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海豹

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階層ゲーム

13 自己紹介

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 一枚プリントを巫さんに渡して内容を確認した。

    階層ゲーム:ビギニング

1st   なるべく多く相手の性質を知りましょ  
  う。

2nd  相手の大きな秘密を一つ知りましょう。

3rd   ペアで協力して推理問題を作りましょう。(スクイードが関係します。)

※3rdについては次に配るプリントに細かいルール説明を記載しています。

なお、1stから2ndまでの制限時間は30分です。終わり次第3rdが始まるまで待機してください。3rdではバス車内の各ペア同士対戦を行います。

※重要項目※
階層ゲームではスクイードが通貨の役割を果たします。(スクイードが関係します)と記載されている項目は今後階層ゲーム本会場で生活するにあたり非常に重要となります。スクイードが手に入らなかった場合生活が非常に困難になりますので、くれぐれもご注意ください。


なんだこれは。1stから2ndまでは確かに自己紹介だが、3rdに記載されている推理問題を作るとは一体どういうことだ。それに、最も気になった部分がある。それは、階層ゲームではスクイードが通貨の役割を果たすと記載されているところだ。まだ、階層ゲームの全貌は分からぬが嫌な予感がする。
「おおー、楽しそうですね。」
隣を振り返ると巫さんが興奮して、笑みを浮かべている。今の現状を理解して興奮しているのか、何も理解してないからこそ生まれる興奮なのか自分には分からない。もし、後者だとするとここから先自分の足を引っ張りかねないと不安を感じた。その時前方から声が聞こえた。
「おい!バスガイドさん!」
「この重要項目とやらに書いてることマジで言ってんのか」
「そうだ!」
「これどうことだよ!」
下を向いていた全員の顔が前方に向いた。そして、皆同じことを考えていたのだろう一人の男に続いて共感の声を上げている。
それに続いてバスガイドが発した。
「安心してください。」
「勝てばいいだけですから。」
「おい!」
「ちょっと待てよちゃんと説明しろ。」
男は怯まず声を上げる。
「それでは、今から1st及び2ndを実施します。」
「制限時間は三十分です。」
「自分の性質、過去を他人と共有しましょう!」
バスガイドは叫ぶ男の声を無視して、微笑みながら話を進める。
「ただし、無駄話や関係のない話をした場合はそのペア両方のスクイードを一回につき50スクイードずつ減らしていきます。ご注意ください。」
「それでは開始3秒前」
「3」
「2」
「1」
「開始!」

「始まりましたね功治さん!」
「じゃ自己紹介しましょうか」
「あ、はい」
それにしても、巫さんは何ごともポジティブに捉えられる性格なのだろうか、そこは見習いたいほどだ。
「えっと、巫結芽、24歳、7月8日生まれで血液型はB型です!」
「こんな感じですかね、?」
やはり、こんな近距離でまじまじと眺めると一層美しさに目を奪われる。まあ、目の保養になり自分としてはありがたいが。
「功治さん、?」
「あ、すいません。自分の番でしたね。」
「えーと、佐海功治、24歳、11月3日生まれ、血液型はB型です。」
「あ!やっぱり同い年だったんですね。」
「年齢層が同じくらいの人と組ませるんだなってペア決めの時から思ってたんです」
巫さんも気づいていたのか。何も見ていない楽観的な性格に見えたがそんなこともなさそうだ。
「そうですよね自分も思ってました。」

「・・・」
 
まずい何から話せばいいか分からない。沈黙が続く前に何か話さないと。
「あの、」「あの!」
「あ、」
「すいません、」
「いえいえ、こちらこそ先走っちゃって」
巫さんも同じことを考えていたらしく一言目が重なってしまった。隣を見ると恥ずかしそうに顔を赤めている。
「功治さんからいいですよ。」
「じゃ、自分の趣味でも教え合いますか?」
「いいですね!」
「えっと、自分、趣味は結構あるんですけど、今ハマってるのは、筋トレと読書と魚釣りとソロキャンプですかね。」
「おおー!凄い!」
「魚釣りできるんですか!?」
「私一度もやったことないです!」
「どんな魚釣るのですか?」

これだけ大きく反応してくれるとポーカーフェイスの自分でも嬉しくてニヤけてしまう。
「まぁ、アユ、ニジマス、フナあたりですかね」
「へぇー凄い!楽しそう!」
「巫さんはどんなことしてるんですか?」
「そうですね、私は陸上の哺乳類を観察したりするのが好きですね。」
「へぇー!」
「あとは、プラネタリウムに温泉巡りなんかも好きです!」
「お!自分もよく温泉巡りしますよ!」
「本当ですか!」
「ええ!九州の温泉街辺りは何度も行きました」
「私も九州よく行きます!大分県の三大温泉なんていいですよね!」
「あー!あれは最高でしたね。」
これはチャンスかもしれない。神が与えてくれた千載一遇のチャンスに違いないはずだ。緊張で胸が苦しい。しかし、今この時を逃すと取り返しがつかなくなる。自分は決心した。
「あ、あの」
「どうしました?」
「よかったら、今度一緒に温泉巡りしませんか?」

「え!」

「もちろんです!」
「是非行きましょう!」
嬉しさのあまり飛び上がりそうになる。心の中で神に何度も感謝する。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ!」
「それじゃ自己紹介続けますか?」
「そうですね!」

