吸血美女とピンクパーカー

三塚 章

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異変

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 学食は、いつもの通り賑わっていた。話題の移り変わりは早いもので、バスジャックの噂も、そろそろ下火になりかけている。
 軽く手をあげながらやってきたのは孝仁だった。
 黒ブチ眼鏡の奥の目は、なんだか疲れているように見えた。
 手にはまだ筆記用具とテキストを抱えている。
「おお、遅かったな」
「授業が伸びてさ」
「安心してください、ボクがきちんと席を確保してますよ」
 ケイの軽口に、孝仁はあいまいな笑みを浮かべながら席に座った。
「そういやあ、修は? 今日も来てないの?」
 結衣香が細い眉をしかめた。
 友達の浮気話をした日から、修は大学を休み始めた。連絡をすると体調を崩したとか言っていたので、皆しばらくしたら、また大学に帰ってくると思っていた。
 けれど、いつまでたっても授業に出てこないし、連絡をしても返信が返ってこないようになったのだ。
 孝仁が元気がないのも、友人の事が心配だからだろう。
「ああ。メールもメッセージアプリも、直(じか)に電話かけても応答なしだ」
 孝仁の言葉に、ケイは名探偵よろしく顎(あご)に手を添えた。
「う~ん、どうしたんだろう。ボクの所にも連絡きていないし」
 言いながら、念のためにもう一度スマホを確認してみたが新着はやっぱり何もない。
(もしも何かで大学に行けないなら、『頼む! 死ぬぅぅぅぅ 風邪薬と食べ物持ってきて!!』とかなんとか、メッセージでもよこしそうだけどな)
 ぼさぼさの茶髪と、ピアスを光らせた修がへらへらと笑いながら手を合わせる様子が頭に浮かんだ。
 同じ大学に一緒に通うなんて結構めずらしい事だとは思うけど、ケイと修、孝仁は高校こそ違ったが幼馴染同士だ。修は結構いい加減な奴だけど、この手の連絡は忘れるタイプではない。
 そう思ったが、カゼで寝込んでいて、スマホの画面を見るのも辛いのかも知れない。
「どうしたんだろうね」
 結衣香も心配そうだった。
 孝仁は「う~ん」と渋い顔をしている。
「なんか嫌な予感がするんだよな。アイツ結構マメに連絡する方なのに」
「まさか! 考えすぎだよ」
 そうは笑った物の、ケイも同じような予感を感じていた。
(なんだか、変なことばっかり起こってるな)
 誰かの浮気と、誰かの無断欠席。
 どれもちょっと珍しいことといえば珍しいことだけれど、前代未聞というわけではない。だけど、なんとなく心がざわつくのはなぜだろう。
「よっし、休みが続くようなら、あとで生死確認のために突撃しますか!」
(まあ、気のせいだよな、きっと)
 ケイはそう自分に言い聞かせた。
「三人揃ったら、あとでゆっくり食事でもしたいね!」
 心配なんかいらないと励ますように、結衣香が言った。
「実は、最近おいしいお店をみつけたの。『ペッシュ』っていうんだけど」
「なんか、炭酸飲料みたいな名前ですな」
 ケイが冗談を言った。
「天音さん……えっと、そこのレストランの人と知り合いになってさ。チラシをもらったから行ってみたんだけど、たまたま対応してくれたのもその人で。なんか、お店にも親近感がわいちゃったんだよね」
「ほ~」
「味もおいしかったからさ、今度行ってみようよ!」
「そうだな。早い所修も戻ってくるといいんだけど」
 いやな予感を感じたけれど、ケイはただ「そうだな」と笑った。
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