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アザミの中には

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 ようやくケブダーの話から解放されたサイラスは、メイドの案内で玄関に向かって歩いていた。
「もうお話は終わった?」
 玄関近くで、ルジーが待ち構えていた。
 お客様とお嬢様の話を聞かないよう気を利かせたらしく、サイラスを案内していたメイドが頭を下げて下がっていく。
「父様から何か情報がもらえた?」
「いえ、あんまり……」
「でしょうね」
 ルジーはまたフンと鼻を鳴らす。
「ま、まあ、この事は隊長に報告しておくから。せっかく誕生日パーティーが近いんだからさ、そんなにイライラしないで」
 サイラスはそうなだめたけれど、ルジーはまだ不機嫌そうにしている。
「ほら、せっかくのパーティーなのに、主役がぶっちょう面してたら台無しだよ!」
 その言葉に、ルジーはようやく機嫌を直したようだ。
「それもそうね」
 肩をすくめて、ルジーは少しだけ口元に笑みを浮かべる。
「じゃあ、予告状の件で分かったこととか、こういう捜査をするとか出てきたら教えてね」
「了解」
 返事をして、外に続く扉にむかう。
 後ろからルジーが小声で歌を口ずさんでいるのが聞こえてきた。

 アザミの中には誰がいる
 スリナにアラシャ、それから私
 アザミの影に四人は多い
 スリナにアラシャもいなくなれ

 それは小さい頃からサイラスも母や祖母から聞かされていた童謡だった。けれど……
(あれ? 歌詞がおかしい。『スリナにアラシャ』じゃなくて『リーヌとフィヴィア』じゃなかったっけ)
 興味を引かれて、サイラスが軽く振り向く。
「何?」
「いや、その歌、僕の知っているのと歌詞が違っていたから。メロディは同じだけどね」
「ふーん。これ、レリーザが歌っていたのを覚えちゃったのよね。こういうのって、地域っていうか場所によって違うんじゃない? 歌い継がれていくうちに自然と変わっていくものでしょうし」
「うん、まあ、そうかもね」
 とりあえず今は予告状のことだ。
 サイラスはケブダーの屋敷をあとにした。
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