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階層ゲーム
11 バス
しおりを挟む皆、兎角と言わず指示に従いバスに乗り込んでいく。AチームとBチームが一台目のバスへ、CチームとDチームが二台目のバスへと乗り込む。
偏見かもしれないが、未婚者もしくは独身らしき人々が多いように見える。確かに、あのような明らかに怪しいサイトに家族で申請して来るものはいないのだろう。
それにしても、観光バスにトイレが備わっているとはこれまた珍しい。高速バスには備わっているものが多いが、観光バスにトイレとは聞いたことがない。しかも、このバスは後部あたりが普通のバスより明らかに長いように見える。気のせいかはさておき、普通の観光バスでないことくらいは素人が見てもわかる。
「功治さん!ここですよ!」
「あ、すいません」
どうでも良いことを考えていたせいで不覚にも自分の席を通り越して奥の方へと進んでいた。男として巫さんの前で間抜けな姿は見せられないという焦りと、下の名前で呼ばれたことへの嬉しさが入り混じり不思議な感情であった。
自分たちはバスの中央より少し後ろ寄りの席に座った。
「功治さん」
「はい、」
「私が窓際の席に座ってよかったですか?」
「あ、全然大丈夫ですよ、自分そういうの気にしないので。」
「そうですか、じゃお言葉に甘えて」
言葉と共ににっこりと笑みを浮かべ目を見てくる巫さん。
至近距離で天使のような笑顔を直視することができずすぐに目を逸らしてしまった。先程から話すたび赤面しているのがバレているかもしれない。このままでは、動揺し過ぎていつも通りの会話ができそうにないと判断し音を立てずに深呼吸をした。
コミュ障でもなければ、女性慣れしていないわけでもない。高校、大学時代も友人や恋人はいた。ただ、こんな清楚で美人かつ優しい女性はめったにいない。高校時代付き合っていたMも同等に美人であったが、何を考えているのか分からず、少し恐怖を感じることもあった。数年前の記憶が遠い昔のように感じる。
「皆さん、本日はご乗車いただきましてありがとうございます。運転手をさせていただく山田と申します。」
「皆さんはこれから6時間半に及ぶバスの旅を楽しんでもらいます。」
「私物を預けて不安な方もいるでしょう。安心してください、あなた達に決して暇はさせません。」
「寝たい方は寝てもいいですよ。でも、目を覚ませばきっと後悔するはずです。」
口角を上げて微笑む運転手。隣では巫さんが小さく歓声を上げて手を叩いている。その様子が子供っぽくてなんとも愛らしい。
次に、運転手が女性バスガイドにマイクを渡した。
「皆さんこんばんは、長い旅のバスガイドをさせていただく道下と申します。」
「皆さんがバスでの時間を楽しんでいただけますよう努力しますのでどうかよろしくお願いします。」
「では、時間も迫って参りましたので出発とさせていただきます。」
「バス車内では盛り上がっていきたいので私がせーのと掛け声をかければ皆さんも続いてください。」
「いいですね、?」
「では」
「出発進行!」
「さあ、皆さも一緒に!せーの!」
「出発進行!」
皆一斉に掛け声を発した。なんだか、小学校低学年の時に行った遠足を思い出す。
それにしても、サービスがいいな。
「ふっ」
「ざっっ、、が」
「ん?」
「巫さん」
「今何か聞こえませんでしたか?」
「えっと、何か聞こえましたか?」
「あれ、」
「あ、いやなんでもないです少し耳鳴りが」
「大丈夫ですか?」
「すいません、たまになるんで心配しないでください」
明らかに聞こえた。アナウンスのマイクから鼻で笑うような音の後に何かボソッと言ったような。いや、気のせいか喫茶店で大きな雷鳴を聞いたせいで耳が不調を起こしたんだろうか。
バスがエンジンから破裂音を奏で、出発し始めた。観光バスは何年振りだろうか。すると、またもやバスガイドが話し始めた。
「皆さん、それでは隣のペアの方とこれから長い時間共に過ごすので自己紹介をしましょう!」
「それでは、今から自己紹介をする内容をまとめたプリントを回しますのでそれをもとに自分の過去や性質を相手と共有していきましょう!」
「相手を知るには自分から心を開かなくてはいけません。」
にっこりと微笑みプリントを回すバスガイド。皆、興奮しているのかバスの中は夜にも関わらず賑わっていた。隣を振り返ると巫さんが顔を赤くして目を泳がせていた。自分のことを話すのが恥ずかしいのだろうか。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
前に座っている中年のおじさんからプリントが回ってきた。
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