アドレナリンやドーパミンなどの脳内物質が放出され気持ちが高揚している。

「じゃあ、家族構成について話すと、自分に兄弟はいなくて、両親は6年前に交通事故で他界しました。」
「それで、今はアルバイトをしながら一人暮らしをしてます。」
「そうなんですか、ご両親とは仲良かったんですか?」
「まぁ、それなりには良かった方だと思います。」
「そうですか、良いですね。」
「じゃ、凄くショックだったじゃないですか。」
ん?巫さんが何気なく放った、良いですねという言葉に違和感を感じた。
「はい、ショックでした。」
「私も、飼っていたハムスターが二ヶ月前に死んじゃったんです。」
「その時は凄くショックでしたね。」
「ミーちゃんって呼んでたんですけど、四ヶ月くらい前から、違和感を感じてたんですよ。」
「なんだか、ミーちゃん足を引きずるようになって、与えた餌も食べないし下痢ばかりして」
「だから、鎮痛薬を飲ませてあげたんです。」
「そしたら、狂ったように暴れて出して、よく見たら凄い速さで心臓が動いていたので、これは駄目だと思って、落ち着くように心臓を押さえてあげたんです。」
「そしたら、凄く落ち着いたから、藁のベットに寝かせてあげたら、それ以来起きてこなかったんですよ。」
「そんなことがあったんですね、それは辛かったですよね」
「ええ、凄く辛くて泣いてしまいました。」
「狂い出したと言ってましたけど、それはハムスターの鎮痛薬が合わなかったんじゃないですか?」
「うん」
「にしても、ハムスターにも鎮痛薬があったなんて初耳です。」
「あ、いや、私の鎮痛薬です」
「え?」
「人間用の鎮痛薬ですか?」
「はい」
「水に混ぜて飲ませたら、痙攣し始めたんです。」
何を言ってるんだ巫さんは、どのタイミングで冗談だと言うのだろうか。
「どうしました功治さん?」
まさか、本気で言ってるのか。平然としている巫さん。そういえば、さっき心臓を押さえて起きてこなくなったと言っていたような。
まさか、この優しい巫さんがそんなことするはずない。少しでも疑った自分を憎んだ。きっと懸命に助けようとしたけれども手遅れだったのだろう。
「いや、なんでもないです。人それぞれ悲しい出来事があるんだなと思って。」
「そうですよね!」
「巫さんはどんな家庭だったんですか?」
「んー、そうですね、」
「私の家は父子家庭で幼い頃から兄弟もいなければ母親もいませんでした。」
「それに加えて、自分が中学生の頃は父親はろくに仕事もせずパチンコばかり行って、家には素行の悪い女ばかり連れ込んで来ました。」
まずい、なんだが会話が重くなってきた。
このままでは、せっかくの巫さんとのハッピートークが暗くなってしまう。しかし、これから関わっていく上で相手の育った環境は知っておくべきかもしれない。
「そんなことがあったんですね。それは辛かったですよね。」
「いいえ。」
「むしろ嬉しかったです。」
「あの人のこと父親だと一度たりとも思ったことはないですし、それに無視されてる方が楽だったんです。」
「でも、自分が高校に上がってからあの人は私がアルバイトして貯めたお金を博打うちに全部使って、その時ばかりは私も反論しました。そしたら、顔にあざができるまで殴ってきたんです。」
「その当時は私も限界で自殺しようかと考えました。でも、それじゃあいつに負けたみたいで許せなかったので3年間我慢して、卒業とともに家を飛び出しました。」
「高校時代は勉強を頑張ったのでなんとか自分の憧れていた大学の薬学部に特待生で受かることができて、あの時が一番嬉しかったです。」
「大学は特待生のおかげでほとんどお金は免除してもらえたんですけど、一人暮らしするためにはアルバイトを多く入れなきゃいけなくて大変でした。」
「薬学部は六年制なので四月まで大学に通ってました。」
「それは、凄いですね!薬学部の特待生なんてそう取れるものじゃないですよ。尊敬します。」
「いえいえそんな大したことないです!」
今の話に一つ気になることがある。巫さんは大学の薬学部を特待生で入学したにもかかわらず、ペットのハムスターに人間用の鎮痛薬など与えるだろうか。
「巫さん、薬に詳しいんですよね。」
「まぁ、それなりには来年あたりには薬剤師免許を取りたいなと思ってます。」
「それじゃ、なぜハムスターに人間用の鎮痛薬を?」
「え、」
巫さんの笑顔が消え、宝石のように輝いていた目が死んだ魚の目に変わった。
「いや、」
「そんなこと別にどうでもいいじゃないですか。」
さっきまで朗らかに話していた巫さんの口調が暗く沈んだ低くい声に変わった。これはまずい、無意識のうちに気に触ることを言ったに違いないと焦りを覚えた。
「あ、いや、そんな、少し気になっただけで、」
「そうですよね、別にどうでもいいですよね、何言ってんだろ自分」
「いや、それにしても薬学部特待生は凄いなー」
正直なところ内心緊張で震えていたが、一刻も早くこの憂鬱な空気を変えようと必死で煽てた。
「ええ」
「功治さんは何学部だったんですか?」
その一瞬で、死んだ魚の目から宝石のような美しい目に変わり再び質問してきた。自分はその豹変ぶりについていけずにいた。
「あ、えっと、農学部です、」
「へぇー凄い!功治さんも理系なんですね!」
「はい、まぁ」
どっと疲れが出たのか自分の声に張りが無くなっているのを我ながら感じた。
「それじゃ、時間もきてるので2ndに移りますか?」
「そうですね、」
































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