姫と道化師

三塚 章

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二章

腐れ縁もまた切れにくく

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 まだパーティーは始まらず、参加者たちが連れとぼそぼそと話す声と、楽団の流す曲だけが気だるく響いている。
「では、ファネット。あなたはここで塔を出た方がいい」
 ラティラスはそっとファネットに囁いた。
「麗しき森の聖霊と別れるのは悲しいですが、あなたを危険にさらすわけにはいけませんから」
 そういってうやうやしく別れのお辞儀をする。
 ファネットは神妙な顔でうなずいた。
「はい、宿でお二人の帰りをお待ちしております。どうか、ご無事で」
「送ろう」
 騎士が森の聖霊の手を取った。
 二人は階段を下り、一階に広がる市の中を通る。
 もう参加者全員がそろったのか、受け付けも無くなっていて、外に続く扉は硬く閉ざされていた。そして鍵を下ろされたその扉の前に、人影があった。
 猫の耳と、尻尾をつけたタキシード姿。もちろん顔上部は仮面で覆われている。そして、真っすぐに伸びた茎の先端に、蓮の花を付けた形の、背丈ほどもある白い杖。杖の真ん中には黒い宝石が埋まっていた。
 ふざけた格好だが、おそらく出入りを整理する番人だろう。
 こういったパーティーでは、マナーとして退出は自由のはずだ。異様に思いながらも、ルイドバードはさりげなく番人に近付いた。
「妻が体調を崩してね。主催者にろくな挨拶(あいさつ)もなく申し訳ないが、失礼したいのだが」
 打ち合せをしたわけでもないのに、その言葉に合わせファネットはさりげなくうつむいた。その様子は本当に気分が悪いのを耐えているようにみえる。
「それはそれは。休憩用のソファを用意してあるので、そちらでお休みになられては」
 番人はぼそぼそと押し殺したように言った。
「いや、我が家より安心できる場所はないからな」
 どけ、と身振りで命ずる。
「誰も通すなとの命令でございます、ルイドバード様」
 はっきりと自分の名前を言われ、ルイドバードはそこでその番人が誰かようやく気づいた。
「ロルオン!」
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