを詮索したこともなければ、思い出そうと頭を捻ったこともない。
ただ、その記憶を思い出すことに、全身の強い拒絶を感じる。
もっと言うと、そのことについて考えるだけでも、気分が悪くなる。
二人の間に不穏な空気が流れる中、バスガイドが話し始めた。

「それでは三十分経過いたしましたので1st &2ndを終了とします。」
「今から30分間休憩です。その後3rdを開始いたします。」

重いまぶたを持ち上げる気力も無く、目を閉じた。そして、脳が現実逃避しようと睡魔を放つ。駄目だ今寝たら。

広大な大地、雲一つない晴天に遠くを眺めると地平線が微かに見える。
どこまでも続く野原、暖かくて心地よい颯々たる風の音。
ほのかな甘い匂い。
この匂いどこかで嗅いだことがある。
いや、高校時代日常的に嗅いでいたような。
そうだ思い出した。金木犀。そう、あの特徴的な甘い匂い間違いない。
でも、高校時代どこで嗅いでいただろうか。思い出せない。
それにしても、ここはどこだ。凄く心が朗らかになる。体の芯から温まっていくこの感じ。
自分は死んだのか。本当に天国のような場所だ。
なんだあれは?遠くの方に動くものが見える。
そして、その動くものに、引き寄せられるように近づいて行く。
あれは、犬?いや、違う。何かの動物だろうが、それが何か無性に気になる。
あれは、、狐か、
どうやら、数匹の狐が遊んでいるようだ。
近くで見たくて、少しずつ近づいて行く。
すると、足元に白くて美しいマーガレットの花が境界線のように横一直線に咲き誇っているのだ。
だが、ここをまたがなければ狐のところへは行けない。
恐る恐る足を上げ、マーガレットの向こう側の地へと足を下ろした。
その瞬間、暖かくて幻想的な野原が一瞬にして、冷たい寒冷地へと変わった。吹雪が吹き荒れる。凍えるほど寒く、吐く息が白く変化する。
周りには無数のソーラーライトのようなものが地に突き刺さっている。
何が起こったのか理解できず、狼狽えながら雪に埋まった重い足を引き上げる。
ふと、横を見ると数匹の狐は姿を消しており、子狐が一匹こちらを眺めている。
ただ、その子狐は、野原で群れていた狐と違い赤い目をしている。そして、自分をその目で凝視してくる。
何故かわからないが自分はその狐に興味を持ってしまっていた。いや、惹かれていたと言ったほうがいいのかもしれない。
ただ、その狐の首には金属のようなものが取り付けられている。それが何か気になり、少しずつ距離を縮める。
一瞬首輪かと思ったが、そんな優しいものではなかった。赤いランプが首の装置から点滅している。
まさか、もう一度周りのソーラーライトのようなものを確認する。
やはり、それはソーラーライトではなく赤外線を放つセンサーであった。そして、狐の首に装着されているものは、小型爆弾に違いない。子狐がある一定の範囲から逃げようとすると作動するよう設定されているのだろう。
でも、誰がこんなことをするのか疑問に思い、辺りを見渡すが誰もいない。
そうしていると、子狐が動き出した。
なぜか、子狐について行くことが最善の選択だと思い、自分も後をつけた。
少し歩くと、洞窟のようなものが見えてきた。
中から、とてつもない閃光を発しており思わず目を伏せた。
洞窟の中には、狐の心臓であろうものが装飾され、ぎっしりと壁側を埋め尽くし、灯籠と行灯が等間隔で並んでいる。
あまりに不快で、引き返そうと思ったその時、前を歩いていた子狐がこちらを振り返りまたもや、じっと自分を見つめてくる。
その目からは何とも言えない哀れみを感じた。そして、自分は後に引けなくなってしまい、再び後をつけた。
そうして、歩いていると辺りが暗く変化し、蛍光している鍾乳洞がいくつも連なっている神秘的な空間が現れた。
歩くたびに、地に被さる浅い水面が波紋を広げている。
それをぬけると、薄暗い空間に石でできた鳥居が現れ、その奥に、二重螺旋構造の形をした光る物体が宙を浮いている。
鳥居をくぐり光る物体へと近づく。
子狐は光る物体の前まで行き、自分を見つめた。
その物体は、多彩な色で構成された粒子のようなものが入り乱れ、形や色を変化させている。
その物体に少しずつ手を伸ばした。
そうすると、子狐は少し微笑んだように首を傾げる。
光る物体の粒子が自分の手の細胞に侵食していくのがわかる。そして、その粒子は体全体へと分離し移動する。何ひとつとして痛みはなく、むしろ心地よい。
体が冷たい水に溶け込んでいくような、融合していくような感覚。
目を開けるとそこは一面真っ白な無音の空間。全身が痺れるような感覚を覚える。

その瞬間、懐かしい声が背後から聞こえた。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

月明かりの儀式

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、幼馴染でありながら、ある日、神秘的な洋館の探検に挑むことに決めた。洋館には、過去の住人たちの悲劇が秘められており、特に「月明かりの間」と呼ばれる部屋には不気味な伝説があった。二人はその場所で、古い肖像画や日記を通じて、禁断の儀式とそれに伴う呪いの存在を知る。 儀式を再現することで過去の住人たちを解放できるかもしれないと考えた葉羽は、仲間の彩由美と共に儀式を行うことを決意する。しかし、儀式の最中に影たちが現れ、彼らは過去の記憶を映し出しながら、真実を求めて叫ぶ。過去の住人たちの苦しみと後悔が明らかになる中、二人はその思いを受け止め、解放を目指す。 果たして、葉羽と彩由美は過去の悲劇を乗り越え、住人たちを解放することができるのか。そして、彼ら自身の運命はどうなるのか。月明かりの下で繰り広げられる、謎と感動の物語が展開されていく。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

虚像のゆりかご

新菜いに
ミステリー
フリーターの青年・八尾《やお》が気が付いた時、足元には死体が転がっていた。 見知らぬ場所、誰かも分からない死体――混乱しながらもどういう経緯でこうなったのか記憶を呼び起こそうとするが、気絶させられていたのか全く何も思い出せない。 しかも自分の手には大量の血を拭き取ったような跡があり、はたから見たら八尾自身が人を殺したのかと思われる状況。 誰かが自分を殺人犯に仕立て上げようとしている――そう気付いた時、怪しげな女が姿を現した。 意味の分からないことばかり自分に言ってくる女。 徐々に明らかになる死体の素性。 案の定八尾の元にやってきた警察。 無実の罪を着せられないためには、自分で真犯人を見つけるしかない。 八尾は行動を起こすことを決意するが、また新たな死体が見つかり…… ※動物が殺される描写があります。苦手な方はご注意ください。 ※登場する施設の中には架空のものもあります。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。 ©2022 新菜いに

駒込の七不思議

中村音音(なかむらねおん)
ミステリー
地元のSNSで気になったこと・モノをエッセイふうに書いている。そんな流れの中で、駒込の七不思議を書いてみない? というご提案をいただいた。 7話で完結する駒込のミステリー。

声の響く洋館

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。 彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

短編小説集 つまらないものですが。

全力系団子
ミステリー
短編小説をあげます! 笑えるものやゾットするものなど色々あります。

処理中です...